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19.野鼠

道の先には大きなネズミが2匹。ステータスを見ようかと思ったが、気付かれる事を思い出し、堪える。


どうするか目配せしてみると、コルチは小声で話しかけてきた。


「群れのはぐれっぽいですね。あたしが先に出るので、片方頼みます」

「了解」


剣を構えつつ物陰から飛び出すコルチを当然のように2匹は補足する。


コルチが飛び出して少ししてから、俺はそいつらの後ろへと密かに回り込んだ。


コルチの方に気を取られているが、迅速に事を進めなければ勘づかれる。


素足とはいえ、全力で近付いた俺の足やローブが音を立てると、ネズミはそれに気付き声を上げる。


「チュ!?」


物音に気付いたネズミは振り返ろうとするが、俺は既にその体毛を掴んでいた。自分の状況に気付いたようだが、もう遅い。


「チュゥ!?」


更に灰色の背中に膝蹴りを入れると、怯んだネズミが鳴き声を上げた。


「ふんっ!」


そのまま背筋を使い、引き抜くように持ち上げる。


片手で掴まれたまま空中に投げ出されたネズミの頭を下にし、もう一方の手で押し込むように勢いを加算させ地面へと叩きつけた。


何かの折れる音を鳴らし頭から着地したネズミに、すかさずステータス閲覧を使用する。



――――――――――

Lv:4

種族:ノーガラット

状態:死亡

HP:0/60 MP:16/16

戦闘スキル:

【体当たり.lv1】

スキル:

【隠密.lv1】

――――――――――



HPが残っていたらどうしようかと思っていたが、流石に即死だった。残っていても追撃したが。


ステータス的にはそこまで脅威ではないが、はぐれと言っていたし集団で戦ってくる魔物なのだろう。


「……なんというか、荒々しいっスね」


手伝おうとコルチの方を見ると、コルチは既にもう一匹を仕留めていたようだ。

ネズミはその脇腹を切られ、絶命している。


最初に引き付けた時点で、どちらも相手取れるようにはしていたのかもしれない。


「1つ群れを潰すのが目標っス。そしたら引き返しましょ、姉御」

「わかった。まあ、これで引き返しても依頼達成にはならないよな」


剣を持つ彼女に先導されながら、ローブの袖をまくる。

裾が地面に付かないだけマシだが、戦う時にこのローブは邪魔だ。


道すがらノーガラットの死体をどうするか聞くと、放置でいいそうだ。素材も欲しい時に取れば十分なのだとか。


暫く無言で進んでいると、コルチがぼそりと呟いた。


「カードは貰ってますし、不安は無かったんスけど。その戦い方は予想外っス」

「……変えるべきか?」


持ち上げると楽なのだが、やめた方がいいのだろうか。個人的には楽なのだが。


「いや、むしろ一撃で倒せるならそうした方がいいと思います。基本的に10匹以上は群れてるんで」


その返答にほっと一息つくが、そう何匹もいるとなればさっきのように戦うのは厳しい。どうにか戦い方を工夫しないといけない。


すると、新しい戦い方を考えている俺を見て、コルチがそっと話しかけてきた。


「……ちなみに、駄目って言ったらどうするつもりだったんスか?」

「尻尾を掴んで振り回す、とかかな」


「あたしを巻き込みそうっスね、それ」


中々いいアイデアだとは思ったのだが、味方がいるのに振り回したりなんてしたら確かに邪魔だろう。


俺が他の対集団の戦法を考え込んでいると、コルチは苦笑いしながら呟いた。


「なんというか、あたしの中の猫亜人のイメージが崩れそうっス」


一瞬それが自分を指している事に気付かなかったが、言われて自分が猫亜人だった事に気付く。


どうも、猫亜人と呼ばれる事に慣れていない。いや、普通はそうなのだろうが。


「どんなイメージがあったんだ?」


「まず、猫亜人の冒険者って殆ど見かけないんスよね」

「猫亜人……あれ、いなかったか?」


確か、メジスに着いた時に明らかに亜人はいたし、その中に猫っぽいのもいた気がする。


「いや、それは多分普通の移民さんっス。メジスに亜人の冒険者は殆どいないはずですね」

「へえ……ん、ラットがいるな」


「群れっスね。不意打ちで1匹やるんで、そのまま片付けましょ」


俺達はタイミングを合わせてラットの群れへと突撃した。


色々聞きたい話もあるが、まずはネズミ……ラット退治に集中だ。



――――――――――



――結論から言えば、依頼は無事達成した。


3匹は俺、他全てはコルチが倒した。それに最初のはぐれを足して、4匹が俺の戦果だ。


あれから特に怪我する事も無かっのは、最初にコルチが1匹倒した時点でノーガラットが逃げ出そうとしていたからだろう。


逃げ出すネズミに対して掴み投げは連発しづらく、コルチが殆ど一掃。どのくらいだったかは覚えていないが、俺の4倍は倒していたと思う。


「お疲れ様っス」


今はギルドへと戻り、報告を済ませて椅子に座っている所だ。


テーブルにはパンが皿に置かれ、それぞれの手元に豆のスープが用意されている。


「お疲れ様。ラットが逃げるとは知らなかったぞ」

「逃げるから安全だって伝えると緊張感が無くなりますから。じゃなきゃ流石に防具も無しで行ったりはしないっスよ」


「ああ……確かに」

「早く仕留めないと殆ど逃げちゃうんで、量倒すなら簡単って訳でも無いんスけどね」


コルチは報酬の硬貨の入った袋から中身のぴったり半分を数えて取ると、そのまま俺に渡してきた。


「等分でいいのか?俺より倒してただろ」

「ツクモの姉御を誘ったのはあたしですし、こういうのは頭数で割らないとトラブルの種っス」

「そういうもんか」


そこまで遠慮出来る余裕がある訳ではないので、有難く受け取った。一瞬、この世界に貨幣制度があってよかったと思ったが、この袋の中身がどれくらいの価値か判らない事に気付く。物々交換の方がまだ価値が判ったかもしれない。


……まあ、そんなに多くはないだろう。


コルチはわざと黙っていたが、結局逃げるネズミを追いかけ回して狩るだけの依頼だ。森で戦ったゴブリンやらウルフやらと比べると明らかに安全が過ぎる。


……ダンジョンの場所は判ったので、今度は1人で潜ってみよう。流石にこの魔物なら1人でも狩れるし、何よりレベルを育てたい。


というのも、魔物を倒せば何か覚えるかと思ったがスキル入手はおろかレベルアップもしなかったのだ。スキルはまあ行動で手に入るので納得出来るとしても、レベルアップの仕組みが分からない。


経験値が足りていないのか、それとも経験値を得られる戦いでは無かったのかはわからないが、それに関しても判るはずだ。


俺はおもむろに手のひらを上に向けて黒い裂け目を出現させ、受け取った硬貨を裂け目へとしまい、ついでにコルチに預けていた俺の冒険者カードも入れた。


「【空間魔法】、便利だな」

「まあ、そんなにすぐ出来るようになるとは思いませんでしたけど。良かったっス」


レベルアップもスキル入手もしなかった俺の唯一にして最大の成長は、この【空間魔法】だろうか。


何も成長しなかった事が悔しくて、何となく帰り道に「出ろー出ろー」とか念じていたら何故か出来てしまったのだが。


誰でも覚えられるとは聞いていたが、こんな適当な方法で出来るのならそりゃ誰だって出来るだろ。


……何はともあれ、これで収納に関しての問題は解決出来たのは喜ぶべきだろう。


「少し汗かいちゃいましたし、汗流しに行きません?」

「あー、確かにそうだな。この近くに川ってあるのか?」


「?冗談やめて下さいよ姉御」

「え?」


コルチの反応に疑問符を浮かべていると、コルチは目をぱちくりさせる。まるで、こちらが何かおかしいことを言っているみたいだ。


「……姉御。実は、お風呂っていう便利なものがあるんスけど――」

「えっ」

「え、知らないんスか?」


剣や魔物がうろつく世界で、完全に中世ヨーロッパのような出で立ちの建物郡で勝手な想像をしていたが……言われてみれば風呂くらいあるか。というか、ファンタジー関係なく無い訳がない。


異世界に来てから川で水浴びぐらいしかしてなかったせいで、常識が歪んでいたみたいだ。……だから、可哀想なものを見る目で見ないでくれ。気まずい。


「……いや、知ってる知ってる。風呂だよな」

「……無理しなくて大丈夫っスよ。使い方教えてあげますから」


コルチまで少し気まずそうにしながら、優しい目をして俯いている。何故か目を合わせてくれない。


「本当に知ってる。う、うん、ちょっとした冗談だ冗談」

「……そうっスか、苦労してたんスね」

「いや、あの……違うんだって」

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