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教室へ

 体育館を出ると、既に先ほどの教師の姿はなかった。


「っと、どっちに行けばいいのかなぁ…」


「えっと、体育館を出て、目の前の校舎の三階です」


 俺が辺りをきょろきょろと見まわしていると、美神さんがおずおずと俺にそう言った。うん、可愛い。


「なるほど、あっちか。って、なんで知ってるんだ?」


「ほら、合格通知が届いたときに敷地内の地図も同封されてたじゃないですか」


 俺は脳内の書庫を漁ると、確かにそのような記憶はある。だが、この学園の校地はとても広く、それに伴って敷地図も三枚あったから覚えることを放棄した記憶もまた見つかった。


「おー、確かにあった。でもさ、あれ三枚ぐらいあったよね」


「私、一度見たものは忘れませんから」


「凄いね。もしかして、親族に探偵学園に通ってるピンク髪の女の子とか居ない?」


「はい?」


「いや、なんだ。こっちの話。――着いたね」


 俺たちが雑談をしている間に、俺たちの教室に着いた。異様なことに、三階には俺らのクラス以外無い様で、扉がない壁が数十メートル続いていた。扉の上には『1-8』と書かれた木製のプレートが掲げられており、わかりやすい。只、俺が引っかかるのは、そのネームプレートに赤黒い染みがついている事だった。


―――この赤黒さって、どう見ても血だよなぁ…


 俺は少し不信感を抱きながら教室の扉を開けると、中はいたって普通の教室だった。後ろに掃除用具が入っているロッカーがあり、その横には生徒たちが私物を入れておく為のロッカーが並んでいる。教室の前方には黒板があり、その前にはズラッと机と椅子が並んでいる。


「うわぁ、綺麗」


 美神さんはそう呟くととたとたと教室の中へ入っていった。可愛い。

 俺は教室に入ると、真っ先にロッカーへ向かった。自分のロッカーはどれだろうと探すと、ネームプレートに『御手洗叶』と書かれたロッカーがあった。


「流石、仕事が早いね」


 俺が自分の鍵を鍵穴に差し込むと、鍵が淡く光った。鍵にライトが仕込まれているとかではなく、どうやら鍵自体が発光しているようだった。鍵が淡く光ると、ガチャリと中の機構が動いた感触が手に返ってくる。


 ロッカーの扉を開くと、中には教科書類と一通の手紙が入っていた。その手紙を手に取ると、表には『選ばれた君へ』と書かれており、裏はきっちり封蝋で封がしてある。


「おーっす、ホームルーム始めるから席に着けー」


 先ほど司会をしていた教師が教室に入ってきた。先ほどまでとは違い、上に白衣を羽織っている。

 俺は教師の言う通り、自分の席へそそくさと戻ると、机の横に鞄を掛けた。


「俺が今日からお前らの担任になる名無京(なぶけい)だ。まぁ、死なないように一年間頑張って逝こうな。んじゃま、ホームルームしゅーりょー。明後日からオリエンテーション始まるからなー、じゃ、解散」


 名無担任はそれだけ言うと、教室を後にした。名無担任が教室から出ていくと、まるでそれが当たり前の事かのように他の級友(クラスメイト)達はそれに倣うかのように教室を後にした。教室に残されたのは俺と美神さんだけだった。


「…えーっと、これからどうしたら良いと思う?」


「そうですね、帰宅したら良いんじゃないでしょうか」


「まぁ、そうだよね。大人しく帰るとするか」


 俺が帰ろうかと机の横に掛けていた鞄を持ち上げたその時だ。教室の扉が勢いよく開いた。いや、勢いよくという言葉だけでは少々言葉不足である。扉を只の木片に変えてしまうほどの勢いと強さで、扉が開かれた。話を戻そう、扉を開き(壊し)、教室に入ってきたのは先程入学式で盛大な挨拶をかましてきた七山生徒会長だった。


「おや、新入生で残っているのは諸君らだけか」


「…はい、俺ら以外の級友はそそくさと帰りましたよ」


 俺がそう言うと、七山生徒会長は腕組みをし、左手を顎にあてて思案し始めた。一分ほどすると、腕組みを解き、再度こちらの方へ話しかけてきた。


「ならば、諸君らだけでも来てもらおうか。部活見学(強制入部)しに」


「あの、生徒会長殿?ルビに本心が漏れてないですか?」


「ルビ?何のことだ」


「いや、なんだ。こっちの話ですよ。――それで、どこの部活を見学しに行くんですか?」


 俺がそう問うと、生徒会長は口角をつり上げた。


「私が直接勧誘に来ているのだから、生徒会に決まっているだろうが」


 人を喰ったような笑みで――この場合は、比喩表現ではなく――七山生徒会長は答えた。


「ですよね。わかりましたよ、行きましょう」


 俺が美神さんの方へ確認の目線を送ると、彼女も頷き返してくれた。


「話が早くて助かるよ御手洗君。君にごねられると少々厄介だったからね」


 空気が一瞬固形化したように感じた。何故だ、何故七山生徒会長は知っている。


「あぁ、何故知っているんだ、とかは考えても無駄だ。私はなんでも知っているからね。それこそ、君と同種のそれだ」


 七山生徒会長はそう言うと、両の手を打ち鳴らした。それを切っ掛けに、俺の周囲の空気が溶解し、先程までの息苦しさもなくなった。


「さぁ、行こうか。時間が惜しい。そこで先程からこちらを睨みつけている君も、行くぞ?」


 七山生徒会長はそう言うと俺と美神さんの腕を掴み、歩き出した。俺は慌てて鞄をしっかりと握りなおし、七山生徒会長の歩幅に歩く歩幅を合わせた。

暫くは毎日12:00更新の予定です。

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