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2.世界

「……まず、ステータスだ」


時間をおいた事で多少の余裕は出来たので、改めて現状を確認する。どちらにせよ、一生を座って過ごす訳にはいかない。



――――――――――

名称:ツクモ

性別:♀

Lv:1

種族:亜人(猫)

状態:正常

スキル:

【魅力.lv1】【鑑定.lv1】【ステータス閲覧.lv1】

特殊スキル:

複魂(ふくこん).lv1 1/1】【道連れ.lv1】

――――――――――



まず、自分は『ツクモ』という名前らしい。らしい、というのも元の世界の記憶が曖昧だからか、俺は自分がなんと呼ばれていたか思い出せないからなのだが。


ツクモという名前にしっくりくるような感覚はあるが、少なくとも俺が元いた世界にツクモなんて名前がいたらよっぽどのキラキラネーム……その場合なら、名前の可能性はあるのかもしれないが。


とはいえ、普通もうちょっと、それこそ苗字なりのある名前のはずだ。ステータスがどこまで名称と判断しているのかは判らないが、自分の母国語的にも3文字で済まされるような所に住んでいた可能性は薄い。


佐藤や田中、は適当かもしれないが……名前がツクモ、なんて妙ちくりんなものだけ、なんて事はないだろう。少なくとも俺は三文字で完結する名前の国の出身ではないと思う。


(……まあ、覚えて無いものは仕方ないか。それより気になる事もある)


そう独り()ちながら、その下の欄に目をやる。『性別:♀』『亜人(猫)』というのは、自分の身体でも嫌という程確認した。


当人が言うのもなんだが、普通はネコミミなんぞ生やしてる奴はいない。間違い無く俺は転生したのだろう。


「……しかも、異世界、に」


もし仮にそうでなくても、こんな森は俺にとっては異世界だが。


(『Lv:1』って言うのはレベルのはず。俺は1レベルなのか――って、弱くないか)


ステータスの詳細が載っていないかと探るものの、攻撃力や防御力といった欄が無い。スキルが【ステータス閲覧.lv1】って事は、レベルが上がれば変わるのかもしれないが……情報は圧倒的に少ない。


せめて、記憶喪失になるにしても、なんでこんなところに居るのかくらいは覚えていて欲しかった。


「なんでステータスなんて確認出来たんだ。覚えてる知識がロクでもねえ……」


転生した今なら少しは役に立つが、こんな事より名前とかを覚えておくべきだと思う。


現状、ゲームみたいなサブカルチャーな知識よりも、必要な事は沢山ある。サバイバルの知識とかの方がよっぽど役に立ちそうだ。


……まあ、そんな現世の知識は注目すべきがこの『特殊スキル』という欄だと教えてくれてはいるのだが。


「まあ、チートって奴だよな。とはいえ、なあ……」


複魂(ふくこん)】はどんな効果なのか判らない。だが、名前で多少想像はつく。


【道連れ.lv1】。どう考えても自爆技。使用方法に察しは着くが、試すにしても怪我は(まぬが)れない気がする。


「……これ使う前に死ぬ――」


――ガサッ。


ふと、背もたれにしていた木の裏からそんな音が聞こえた。


「っ!?」


何か、いる。叫びそうになった言葉を飲み込み、押し黙る。


ここが森だと言うのなら、生物がいる可能性は高い。だからといって、森の中で友好的な生物を期待するのは少し無理があるだろう。


俺は音を出来るだけ鳴らさないように立ち、木の影から後ろを確認する。


「っ」


俺が言えた義理ではないが、子供と同じような大きさ。そして二足歩行。手には粗雑な造りだと一目で分かる棍棒のような武器。そして緑色の肌。


生前の世界でも知識さえあるなら、十人中の十人がゴブリンと答えるであろう生物がそこにいた。


「――。……はぁ……」


俺はそれを目にして息を飲む。野生動物くらいは覚悟をしていたが、こうも『魔物』と呼ぶしかないような生物を見てしまうと、間違い無くここが異世界であると認識させられる。


(やっぱりそう、なのか。ここは)


なあなあで出したとはいえ、ステータス(こんなもの)が表示されるような世界が、自分のいた世界と同じ訳がないと判ってはいた。だが、流石に衝撃は隠せない。


……兎に角、こういう時に迂闊(うかつ)な行動を取るべきではない。するべきは、そう……ステータスの確認だ。



――――――――――

Lv:4

種族:ゴブリン

状態:正常

戦闘スキル:

【兜割り.lv1】

スキル:

【鈍器使い.lv2】【武器作成.lv1】

――――――――――



(ゴブリン。見た目のまんまって感じだな……)


気を付けるべきはこの戦闘スキルとかいう(らん)の【兜割り.lv1】だろうか。


(俺には戦闘スキルなんて欄は無かったが……いや、俺が弱いってことか)


現状、戦闘スキルもない黒猫少女。装備はボロ布。手を通す穴だけはあるが、武器となる物は何も無い。レベル差は3。


ふと見ると、ゴブリンが何故かきょろきょろと辺りを見回していて、勘付かれているようにも見える。


――よし、逃げよう。


今は勝機は薄いと踏んで、逃げようと腹を決めた俺はそっとその場を離れる事にした。


抜き足、差し足、忍び足。幸か不幸か音を立てるような物を身に付けてはいないため、集中さえすれば音は鳴らないだろう。


そういや自分、裸足(はだし)だったのか……と思いながら、丁寧に、かつ迅速に背もたれにしていた樹を背にして歩き出す。

いけると思い数歩進んだその時、事件は起こった。


―――スキル【隠密】を取得しました。


「にゃっ!?」


全身の毛が逆立ち、(こわ)ばる。驚いたネコは尻尾を立て全身の毛を逆立てるというが、今の俺を誰かが見ていたならそれを連想したかもしれない。


システムメッセージ、とでも呼ばれそうな事務的な文。


普通なら喜ぶべきであろうスキルが増えたというお知らせなのだろうが……今の自分にそれを喜ぶ余裕など、あるはずもなかった。

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