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小世界

「まず、さっきユーは自分が巻き込まれたと言ったねぇ。なんで?」


「簡単だ。お前の目的はミアの持っている小包。そうだろう?」


 俺がそう言うと、男の子はピクリと片眉を動かした。片足を組んだまま行ったその様は、まるで極道映画の親分のように堂に入ったものだが、いかんせん見た目とのちぐはぐさが目立つ。


「成程。そこまで知っているのなら最低限の礼儀は示してやろうじゃないか。――僕ちんはヴィルヘルム。しがない物書きさ」


「俺は御手洗叶。ごくごく非凡な高校生だ」


 俺がそう言うと、ヴィルヘルム坊は鼻を鳴らし、机の上を歩き俺に詰め寄った。


「ほう、非凡な高校生が僕ちんの『童話グリム』を破ったと?!笑止!笑わせるな。ユーは何かしらの能力ちからを使った。でもなければ僕ちんの世界に干渉する事なんてできない。――それに、あれはなんだ?急に猟銃が出現したとしか思えない」


「いや、なんだ。実際問題凄く難しかった。だから、俺は君の世界の規則に則って、『粗暴な猟師』に騙った(なった)んだよ」


 俺がそう言うと、ヴィルヘルム坊は愕然とした顔になった。数秒程固まっていただろうか、ハッと急に何か思いついたような顔をすると、直ぐに苦虫を噛み潰したような顔になった。


「そうか。成程。ユーがしたことは大体想像がついた。でも、どうする気だい?ユーたちは未だ僕ちんが作った『童話』の中に居る、つまりは籠の鳥だ」


 ヴィルヘルム坊はしたりといった表情でそう言うと、再び椅子に戻り深く腰を掛けた。


「どうする気と言われても、生憎俺はしがない高校生なんだ。か弱い俺なんかは誰かが外から助けてくれるのを待つしかない」


 俺がそういうと、刹那。空気が固まった。否、漂う空気に亀裂が生じた。比喩的表現などではない、実際である。俺の目の前の空間がまるで鋭利な刃物に切り裂かれたかのように開いたのである。亀裂の間は――先程までヴィルヘルム坊が見えていたはずだが――景色が変わり、片倉書記が刀を構えた姿で威風堂々と立っていた。後ろには七山生徒会長の姿も見える。


「ミア!」


 俺は少女の手を掴むと、その亀裂に飛び込んだ。いや、飛び込んだと行ったが実際にはドアを通ったような感じである。俺たちがその亀裂を通るとそこは学校のグラウンドだった。先程までいた豪華絢爛な部屋の面影などは無く、本当に只のグラウンドだった。只、おかしい点があるとするのならば既に空は夕焼け色に染まっていたことである。


「やぁ、御手洗庶務。赤ずきんは無事かね?」


 七山生徒会長はそう言うと、俺たちににこやかに話しかけてきた。その顔は笑顔(邪悪)ではなく、女神の微笑みのように穏やかなものであった。


「はい、無事です。ですが、よくわかりましたね」


「なに、偶々さ。偶々君がこちらに近づいてきてくれたお陰で私も『知れた』んだ。――それに、実際君を救い出したのは片倉書記だ。礼を言うのならば彼に行ってやり給え」


 七山生徒会長はそう言うと片倉書記の方へ手を向けた。


「いや、私は先程の借りを返しただけだ」


 片倉書記はそう言うと、刀を鞘に納め、再び抜刀の姿勢を取った。俺は咄嗟にミアの手を引き、後ろに跳んだが、片倉書記の凶刃は俺たちを狙ったものではなかったらしく、ミアの真横へと向けられた。片倉書記は得物の切っ先を虚空へと向けながらそちらに向かって話し始めた。


「少女趣味とは感心しないな、兄の幻影を追うのは勝手だが、そういうところまではマネしなくてもいいんじゃないか?」


 初めは確かに虚空であったのだが、虚空であったそこが陽炎のように揺らいだ。その揺らぎが収まるにつれ、先程まで俺たちが相対していたヴィルヘルム坊の姿が現れた。片倉書記の刀の切っ先は真っ直ぐヴィルヘルム坊の首筋に伸びており、その首筋にはうっすらと血が滲んでいた。


「ユーの方こそ、その横にいる女神さまに陶酔しすぎて刀の腕が鈍ったんじゃないか?」


 ヴィルヘルム坊はそう言うと後ろに跳び、片倉書記の刀から逃れると、俺たちに向かって恭しく礼をした。


「流石にこうなったら分が悪い。ここは退散すると仕様。――では紳士淑女の諸君!いい悪夢(ユメ)を!」


 そういうが早いか、片倉書記が生徒会室で俺が感じた刺々しさを放ちながらヴィルヘルム坊に斬りかかったが、刀身が少年の身体に到達する頃にはその姿は霧散していた。


「っち!――取り逃したか」


 片倉書記はそう言うと再び刀を鞘にしまった。


「七山生徒会長は彼らの事をご存知なのですか」


「さぁ、今日はもう遅いね。帰ろうか」


 俺の質問に聞く耳も持たず、七山生徒会長は全員にそう促した。恐らく、いくら問い詰めても今俺に言う気は無いのだろう。ならば聞くだけ無駄だ。

10/2 細部修正

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