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生徒会室にて

「――よし、これで諸君らは生徒会執行部の一員だ」


 そう言うと七山生徒会長は再び人を喰ったような笑みを浮かべた。邪悪の権化のような顔だ。


「これで容赦は無しだな。取り敢えず、明後日から特訓を始めるからな、体操服を持参してくれ」


―――…は?


「えーっと、特訓って何ですか?」


「私は初めに言っただろう?せいぜい死なんように頑張れと。今の諸君らは大声を通過したとはいえ、まだまだ死ぬ側だからな。取り敢えず死なないように特訓だよ」


 生徒会長はそう言い、俺たちの両脇の二人に目配せをした。


「了解しました会長」


「わかったわぁ、ナナちゃん」


 二人はそう言うと、俺たちの前に立った。勿論、美神さんの前には桃嶌副会長、俺の前には依然として敵意むき出しの眼でこちらを見ている片倉書記である。


「御手洗君、だな。私が君の特訓を担当する片倉斬蔵(かたくらきぞう)だ。明日からの数日間君は私の指示の下特訓を行ってもらう。うっかり死なないように気を付けてくれ」


―――うっかり殺さないようにの間違いじゃないのか?


「はい、こちらこそよろしくお願いします、片倉先輩」


 片倉書記は俺が挨拶をすると、右手を差し出してきた。俺は恐る恐るその差し出された右手を自分の右手で掴んだのだが、幸い何も起こらず只の握手だっ


「握手という漢字を君は知っているかね」


「はい?」


「握手はね、『手』を『握』り潰すと書くんだよ」


 片倉先輩はそう言うと思い切り俺の右手を握り、いや、宣言通り握り潰した。


「っ!?」


 俺は咄嗟に距離を取ろうとしたが、片倉書記は依然として右手を握ったままであり、失敗に終わった。助けを求める気持ちで、生徒会長の方を見ると、笑顔(邪悪)を顔に浮かべ、傍観を決め込んでいた。


―――生徒会長(こいつ)、わざとだな。今までの会話も全部片倉書記の怒りを俺へ向けさせる為か。


 俺は、右手に依然と走っている激痛を堪え、深呼吸をした。そして、片倉先輩と眼を合わせる。


「―――先輩、力お強いですねぇ。あぁ、そうか。腰に差してらっしゃるそれを扱ってらっしゃるんですもんね。そりゃあ握力があるはずだ。確か日本刀の平均的な重さって千グラムから千四百グラムほどらしいですもんねぇ。それを軽々とまるで棒切れを扱うように振るうんだもんな、そりゃあ握力強くなくっちゃあやってけないですよねぇ。ボクなんか全く握力ないから羨ましいなぁ。体育の握力測定とか十五キログラムぐらいしか出なくて、先生に『小学生の握力平均と同じぐらいだぞ』なんて言われちゃったりして。そんなボクにずーっと触れていたらボクの非力さが感染(うつ)るんじゃないですかねぇ。()()()()()()()()()()()()()()()()。そうだそうだそうだ」


「あぁ、そうだな」


 片倉書記は、俺の手を離した。今の様子を見ていた七山生徒会長は、依然として顔に笑顔(邪悪)を浮かべていたが、明らかに驚愕の色もそれと共存していた。


「――知ってはいたが、実際に見てみるとやはり驚愕としか言いようが無いな。桃嶌副会長、御手洗執行部員の手をどうにかしてやってくれ」


「りょうかぁい」


 七山生徒会長の指示で、桃嶌副会長が俺の方へ近付いた。痛みに耐えきれず、その場でしりもちをついていた俺の持ちへ寄ると、大人が子供と話すとき目線を合わせるかのようにしゃがみ、俺と目線を合わせた。


「かなちゃん、ちょっと痛いけど我慢してね」


 桃嶌副会長はそう言うと、懐から奇妙な形の小刀を取り出し、躊躇なく俺の手首から先を切り落とした。

 視覚情報として俺がその現実を認識すると刹那、俺の右手に激痛が走る。先程の鈍痛と比べ物にならないほどの鋭利な痛み。


―――何をしているんだこの人は。いや、恐らく七山生徒会長が言った内容からこれは『治療行為』なのだ。きっとそうだ。たぶんそうだ。絶対そうだ。


 目の前で、信じられないことが起きた。手首から先が生えてきたのだ。いや、生えてきたという表現が一番適切だと考えただけで、本当は違うのかもしれない。むしろ、現れたといったほうが最適な表現かもしれない。そう言って良い程、一瞬にして俺の右手が現れた。握ったり開いたりしてみても、何の違和感もない。


「手荒な真似をして申し訳なかった。こうでもしないと君は手の内を明かしてはくれないと思ったからね」


 七山生徒会長はそう言いながら俺に近寄り、右手を差し出してくる。


「今度は何もなしだ。私は片倉書記のように握力は強くないからな」


 今度は差し出された右手を迷いなく掴み、立ち上がった。


「会長、いったい何を言っておられるんです?それと御手洗叶!俺にいったい何をした!」


 立ち上がった俺に片倉書記が駆け寄ってきたが、それを七山生徒会長が制した。


「馬鹿ねぇ、きっちゃん。ナナちゃんはわざとあなたを怒らせたのよぉ。あなたが今された事をわざとかなちゃんにさせるために」


 激昂している片倉書記に対して、桃嶌副会長がおっとりとした口調で言った。


「その通りだ。御手洗執行部員、試すような真似をしてすまなかった。今日は疲れただろう。帰り給え、そちらでこちらを見ている美神執行部員と一緒に」


 七山生徒会長の言葉でふと我に返り、美神さんの方を見ると、心配そうな顔でこちらを見つめていた。


「み、御手洗君、大丈夫?」


 俺と視線が合うと、俺の方に駆け寄って来た。可愛い。


「大丈夫だよ、美神さん。それより、七山生徒会長のお言葉に従って今日はもう帰ることにしよう」


「う、うん」


 俺は生徒会役員の方へ向き直り、一礼をした後生徒会室を後にした。


―・―・―


「…会長、彼奴は一体何なんですか?私は全力で右手に力を入れていた筈なのにいつの間にか手を離して、いや、離させられていました」


 御手洗一行が生徒会室を離れた後、片倉書記が七山生徒会長に向かって質問をしていた。彼は顔を険しくしていたが、その奥にある恐怖は隠しきれてはいなかった。


「そうだな、彼を表現するのに最も適した言葉は、」


「嘘つき」


「なんだ、わかってるじゃないか。そう、彼は嘘つきなんだよ」


 七山生徒会長はそれだけ言うと、自分の席に座り、いつも通り自分の仕事を始めていた。彼女が一度仕事を始めるとしばらくはそれに没頭すると知っていた片倉書記は溜息を吐いて自分の席に戻った。二人のやり取りをにこにこと笑顔を浮かべながら見ていた桃嶌副会長も、片倉書記が席に戻ると、自分もそれに倣い席に戻った。


 生徒会室に、静寂が訪れる。

10/2 話の整合性を合わせるために一部修正をしました。

    ※七山七瀬の台詞「~~明日から特訓を始めるからな………」から「~~明後日から特訓を始めるからな」

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