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?.セフィーのログ・エディット

「さて、と。ちゃちゃっと片付けちゃいますか」


事務仕事も終わり、ギルドの入口に鍵をかけた私は自分に言い聞かせるように喝を入れる。


まだ中には私と堅物(ガドル)とメランの3人が残っているが、堅物は姿が見えない。多分、奥で寝ているのだろう。


「セフィー、投影紙(とうえいし)の準備できましたよ」

「ありがと」


メランが気を利かせて壁に大きな紙をかけてくれたので、私は部屋の魔力(こう)を放っている光源を片っ端から消していく。


(投影紙、正確にはスクリーンって言うんだったかしらね……)


映像記憶(ムーブログ)の開発者がそんな事を言っていたはず。どっちでもいいんじゃないかとは思うけど、当人がうるさいので出来るだけそう呼ぶように心がけている。


ムーブログに関しても正式名称があると主張していた気がするが、一般的に認知され過ぎたためか最近は指摘をしていない。


何の拘りなのかは理解しがたい。呼び易いように呼んだらいいと思うのだけど。


私は投影……スクリーンの前に椅子を2つ並べて置き、片方に座る。いそいそとメランも座ったのを確認して、ツクモという少女の記憶が詰まった【パーミル結晶】を手に取った。


「……どうせあそこでしょ?」

「お察しの通り、【パーズ】のギルドが欲しがってます」


ムーブログ。パーミル結晶の魔力をコピーする性質を利用して、記憶を手軽に映像に出来るようにしたもの。


裁縫ギルドとか鍛冶ギルドでは『素材の加工講座』とか言う名前で製法の記憶が入ったものを売っていたりする。私も買った。


そのため、事情があってギルドに属せない人や無所属の人間に需要の高い品物だが、ウチに関してはその限りでもない。


他の街の冒険者ギルドはムーブログを商品にしていたりするみたいだけど、メジスのダンジョンは総じて魔物が弱いため映像記憶は需要が低い。


そんな理由でウチでは商品として扱う気もないので、ムーブログ用のパーミル結晶の仕入れを減らす事すら考えているくらいだ。


「絶対趣味よね……」


今回それを欲しがっている街、【パーズ】。ダンジョンとその素材の売買のみでも経済が成り立つと言われている街で、それだけ『魔物の素材』の利用価値が高い。


本来なら、そんな冒険者ギルドの大手がメジスのムーブログを欲しがる理由なんて無いのだけど……。


「【ユノキ】さん、亜人とか好きですしねー……」


『美男子の食事シーン』や『可愛い魔物の生体観察』など、なんにでも需要はある。


ムーブログの開発者かつ、パーズのギルド長【ユノキ】。


実在しない家名、存在しない地名が出身。更に経歴全てが謎に包まれている男。亜人が好き。


一流の冒険者として名を()せていたが、最近はその活躍は聞いた事がない。亜人絡みの噂はよく聞く。


(ちまた)ではムーブログを開発して稼ぐ必要がなくなったのではと(ささや)かれているが、パーズを知っている人は違う推測に辿り着く。


……ギルド長自ら、亜人をパーズへと勧誘しているのではないか。


「あそこ、明らかに亜人の割合おかしいでしょ。あいつの趣味よあれ」


そして、多分その推測は正しい。人の出入りが多いメジスですら亜人は1割も見かけないのに、パーズでは住民の半数が亜人。


「あはは……まあ、迷惑かけてないなら別にいいんじゃないですか」

「その趣味で、私達の仕事が増えてるけどね」


まあ、噂の真偽はともかくそのギルド長がツクモちゃんのムーブログを要求している。亜人関係だと大抵要求してくるので、いつもは断っていたのだが。


今回よりによって管理ミスと重なったため、突っぱねる事が出来なかった。……亜人で無ければ、多分興味もなかったでしょうに。


「ま、でもまさかソロとは思ってないわよね」

「私もツクモさんが1人で潜ってるとは思ってませんでしたけど……コルチさんがいたのかと」


このムーブログ、あくまで映せるのは本人の記憶。そのため、証拠としてのログは多人数の場合は全員分を提出する必要がある。


だが、ソロで潜っている冒険者のムーブログは1人のみが提出すれば良い。当たり前だけど、その場合『本人の姿』は映らない。


冒険者新米が被害者、と聞いてユノキはパーティを組んでいると思っていたはず。亜人見たさでログを請求した奴にとっては殆ど意味はないだろう。


ソロだと伝えておけばムーブログを要求される事も無かっただろうが、1度送っておけばあいつも満足するはず。元々メジスでは亜人の冒険者はそこまでいないため、また管理ミスが起きなければログを送らなくても良いという寸法だ。


(馬鹿な男ね……いや、本当に馬鹿だと思うわ)


メランから聞いた話だと、新米のデータを片っ端から調べて今回の被害者がツクモちゃん……つまり、猫亜人だと知ったらしい。


冒険者カードを娼館の名刺か何かと勘違いしているのではないだろうか。私はため息をつきながらも膝にパーミル結晶を置き、魔力を込めた。


「……よし」


魔力を込めて浮き出た映像を、投影紙……スクリーンに当たるように向ける。すると、暗い部屋に魔力光による映像が映し出される。


「取り敢えず、ダンジョン入るとこからでいいわね」

「ですね。音声は大丈夫でしょう」


ギルドによっては防音室とかあるみたいだけど、ウチには必要ないので作っていない。


一応触れていれば音声も聞こえるけど、ステータスさえ隠せばいいので手伝って貰う分には見るだけで十分でしょう。


ダンジョンに入るツクモちゃんの視点を眺める。結構きょろきょろしてたけど……景色が物珍しいのかしら。


そのまま暫くすると、あの子の言っていたノーガラットの群れが映し出される。この後、ビスティラットが出るはず……。


移動しながら物陰に隠れる辺り、様子をうかがって……と思ったけど、ラットに察知されて覗くのをやめたようだ。


足音が聞こえるから、近付いてるみたい。


「ローブの下、まだあれ着てたんですね」

「まあ、装備を作ってもらうとか言ってたからね」


岩陰から飛び出してノーガラットを掴み、群れへと投げている。その後、のしのしと出てくるビスティラット。


確定している訳ではないけど、ノーガラットより数倍大きな身体は間違いない。


「ステータスを見てますね。あれ、映像停止しました?」

「いや、止めてないけど……」


そのまま見ていると、ノーガラットを踏みつけながら他の個体の毛皮を掴みながら転がったのが分かった。


「ツクモさん、凄い戦い方ですね」

「そうね……」


隣で呟くメランに軽く同意する。格闘が主体の冒険者はいるが、ガドルのような大男ならともかくあの年ではなかなか見ない。


冒険者が基本的に武器を使う理由は、単純に威力が出るから。とはいえ、一部の冒険者は素手の方が威力が出ると聞いた事がある。


……彼女の理由はちょっと違う気がするけど。投げたり、岩にぶつけたり、尻尾掴んでまた……荒々しいわねあの子。ノーガラットの悲鳴、ここまで聞いたの初めてだわ。


すると、映像に合わせるようにビスティラットの甲高い鳴き声が聞こえた。


「あれ……鳴いてますよねこれ」

「あー、【招集】使われちゃったか」


基本的にノーガラットは同個体の群れなら逃げるけど、上位種がいると積極的に襲ってくる。


特に、ビスティラットは仲間を呼ぶので先に潰すのが定石……まあ、素手じゃ辛いか。


暫く映像が止まり、ツクモちゃんのステータスが表示されたため、映像を編集する。見る度にMPが減っているので、この停止はスキルだったようだ。


だとすれば結構消費してる気がするけど……大丈夫なのかしら。


動きがある時間まで飛ばすと、また彼女がノーガラットの尻尾を掴んでいた。さっきみたいに岩へ当てるのかと思ったが、急に視点がぐるぐると回り始める。


途中途中止まるが、周りを確認しているのかもしれない。


「これ、何を……景色が……」

「にゃーって言ってるわ」


「そういう事では……え……何故……?」


その後、定期的にノーガラットが飛んでいく。ビスティラットをこれで倒したという事か。


隣で見ているメランは辛そうだ。ソロ冒険者のムーブログってそもそも酔いやすいし、ツクモちゃんのは本格的に酔わせに来ている気がする。


「すいません、お茶汲んできます……」


私は問題ないもののメランは流石に限界だったみたいで、席を離れた。


そのまま暫く見ていると、ラット達を見回しながら雄々(おお)しい口調でラット達に挑発をしているのが聞こえた。


話し方が変わった時は、ガドルの奴の口調を真似ていたのかと思っていたけれど……元々こういう喋り方だったのね。


(ツクモちゃん、やっぱり変よね)


本人は記憶喪失だと言っていたが、ここまでの映像や行動を見る限り、彼女は記憶を失っていないのではないかと思う。


今日の朝は、その口調から男である可能性を考えていた。確か、呪いで性別が変わったり魔物にされるという事例は少ないがあったからだ。


とはいえ、ギルドの登録証までは絶対に誤魔化(ごまか)せない。隠す事は出来ても、捏造(ねつぞう)は不可能のはず。つまり、間違いなく彼女は『猫亜人の少女』。


(……うぅん)


ギルドとして素性(すじょう)(さぐ)る必要はなくても、私個人としては気になる。


……男口調の亜人少女の謎は深まるばかりだ。


(あの格好だから、女の子らしさもあんまり感じないのよね。今度、無理矢理にでも何か着て貰おうかしら………あ、ビスティラット倒してる)


考え事を中断して映像に意識を向けると、彼女は何かを呟きつつ布を脱ぎ始めていた。


言葉からして、何かを作ろうとしているようだ。着々と布の上に近くの小石を載せている。


……彼女が今地面に敷いている布。最初に着ていた物だ。


「……脱いだの?誰もいなかったとはいえ、下着姿で……無防備ね本当」

「えっ」


すると、いつの間にか戻ってきていたメランが声を上げる。必死に何かを思い出す素振りをしているが、どうしたのだろう。


「どうかした?」

「いや、あの、ツクモさんって下着はつけてなかったような……」

「……えっ、ならあの子って今……」


スクリーンには女性として恥じらいを持つべき部分はギリギリ映っていないが、映りこんだ肌色の面積は彼女が生まれたままの姿である可能性を示唆(しさ)している。


「ステータスだけ隠す……のは不十分ですかね……」

「これ、ここだけ隠しても逆にいかがわしくなる気がするんだけど……」


頭を抱える。ツクモちゃんはステータスだけ隠せばいいなんて言っていたけど、これは流石に問題だ。


ギルド全体で共有する可能性もあるので……大変な事になりかねない。これで送ったら私達が怒られそう。


(というか、昼間に会った時ローブ1枚だったって事じゃ……)


あの子、服とかちゃんと持ってるのかしら……?

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