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オールド&ブルー  作者: 冒険好きな靴
プロローグ 人智碑文世界アース
3/40

第一節 二人の旅人Ⅰ

 そして……俺は目が覚めた。


 「……ほうほう」


 目覚めたばかりだというのに、視界は良好。体も普通に動かせる。とりあえず周囲を確認してみた。

 崩れかけているビル群が無数に立ち並んでいる。

 俺の立っている場所は、コンクリートで作られたであろうひび割れた道路。


 そうか……俺は今、捨てられた都市のど真ん中にいるようだ。

 とっくのとうに滅びた人類が住んでいたとある都市。今はもぬけの殻。

 中身のないカタツムリの殻みたいな、空しい印象を受けるなぁ。


 正面を見ると、いつの間にか一人の少女が目の前に立っていた。

 彼女は金髪碧眼で、身長は大人の半分ほど。白く美しい肌で、ほとんど完成された存在だった。

 まともな人間じゃない。直感でそう思った。


 「……目、見えてるかしら?」

 「ん? 見えてるけど?」

 「私が誰か分かる?」

 「んなこと知るかよ」

 「ん、おかしいわね。必要な情報は全てインプットされているはずなのに……」


 おいおい、インプットって俺はロボットか何かかよ。

 いや、でも人間ではないことは確かだ。何故かそれだけは分かる。


 「まだ正常に起動していない機能があるのかしらね?」

 「普通に言葉は話せるみたいだぜ?」

 「どこまでこの世界の知識を知ってる?」

 「一般常識程度には。この世界の人類は滅びて、もう人っ子一人いやしないこととかな」

 「でも、私のことは分からないと」

 「お前とは初対面なのに分かっちゃったら俺エスパーだよ」

 「……死後の世界のことは知ってるかしら?」

 「知らんし。というかそれ本当か? 死後の世界なんてあるのかよ」

 「ん……ああ、そういうこと」


 いくつか俺に質問したのち、少女は答えを導き出したような表情へと切り替わった。

 コ〇ン君みたいな閃き音が聞こえた気がしたぜ。


 「あなたは全人類の魂の経験を統合して創ってあるから、人類が知ってたことは知ってるけど、逆に人類が知らなかったことは知らないのね。なるほど」

 「全人類の魂……」


 何言っちゃってんのだろうこの人は。頭がぶっ飛んでいるのではないだろうか……とは何故か思わなかった。

 普通に納得してしまった。普通は信じない。だから俺もやっぱり普通じゃないんだろう。


 「俺ってそんなヤバい奴なのかよ」

 「激ヤバよ」

 「具体的に俺のヤバさを言葉で表すと?」

 「例えば……あなたが転生した身体は、人類の最先端テクロノジーで作られた技術を流用して設計した特別な肉体なのだわ。一般的な身体の百倍は出力できるはず」


 ってことは、俺超人?

 試しにヒンズースクワットを十回こなしてみる。百回続けても余裕であることが分かる。


 続けてその場でジャンプしてみる。

 軽く十メートルの高さまで跳躍出来た。これならもっと高く飛べる気がする。

 うん、俺本物の超人やわ。


 「私の言うこと、信じた?」

 「信じる信じない以前に、俺には記憶がないから信じざる負えないよな」

 「だってあなた生まれたばかりだもの。あなたに固有の記憶なんてあるわけないわ」

 「なのにこの体の全盛期具合よ。生まれたての大人って違和感バリバリなんですが」

 「じきになれるわ。とにかく私の言うことは信じておいた方がいいわよ」

 「それはこれから話す内容次第だろ」

 「……まあ、元々私に逆らうような因子は組み込んでないから、矛盾のない限り反抗はしないのだけども」


 俺はペットかよ。

 ロボットに引き続きなんて悲しいツッコミなんだ……

 俺の意思が尊重されていない気がしてならん。


 「そんな激ヤバな俺はどうしてここでお前と話してるんだ?」

 「それは私があなたを創った地球の女神で、ある頼みごとをしたいからよ」

 「……女神? お前みたいなちんまりした奴が?」

 「世界の神話には少女の神だっていたでしょうに」

 「神〇プロジェクトとか?」

 「それはスマホゲームの中の話よ」

 「ゲームとかオタク文化に詳しいのか?」

 「知ってるだけよ。でも、やろうと思えばプロになれる素質十分よ」

 「流石女神様」


 最初は淡泊だと思ったが、ちょっと面白い性格をしてるのかもな。


 「くだらない話は置いておいて……あなたには頼みごとがあるのよ」

 「さっきも言ってたな。頼みごとってなんだ?」

 「人類の再生をあなたには手伝ってほしいの」


 ……無理じゃね?


 「無理じゃね? って思ったわね。あなたの心やモノローグを私は読めるので、今後は慎むように」

 「心はともかくモノローグを読むとか怖すぎるぞ」

 「ジョークよジョーク」


 俺も俺だけど、こいつも話を脱線させるタイプなのかもしれない……


 「で、人類の再生についての話だけど、あなたは何故この世界の人類が滅んでしまったか知ってる?」

 「……自滅、だろ。文明を発達させすぎた人類は、生きる意味を見出せなくなって、次世代を担う子供も産まずに衰退……てな理由で」

 「そうね。人類の出した答えが『もう、そこまでして生きなくてもいい。この世界に生きる意味なんてないのだから』なんて悟りを開いてしまったものだったんだもの。滅ぶのも仕方ないわ」

 「だから、次の人類を作ろうってか」

 「正解。私はもう一度人類がこの大地を闊歩している姿を見たいのよ」


 ……無理じゃね?


 「無理じゃないわ」

 「だからモノローグ読むなって」

 「あれは冗談って言ったでしょう? 表情で心を読んだのよ」

 「……お前女神って言ってたし、なんか何でもありみたいな感じがするから信じられん」

 「信じても信じなくてもどうでもいいわ。どうせあなたは私に従うのだし」

 「……従わない選択肢はあるだろ」

 「ないのよ」


 彼女の自信ありげな表情から察する。

 こりゃ本当の話だ。


 「どうやって俺を頷かせるってんだよ」

 「私、あなたの造物主なのよ。命は私が握ってる。生かすも殺すも私次第」

 「デッドオアアライブっすか」

 「ほら、あなたは頷くしかない。従うしかないの。私の下僕確定なのよ」


 下僕……最悪だ。絶対に楽しくない。

 人生を生きるための秘訣は楽しさや面白さだ。それがなきゃ人生は輝かない。

 旧人類だって、それが原因で死んだようなものだ。俺はその二の轍を踏みたくはない。


 「で、話は戻るけども」

 「俺が従うことが決まったように話を進めるなよ」

 「じゃあ死ぬの? 死ぬのね。なら死んでちょうだい」

 「すいませんでした許してください」

 「結構」


 即答であった。プライドもクソもない。酷い話である。


 「私は人類を再生させることが出来る。今すぐにでもね」

 「なら、それで話は終わりじゃね?」

 「残念。それだったらよかったのにね」

 「……なんか問題点あるのか?」

 「私が人類をもう一度作っても、文明を発展させることでまた自滅するかもしれない」

 「ああ……なるほど」


 同じ二の轍を踏みたくないのは彼女も同じらしい。


 「だから、対策が必要なのよ。それがあなたに頼みたいことでもある」

 「頼みの内容は?」

 「この世界……地球の外の世界へ行ってもらうわ。異界人の生態を見て、触れて、経験して記録してほしいのよ」

 「お前、死後の世界がどうたらとか言ってたな。もしかしてそれのことか」


 俺の回答はビンゴだったようだ。

 彼女がえらっそうに頷く。まるで貴族令嬢のように。


 「ビフレスト。死後の世界の名前よ。ビフレストには魂が存在しているわ」

 「魂とかまた胡散臭い話になってきたなぁ」

 「全人類の魂の経験を得ているあなたがそんなこと言わないでくれる?」

 「そう言われてもな」


 あまりにも現実離れしていてな。


 「魂なんてもの見たことないからよく分からん」

 「この話のあとで、いくらでも見せてあげるわよ」

 「地球で死んだ人間の魂をか?」

 「そうよ。それと、他の世界で死んだ生物の魂も含めて」

 「ビフレスト以外にも異世界って存在するんだな」

 「ビフレストは全ての異世界に繋がっているいわば中継地点。他世界で死んだら、ビフレストを中継して別の世界に転生するのよ」


 なんか、壮大な話やなぁ。

 ちょっとしみじみと遠い目をしてみる。


 「他人事のようにモノローグで心情語ってるけど、これからあなたが行く場所なのよ?」

 「お前やっぱりモノローグ読んでるやん」

 「読めても読めなくても結果は変わらないわ。だって私ポーカーの達人なのよ? 達人は相手の表情を見破ることも得意なのだわ」

 「ちなみにポーカーの経験は?」

 「一切ないわ」

 「何でもありやな女神様って」


 もうツッコミを入れる気が起きない。

 だってルールブレイカーなんだもん、こいつ。


 「じゃあ、そのなんでもありな女神様は、自由に俺を別世界へと連れてってくれるんだろうな」

 「私の力が及ぶ範囲はこの世界までよ。ビフレストまではあなたの肉体……エーテル体を霊体化して送ってあげられるけど、別世界に行ったら私が影響を及ぼせるのは力の一部まで。それに私は別世界に入り込むことができないわ」

 「え、お前ついて行かないのか?」

 「行くけど私本体じゃなくて魂のない分身体で同行するでしょうね」

 「分身体ってのはお前自身じゃないのか」

 「動く人形型通信機とでも思えばいいわ」

 「で、お前は優雅に地球でくつろいでるわけか」

 「人形を通してあなたを見守るために力を使うし、くつろぐ余裕はないわね」

 「……あそ」


 以外に真面目な答えが返ってきて、ちょっと戸惑う俺なのだった。


 「なあ、お前が地球の女神なら、他の世界にも神様っているのか?」

 「もちろんいるわ。通常世界一つに対して一柱の神がいるのだけれど、例外もあるわね。まあ、今は考えなくてもいいわ」

 「じゃあ、他の神様に会うかもしれないってことだな」

 「会う会わないはその世界の神次第でしょうね。何か縁があれば会うこともあるでしょう」

 「友好的じゃない神様っているのか?」

 「いるけどよほどのことがなければ大丈夫よ。そこは保証してあげる」


 おお、女神の保証がでたな。

 信じられるほどの保証かはよく分からんけどな。


 「いやぁ、ワクワクしてきたな」

 「あなたを構成する魂の比重はワクワクという感情に傾いたのね。意外だわ」

 「意外か? そんなネガティヴな奴に俺は見えたってか」

 「そうなると思ったのよ。だってすでに滅んだ人類の魂の経験を全てあなたの魂として組み込んであるのだから、いくら知見豊かでも滅びの思想に強く影響されているものなのよ」

 「ん……」


 そうだな。それは否定しない。

 確かに、俺は人類の滅びを否定的に捉えてはいない。

 人類が滅びたのは当然だ。だって、この世に生きる意味などありはしないのだから。


 旧人類は、自分をごまかして生きてきた。金や家族や宗教、仕事、趣味なんかのために我々は生きるのだと、そうごまかしてきたのだ。

 だが、それは人類の生きる意味ではない。人類は何故生きているのか? その疑問に答えられるものは誰もいない。何故なら、回答不能だからだ。

 回答不能ってことは、答えなんかそもそも存在しないのだ。人類は、ただ生きているから生きていただけなのである。


 だから、それを悟った人類は滅んだ。それは分かる。

 分かるが、人類は同時に思っていたことがある。それは、まだ観測していない未知の世界への可能性だ。


 まだ見ぬ宇宙の先。そこにどんなものがあり、どんな新しいものがあるのだろう。

 そして、そこには人類の見失った生きる意味があるのかもしれない。

 そういう希望を、人類は捨てきれなかった。

 

 俺は、それを知っている。

 知っているからこそ、彼女にこう答えた。


 「挑戦ってのは人間の特権だ。獣は自分の限界を超えようとはしないだろ? だから、新しい世界にワクワクする心……これが人間らしいってことじゃんか」


 俺がそう言うと、彼女は一瞬だけ意外そうな顔をして、そのあと綺麗で純粋な笑顔を俺に見せてくれたのであった。

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