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21.鍛冶

ダンジョンから帰ってきた時はまだ青が空を埋めていたが、その色は既に変化していた。浴場で色々あった間にかなりの時間が経っていたようだ。


もう少しで夜になろうというメジスの街中をコルチに連れられて歩く。来て直ぐも感じていたが、今も人通りが多い。


あの時は昼間だったが、今の夕焼けに染まる街並みを見てもしんみりとした感情すら湧かない程の活気だ。昼夜問わず賑やかな街なのは疑いようもなかった。


街並みを見て気を紛らわせていた俺は、コルチにずっと気になっていた事を指摘する。


「コルチ、何で手を繋いでるんだ」

「お互い背が高い訳じゃないっスから、はぐれないようにしたいんスよ。人混みだと見失いそうですし」

「いや……。……まあ、そうだな」


そんな事はない、と言おうとしたが現状を考えて同意する。


肉体年齢から考えれば妥当だが、街を賑わせている人達に比べれば俺は確実に小さい部類に入るだろう。そんな体躯の俺が人混みではぐれようものなら見つけ出すのは難しい。


……だから、事情を考えれば手を繋いでおくのは正しいのだろうが。

結局のところ、()()にならないために手を繋いでいるという事実は若干情けない気分になる。


気にしなければ意識しないと信じ、俺はコルチに話しかけた。


「これ、どこに向かってるんだ?」

「鍛冶屋っス。姉御の装備作ろうって話したじゃないっスか。すぐには作れないでしょうけど、話は早めに通しとくべきっスよ」


そう言いながら人通りが少なくなってきている道を俺の手を引きながら進む。


そのまま明らかに裏通りと言える方向に進む彼女を見て、流石に不安になり声をかけた。


「本当にこっちなのか?……本通りから外れる気がするんだが」

「あたしの行きつけがこっちの方なんスよ。まあ、ガドルの兄貴の紹介だったんスけど」


裏通りを慣れた様子で進むコルチは、少し進んだ所で足を止めた。


「ここっス。こんばんはー!」

「お邪魔します」


中はいかにも鍛冶屋といった出で立ちで、土の床には金属の欠片や、壁には武器が所狭しと置かれている。

見ようによっては武器屋にも見えるが、乱雑に置かれたそれらを見ると刃のない鉄の棒であったり、物として未完成な物もある事から商品でない事は想像できた。


鍛冶屋なんて見た事ないから実際の所はどうだか知らないが、鉄臭い空間である事は間違いない。


そんな場所に不釣り合いな元気な声が響く。


「親方いるっスかー!……いないんスかー!?」


「……うるせぇぞ!入って来た時から聞こえとるわい!」


奥から首を回しながら出て来た男性……そこそこいい歳に見えるが、ガドルとはまた違う太い腕や足がいかにもな鍛冶屋の雰囲気を醸し出している。


エプロンに似た作業着を着て髪と同じ茶色の髭をたくわえた男は、頭を掻きながら口を開く。


「徹夜明けに大きな声を出すな下っ端娘、頭に響く……ん、そこの嬢ちゃんは誰だ」

「徹夜明けだったんスか親方、悪かったっス。で、この亜人の子は―――」


観察している最中、俺を紹介されそうになった事に気付きコルチを止める。


「コルチ、自己紹介くらい自分でやるから……こんばんは、俺はツクモって言います。装備を作って貰いに来ました」


「ふん、そんなこまっしゃくれた喋り方されると気持ち悪いわい。楽に喋れ嬢ちゃん」


……。この人もコルチと似たような事を言うんだな。


俺としてもこちらの方が喋りやすいが、11の子供が呼び捨てするのってどうなんだろうか。

コルチはともかく、この歳のおっさんにまで言われると俺が気にしすぎなのかとすら思える。性格の問題もありそうだけど。


「わかった、そうさせて貰う。ええと……」

「ワシは【ゲーモ】だ、呼び捨てでいい。言っとくが親方なんて付けんでよいぞ。……で、何しに来たって?」


ゲーモと名乗った男は適当な椅子を傍から引っ張ってくる。彼がそれに腰掛けたのを見て、俺は先程言った言葉を繰り返す。


「装備を作って貰いに来たんだ」


「はあ……装備と一口に言うても種類があるのは判るか?ワシに何から何まで考えろとでも言うつもりか」


「もー、徹夜明けで疲れてるのは判るっスけど……ツクモの姉御、冒険者カード出して下さい」


俺の要望に呆れるゲーモに、助け舟を出してくれたコルチ。彼女に言われるまま冒険者カードを取り出して見せると、ゲーモの表情が真剣な物に変わった。


「なんだ嬢ちゃん、龍の雫のとこの奴だったか。ガドルの奴……」


納得した顔をしながら、ガドルの名前を呟く。明らかに態度も変わった辺り、俺はさっきまでなんだと思われていたのだろうか。


「で、装備か。ワシはお前の事は良く知らん。もっと言えば戦い方も知らんから、要望があるなら言え」


そもそもここに来たのもコルチの提案による所が大きいため、俺自身がこうしたいという欲求は薄い。


「俺としては、最低限急所が守れて動きに支障が無ければいいんだが……」

「じゃあ、そうっスね……親方、普段着代わりに出来る感じの革鎧、作れます?」


コルチが俺の意見を纏めてくれたが、そういうのって鍛冶屋の領分なのだろうか。

俺が首を傾げていると、当然の如くゲーモからため息が漏れる。


「……下っ端娘、ここを裁縫ギルドか何かと勘違いしとらんか?」

「こんな鉄臭い裁縫ギルドないっスよ」

「鉄臭えって判っとるなら頼むモン考えろ」


まあ、そうだよな。明らかに武器とか専門の所に防具を頼みに来て、しかも鉄製品でもないとくればこうも言われるだろう。しかし、ゲーモは続けてこう言った。


「まあ作ってやるわい。そこの猫娘、奥に来い」


「え?」

「採寸しねえと作れねえだろう。適当でいいなら別だがの」

「あ、ああ。お願いする」


作って貰える事に驚いただけだが、訂正する程の事でもない。同意すると、後ろにいた少女が声をかけてきた。


「あたしは先に帰ってて大丈夫っスか?ガドルの兄貴に遅くなるって伝えとくっス」

「……あー、そうだな。道は覚えてるから先に帰っててくれ」


俺はコルチを見送って、採寸を受けにゲーモの作業場へと向かった。

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