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花畑にて 1

 少女は確かに話し始めたのだが、どうにもゆっくり過ぎる。俺が『話し』たのに、すらすらと話してくれないところを見ると、本当に心的外傷(トラウマ)になってしまっているのだろう。


「私、おばあちゃんの家に行くためにバスに乗ってたの。そうしたら、急に周りのお客さんいなくなっちゃって、運転手さんもいなくて、降りたら、ここにいたの。そして、歩いてたら大きな狼さんがいたの。口が真っ赤になっててね、怖かったの。それで、気付いたら」


「俺が居たんだね」


 俺がそう言うと、こくりと頷いた。大まかな話の概要は掴めたが、肝心な記憶が抜け落ちている。それに加え、彼女の見た目は中学生ほどであるのにしゃべり方が幼稚なのも、俺の『話』の所為なのか、心的外傷の所為なのか区別がつかない。


 だが、後者だとすれば、厄介だ。精神年齢が退行する程に恐ろしい出来事、そして、彼女が正気を失う前に言っていた『食べないで』『殺さないで』という言葉。これが正しいとしたら、少なくとも誰かが殺され、食べられたという事だろう。


 それに、何かが引っかかる。いや、少女の話に何か不明瞭な点があったわけではない。後半部分の記憶は確かに無いのだが、それ以外に関しては特に文法がおかしいわけではない。


―――何かがおかしい。


 俺は背筋がざわつくのを感じながら、少女の話について考えこんでいた。


「うん…お兄さんは私の味方だよね…?」


 俺が険しい顔で考えているからか、それとも自分の身に起こった出来事を反芻した所為か、怯えながら俺に問いかけてくる少女に、俺は微笑みながら頭を撫でてやった。最も、さっきから便宜上少女といっているが、俺と二、三歳ほどしか変わらないのだろうが。


「取り敢えず、この場所から出る方法を探そうか」


 俺が歩を進めようとすると、服がぐいと引っ張られた。どうしたのかと振り返ると、少女が右手で俺の服の裾を掴んでいた。


「どうしたの、お嬢ちゃん」


「…お嬢ちゃんじゃない、ミア」


「そっか。じゃあミア、どうしたの」


「恐いから、手、繋いで」


 ミアちゃんはそう言うと、左手を差し出してきた。少し大人びた印象を抱かせる女子中学生の口から今の言葉が出てきて少しドキリとする。だが、中身は小学生なのだと自分に言い聞かせ、俺はあくまでも紳士的に対応した。


「良いよ」


 俺は微笑みながら美亜ちゃんの左手をとると、そのまま歩を進めた。


―・―・―


 どのくらい歩いただろうか、いや、様式美だと思ってそう書いたが、実際は歩き始めてから二十分経っている。それほど歩いたのだが、周囲の景色は依然として花畑が広がるのみだ。歩き始めてから休憩などを取らず普通に歩いているので、ざっと千三百メートルは歩いている。にも拘らず、花畑が広がっている。


「ミア、大丈夫かい?」


 先程から少し息が上がっている様子だったので聞いたのだが、ミアは気丈にも首を横に振った。だが、意地を張って歩き続け体力がなくなったところでミアが言っていた狼に遭遇してはいけないので、俺たちは少し座って休憩を取ることにした。


 俺は鞄の中から飲みかけのお茶のペットボトルを取り出し、ミアに渡した。


「ほら、飲んで。疲れたでしょ」


「でも、お兄さんの分…」


 ミアは申し訳なさそうにそう言ったが、俺が微笑みながら鞄をポンポンと叩くと、まだあるのだと安心したようでお茶を飲んでくれた。無論、まだあるというのは嘘である。だが、そうでも言わないとミアは水を飲まなかっただろうから仕方ない。


「ミアはおばあちゃんの家に行こうと思ってたって言ってたけど、何をしに行くつもりだったの?」


「おばあちゃんね、病気なの。だから、お母さんがおばあちゃんにこれを持って行ってあげてねって」


 ミアはそう言うと、肩から下げている小さな鞄を大事そうに抱えた。なんだ、胸騒ぎがする。


「ミア、それが何なのか見せてもらう事は出来るかな?」


「ダメッ!お母さんが、誰にも見せちゃいけないって言ってた!」


 ミアはそう言うと、鞄をより一層大事そうに抱え直した。


―――おそらく、俺の読みが当たっているんだろうな。でも、そんなことが出来るのか。…違う、この場合、ミアじゃないのか。


 そう、そろそろ俺の考えと、俺の持っている能力、いや、こう言うと中二病臭くなるので特技と言おう。うん、そうしよう。それに付いて話そう。

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