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10.苟街

ごと、ごと。と、地面の僅かな段差が荷馬車(にばしゃ)の音を響かせている。


シュトフと共に草原で夜を明かし、約束通り【メジス】近くまで乗せていってもらう事にした俺は、退屈しのぎにしっぽを(いじく)っていた。


暇そうに見えるだろうが、その通りだ。最初こそ魔物を警戒していたが、この広い草原で襲われるような事は無い。更に言えば見るような物も無いから、俺は自分のしっぽを撫でたりして暇を潰している。積荷も軽く布がかかっていて、まともに見られそうには無い。


幸い自分は揺れで酔うような体質でもなかったため、暇である以上の問題はない。


「……メジスって、どんな街なんですか?」


俺はしっぽを布の内側にしまい、倒れないように固定されている荷物の隣に座り直しながら、馬を引くシュトフにこれから行く街について話を聞いてみる。


「メジスがどんな街か?えっとね――」


環境音を背景に、快く答えてくれた彼の話に相槌を打ちながら聞く。


――そもそもこの辺りは昔、大陸の中間に位置していたため、色々な街の商人がこの付近を中継地として利用していたのだとか。元々平地で魔力もあるこの土地は休憩するのにも都合が良く、誰も何も言わずとも商人達の憩いの地となったそうだ。


そうして各地から商人が集うと商人相手に商売を始める者が出始め、やがて噂を聞きつけた人間もここへ足を伸ばすようになり、人が集まればそれだけ活気も出て、そういう場所を拠点にしようと考える者も出てくる。近くで魔物やダンジョンが見つかると、冒険者までもがこぞってそこへ足を運び……いつの間にか、街のようになっていたらしい。


「――だから、本当は街ではないんだけどね。大概のものも安いから、住むにはいい所だよ」

「へえ……。こう、仕事の斡旋(あっせん)をしてくれる所ってあるんですかね?」


下手をすればまともな街より人がいてもおかしくはなさそうだが。商人が多いなら、品出しとか荷造りとか、そういうアルバイトがどこかにありそうだ。


「んー。ツクモちゃんなら、龍の(しずく)ってギルドに行くのがお勧めかな。良くしてくれるはずだよ」

「龍、の雫……なるほど」


ダンジョンがあるとも言っていたし、この世界には龍……もとい、ドラゴンが実在しても不思議ではない。ただ、微妙にひっかかるのは何故だろうか。


ハンバーガーとかいう料理やら、そもそも何で言語が通じるのかも謎。俺の記憶の中の人間には猫と混ざったような奴もいなければ、それと出会って平然とする奴も実在しない。


尻尾から伝わるこのむず痒さがこの世界は異世界だという証拠、なのだが。微妙に元の世界を彷彿とさせるような――。


「そっちの道を真っ直ぐ行くとメジスだね」


疑問に頭を悩ませていると、いつの間にか岐路へと付いていたようだ。


「ありがとうございました、シュトフさん」

「あ、ちょっと待って」


お礼を言って降りようとする俺に声をかけると、シュトフは積荷から何か大きい布のようなものを渡してきた。


よく見ると、長い(そで)とフードがついている。上下が一体になった構造のそれを言い表すなら――。


「……ローブ?」


「サイズは合うか分からないけど、そのまま街に入るのも辛いだろうしね」

「あ……何から何まで、ありがとうございます」


彼は荷物を固定し直し、荷馬車の向きを調整する。


飯を奢られ、街へ連れて行って貰い、服まで貰った。彼は全て含めてパックウルフのお礼だなんて言っていたが、俺みたいな低レベルが倒せる魔物の素材にそんな価値はない。断言出来る。


異世界の善悪基準が分かる程人間を知らないが……彼は間違いなく善人に分類されるべきだろう。


礼をしてもしきれない俺は心の中でさらに感謝を述べ、彼が見えなくなるまで見送った。



――――――――――



貰ったローブを羽織り、俺はメジスの街へと続く道を歩く。フードは頭の上の異物(ねこみみ)が邪魔になるので付けていない。


「……ちょっと裾は長いけど丁度いいな……」


ローブを引きずらないように更に歩くと、本格的に街並みが見えてくる。


街に入る時に関所のような物はなさそうだったが、入口には鎧のような物を着た男性がいた。彼はこちらを一瞥(いちべつ)したが、直ぐに視線を戻す。警備隊というやつだろうか。


「……」


……あまり気にしても怪しまれるか。


ちらりと見ながら軽く会釈をして急ぎ足で通り過ぎると、この距離でもざわざわという音が目に見えるような活気が伝わってくる。人の量に酔ってしまいそうだ。


「……一応、いるんだな」


すれ違うという量ではない人混みの中周りの人間を観察すると、自分と同じように耳や尻尾が生えている人間や、人の体つきにも関わらず手や顔が獣の形をしている人も確認出来る。


とはいえ珍しいには珍しいようで、その量は多くない。俺にも視線を感じるが……どちらかというと、俺くらいの子供が1人でいるのが珍しいのかもしれない。


着ているのは外装(ローブ)1枚。布1枚隔てているとはいえ感覚的には全裸の俺は隠れるようにしつつ、目立たないよう先程は脱いでいたフードを被る。


建築には詳しくないが、しっかりとした建物が立ち並んでいるように見える。扉が解放されている建物もあり、ちらりと見ると武器のような物を置いた棚があった。


見上げると突き出すように看板があり、描かれた紋様で武器を売る店である事を直感的に理解させられる。


でかい看板が出入口の上についている建物もあり、その入口の前に客引きがいたりと、様々な方法で客を呼び込もうとしているようだ。


更に進んで広場に出ると、入ってきた道とは別方向にも商店街のようなものや、地面に布を置いて露店を開いている人間。広場の中央には噴水のような物があり、その(かたわ)らには像が建っている。像の周りには人がいるためわざわざ見には行かないが。


―――スキル【隠密】がlv2に成長しました。


「お……っと」


久しぶりのシステムメッセージ。このタイミングでそういう事をされると『こそこそするな!』と責められている気分だ。


龍の雫とやらは歩いていればすぐ見つかると思っていたが、予想以上にメジスは広く、適当にぶらついても見つかりそうにない。


「仕方ない、聞いてみるか……」


虱潰(しらみつぶ)しするのは効率が悪そうだと思い、俺は聞き込みを始める事にした。

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