26.熟考
【招集】を使ったビスティラットのMPは『27/52』まで減少していた。
恐らく消費MPは25……燃費の善し悪しは分からないが、もう1回使えると考えれば俺の闘志を挫くには十分だ。
もうちょっと消費してくれれば……なんて念じた所で、それを叶えてくれるような優しい世界ではない。
「ふっ……はは……」
ストレスでおかしくなってしまいそうだ。変な笑いが込み上げてくるあたり、既に多少おかしくはなっている。
――だが、不思議と俺の頭は冴えていた。追い詰められている事で、良くも悪くも選択肢が減り、取れる行動が限られてくるからなのかもしれない。
高速思考を使い、擬似的に止まった時間の中で自分のステータスを確認する。
――――――――――
名称:ツクモ
性別:♀
Lv:5
種族:亜人(猫)
状態:正常
HP:78/78 MP:52/95
戦闘スキル:
【高速思考.lv2】
スキル:
【魅力.lv1】【鑑定.lv4】【観察.lv1】【ステータス閲覧.lv2】【隠密.lv3】【体術.lv2】【鈍器使い.lv1】【自然回復.lv1】【根性.lv1】
特殊スキル:
【複魂.lv1 1/1】【道連れ.lv2】
――――――――――
先のレベルアップで恐らくMPも回復しており、1発も食らっていないおかげでHPも上限の78もある。とはいえ、目の前の巨体に対抗できる程のHPではない。
(ビスティラットを【道連れ】……。俺には復活スキルがあるから、それを使えば倒せる)
頭によぎるは最強コンボ。自分が復活する事を利用し、相手だけを殺すというお手軽なもの。
だが、俺には1つ懸念があった。それは、【複魂】の発動条件……それが想像通りなら、このスキルは使えない。
……思考は続行だ。ここで間違える訳にはいかない。
――――――――――
複数の魂を持つ。自身が死亡した時に魂を生命力と魔力に変換し、在るべき形へと戻す。
――――――――――
頭に浮かぶのは【複魂】のスキル説明。最初にこれを見た時、このスキルを『復活スキル』と断定した。
(ここまで、勘違いはない)
だが、岩にぶつける時に流し見たノーガラットのステータスには、『HP:0/70』の表記と共に『状態:気絶』とあった。
このスキルは、死亡する事で全快できると考えていい。だが、HPがゼロになる事はイコール死、ではない。
(本当に説明通りって事だとすれば……)
ガドルと戦った時……腕を切り飛ばされ、その状態でガドルに殴りかかり、途中で気絶。恐らく、あの時にHPがゼロになったのだろう。
だが、【複魂】は発動しなかったと思われる。発動条件は『死亡すること』だから、治療が間に合ったと考えれば妥当だ。
死亡しなければ発動しない。HPがなくても、治療が間に合えば直ぐに死亡する訳ではない。だが、裏を返せばそれは「【複魂】の発動タイミングは分からない」ということ。
(ビスティラットを道連れに出来るとして……いつ、復活する?)
腕1本で当時54くらいあったHPが無くなったなら、ビスティラットの体当たりを頭にでも食らって道連れにすれば……ビスティラットは倒せる。
だが、死亡した時点で直ぐ復活するのかは不明。ましてや、ビスティラット以外の魔物もこの場には存在する。
野生動物が死にかけの肉をどうするか、なんて判りきっている。その場で食べるか、巣穴に持ち帰るか。
後者なら、俺は復活した時点でラット達の巣穴の中。その時点で死亡確定だ、ビスティラットがこの1体のみとは思えない。
前者だとしても、ノーガラットは群れで行動する生き物ならば、今以上の数がここに来る可能性がある。
【道連れ】には、出来ない。【複魂】も、頼りには出来ない。
最強コンボなんて思っていた自分が恥ずかしくなる。
再起不能レベルの自爆が必須、その後の安全も保証されていない……とんでもない最凶コンボだ。
自身のステータスボード、そのMPの欄には『20/95』と表記されていた。とはいえ、絶望的である現状の自覚のためだけにMPを浪費した訳ではない。
(どうすればいいか……思いついたぞ)
元々、【道連れ】なんてものはチートだ。復活なんて、言うまでもないだろう。
――今この状況は、そんなズルが通用しない。それだけだ。
「……ふっ!」
【高速思考】を解除し、突撃していた死に体のノーガラット3匹の体当たりを避ける。
体力も尽きかけているからか、動きにキレがなく避けやすい。集まりかけていた方のノーガラットも、こちらをしっかりとは認識出来ていない。
「チュッ!?」
その内、1匹の尻尾を体当たりを避けて手で掴む。
「にゃひ……。ははっ……」
洪水のような抑えきれない感情の波に自然と笑いが込み上がり、尻尾を掴む両手に力が篭もる。
俺は全身を使いながらその灰色を引き寄せるように引き摺り――。
「……にゃァァッッ!!」
――ぶん回した。