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22.採寸

奥の部屋には炉や黒ずんだ金床があり、作業場である事は一目瞭然だった。


開けっ放しの天窓のような所が通気性を確保しているのは判るが、部屋の熱気を考えると十分なのかは疑わしい所だ。煙やらが捌ければそれで良いという事なのだろうか。


「測るぞ。ローブを脱げ」


言われた通り俺はローブを脱ぎ、中の布1枚になる。


自分の腕を通すために空けた穴もボロボロになってきているため、破れるのも時間の問題だろう。


「……あいつがあんな注文した理由が判ったわい」


ゲーモはそう呟くと、細長い紐のような物を取り出し俺の身体にあてがう。

腰や足回り、胴と足の長さを測るように印を付けているようだ。詳しくないのでよく分からないが、これがメジャーの代わりなのだろう。


「猫娘よ、下っ端娘とはどういう関係なんだ」

「…………、……同居人?」


猫娘というのが自分を指す事を理解するのに時間は要したが、その後の質問にも頭を悩ませた。


なんだかんだ依頼にも一緒に行ったが、コルチとは今日会ったばかりだ。どんな関係、と言われても困る。


ゲーモは少し間を置いて、手は止めずに話し出した。


「ああ、龍の雫で世話になっとる仲間って事か。まあ、その格好からして放置は出来んよなあ」


なかなか気にしているところをついてくる。好きでこの格好をしている訳ではない事は察しているのだろうが。


「まだ測るから、その辺の物でも見てろ」


ゲーモは俺を放置し、近くにあった机で作業をし始めた。



――――――――――



「これいいな……」

「ほう、判るクチか」


俺としても鍛冶屋という職業は物珍しい。そのため、武器について色々聞いていたら俺の反応を見てか、実物をいくつか持ってきてくれた。


やはりこういう物はいい。惜しむらくは今の身体では大剣を振り回せない事だが、やはり武器という物は男心をくすぐる物がある。


俺が取り回せそうな武器でも、刃渡りが50cmくらいのナタのような無骨な片刃の剣。角張ったバットのような四角柱の棍棒。ただ刃物としての機能を感じさせる片手剣。


派手という訳ではないが、どれも武器としての良さ……機能美とでも言うのだろうか、そういった物を感じた。


「いや、特に詳しい訳じゃない。なんとなく良さそうってだけだ」


「その方がよい。他の奴はやれ魔力付与だやれ装飾だで気付かんが、やはりこういう物は元の造形あってこそ。蘊蓄(うんちく)ばかり垂れ流す奴はそういう所に気付かんから―――」


武器絡みで何かあったのだろうか。若干愚痴と化している話を聞きながら俺は武器を見る。


意外と素手でも魔物相手に渡り合えるのは判ったが、剣を使っていたコルチの方がスマートに倒せていた。やはり、俺も少しは武器を使う事を考えるべきだろうか。


そんな事を考えていると、気を良くしたゲーモは武器の特徴や使い方を教えてくれた。


生前の記憶さえ曖昧な俺には語れるエピソードはないため、ゲーモの話に相槌を打っていただけではある。だが、興味のある分野はどれだけ聞いても飽きない物だ。


とはいえ、流石に遅くなりすぎてはコルチやガドルに悪い。切り上げるためにも、そろそろ計測はいいのかと聞いてみた。


「―――む、そうだな。十分だ。後は……ツクモ、ラットは狩れるか?」

「一応。ノーガラットなら今日コルチと狩ってきた」


「そいつでいいか。5匹分の素材が必要だ。今度持って来い」


俺は了解の意を込めて頷く。

素材の解体はどうしようかと思ったが、ゲーモがやってくれるそうだ。となると空間魔法に詰め込む必要があるが……どのくらい入るんだろうか。


「ま、ノーガラットくらいなら大丈夫だろう。そろそろワシは寝る」

「ああ、徹夜してたんだったな。今日はありがとう」


俺は武器を片すゲーモの後ろ姿を見ながら、鍛冶屋を出た。




見覚えのある表通りに出る。未だ人通りの多い夜の街中、空には丸い発光体が浮かびその喧騒を照らしている。


(この世界、月とか有るんだな……)


よく見れば月ではないような気もするが、俺は夜に空に浮かぶ丸い物を他にどう呼ぶかを知らない。


空は星々が(きら)めいていて、森や部屋から見た時とはまた違う(おもむき)があった。


「あら、ツクモさん。お帰りですか?」

「あ、メラン。……さん。えっと、鍛冶屋の帰りです」


突然聞き覚えのある声に名前を呼ばれぴくりとなる。聞こえた方向を見ると、受付で見た格好のままのメランがこちらに微笑んでいた。


「気を使って頂かなくて結構ですよ。何ならコルチちゃんと話す時みたいに砕けて話して下さってもいいですし」


「……ん……。なら、遠慮なくメランって呼ばせて貰おうかな」

「やっぱりそちらの方が素なんですね」


またこの手の申し出だ。流石に3回目ともなると俺も慣れてはくるが、そうなると逆に気になる事も出てくる。


「……そんなに俺、わかりやすいかな」

「はい、結構。ツクモさん、話してる時無理してるのはわかります」


そこそこショックだ。

別に猫を被る事に自信を持っていた訳でもないのだが、見抜かれているとただ背伸びしようとしている子供に見えていたのではないだろうか。


「自分で言うのもなんだけど、驚かないんだな」

「……その口調に、ですか?」


彼女は少し考えて、言葉を更に続ける。


「私も結構色々な方と話しますし、女性でも男口調の方もいらっしゃいますから」


それもそうか。受付の仕事がどういう物かは兎も角、人とよく接触する事は確か。


コルチの話から考えれば冒険者は個性を押し出す職業らしいし、女性でも男口調はそこそこいるのだろう。


「ツクモさんほど若い方だと初めてですけどね」


メランは付け足すようにそう告げる。


そもそも、俺くらいの年齢が冒険者になるのも珍しいんだろうな。最初にギルドに入った時、そこそこ視線を感じたし。


「メランは今、仕事帰りなのか?」

「いえ、ギルドの買い出しに出たところなんです」


言っては何だが、ああいう所の受付って大変なんだな。ギルドも仕事斡旋の場所、って言うよりは食事処……居酒屋みたいな面がある気がする。


現にカウンターの奥には厨房のような所もあったし、冒険者カードを取りに行った時も受付で話すよりテーブルでパーティメンバーと話に花を咲かせている面々の方が多かった。


「手伝おうか?」


「……。ふふ……お言葉に甘えてもいいですが、コルチちゃんが待ってましたよ?」


「……あー……それもそうだな、急いで帰るよ」


メランは一瞬呆気に取られたような顔をしたが、またすぐ微笑みを浮かべてこちらに返答を返す。


まあ、俺みたいな子供に「手伝う」って言われれば笑うよな。こちらも言ってから気付いたが、仮に男だったら何か下心があるように疑われても仕方ない。コルチを待たせているのも事実だ。


結構変な印象を植え付けてしまった気もする。喋り方を気にしなくていいとは言ってくれたが、女子供である事くらいは気にすべきだろう。


「じゃあ……メラン、仕事頑張って」

「ツクモさんも、おやすみなさい」


メランに別れを告げ、夜の街へ向き直る。


流石の夜の街もその様相は昼とは完全に違い、落ち着いた雰囲気を纏っていた。人が多いとはいえ、その面々は紳士淑女とでも言うべきだろうか。

所々若々しい男女もいるが、それでも今の俺に比べれば倍近い差がある。


俺が場違いなのは考えるまでもないだろう。【隠密】を使いながら闘技場……いや、訓練場へと向かった。


やっと例の部屋へと戻ると、コルチは既にベッドにその身体を横たえていた。待っていてくれたのだろうが、そのまま寝てしまったのだろう。


(まあ、遅くなったからな……)


俺はコルチに布をかけ、姿見の前の椅子に腰掛けて目を閉じた。

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