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オールド&ブルー  作者: 冒険好きな靴
第三章 生命循環淘汰ヨルムンガンド
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第七節 円環型体内循環Ⅲ

 そして俺は肉壁に激突した。


 「ぐべっ!!」


 続けてクリアが俺めがけて突っ込んでくる。


 「ぶべらっ!!」


 追い打ちとばかりにブルーが……直前で止まった。

 急ブレーキをかけたらしい。流石女神だ。


 「……なにクリアに抱き着いてるのよ」

 「いや、これはたまたまクリアが俺にぶつかっただけで……」

 「……」


 クリアを降ろした瞬間、俺のどてっぱらに強烈なタックルを仕掛けてきた。


 「オォォゥノォォゥゥゥ……!!!!」

 「ア~パパパパパパパパパ!!!!」

 「オボボボボボボ!! な、殴るな! 吐く! なんか吐いちゃうぅ!」

 「トドメのチャ〇キック!!」

 「ぶるぁぁぁぁぁ!!!!」


 インセクト型人造人間のようなやられ声を出して、俺は更に肉壁へ陥没した。


 「物理的に地獄へ落されそうになったんですが……」

 「無間地獄まで突き落としてやるつもりで打撃したわ」


 無間地獄って地獄の底の底じゃねぇか。

 しかもその地獄に到達するには二千年間も真っ逆さまに落ち続けなければいけないという……


 「相変わらずの鬼畜っぷりですな、侮屡鵜ブルー殿」

 「なによそのコテコテした漢字の当て字は」

 「文章上でしか分からないはずなのに、何故俺が当て字を使ったことがバレた?」

 「感じたのよ」

 「いや、意味分からんし」


 まあ存在自体がよく分からない奴だから、深く考えても仕方ないと考えている俺がいる。


 「う~ん……痛いです……」


 俺の横でクリアが起きだす。目立った外傷はなさそうだ。アルビナの体が頑丈な証拠であった。


 「ここはどこですか……?」


 そうや、俺達どこにいるんや? そう思って周囲を見てみる。

 アルビナ達が俺達の周りにた~くさんいました。しかもなんか睨んでるし。


 「……一応言っておくけど、クリアは無事だからな?」

 「クリア様!」

 「ご無事ですか!」

 「お怪我はありませんか!」


 複数人のアルビナ達がクリアに駆け寄っていく。それに押されたのか、どんどんアルビナ達がクリアの安否を確認しに来た。

 ちな、俺とブルーの心配は一切なしである。てか完全スルー。まあそりゃそうか。アルビナ達のプライオリティー的には彼女の方が断然上なんだろうし。


 「最初から俺達歓迎されてなかったもんなぁ」

 「クリア以外との友好ポイントはゼロだものね」

 「それな。一言も会話してないくらいだし」

 「彼女は閉鎖的な環境で暮らしているからとか言ってたくらいだものね」

 「積極的に話しかけない俺達も悪いけどな」

 「アルビナ達のあの警戒を隠さない態度を見てたら、誰だってコミュニケーションを取ろうとなんて思わないわ。クリアからこの世界の情報を獲得出来るなら、私はそれ以上のことを求めない」


 そうか、ブルーは基本的に異世界の情報を獲得していけばいいって立場なわけだから、別に住人達と無理して話そうとは思わないのか。


 「ああ、心配しましたクリア様。てっきりあの気味の悪い人形みたいな女と、如何にも主人公補正を受けてます的中途半端なイケメン成分保有の青年に何かされたのだと……」


 様子を黙って見ていると、クリアに一番近いアルビナの一人が結構失礼なことを言い出した。

 おいおい、散々な言われ方じゃないか……

 でもイケメン成分を保有とのことらしい。

 そう言えば、俺って客観的に自分の姿を見たことないな。


 「こらこらトリブス、そういうことを言うものではありません」


 クリアが彼に向ってそう諭す。あいつの名前トリブスって言うのか。

 見た目は長身で痩せ気味なガタイをした男だった。しっかりと覚えたぞこの野郎。


 「あら、誰かしら? 世界の美少女であるこの私を気味の悪い人形だと罵った愚かな畜生は」


 隣の自称美少女はブチ切れモードなのであった。激おこである。怖いよぉ……


 「は? この僕だが何か文句でも?」


 トリブスはブルーに恐れもなくそう言って睨む。恐れ知らずのヤングって感じ。


 「文句ならあるわ。私の見た目は完璧な黄金比で確立された美しさを誇っているのだわ。今度から私の姿を言葉で表現する時は、細心の注意を払うことね」

 「僕はただ事実を言っただけだが?」

 「……」


 あ、やばい。ブルースイッチ入ったわ。

 ブルーの目が卑しく光る。その直後……


 「え? ど、どういう……? う、うわあああああああああ!!??」


 いきなりトリブスが発狂しだしたのだった。


 「ひぃぃぃぃ!!!! やめてくださいお願いしますお願いします!! 言うことなんでも聞きますから!!! ひぃぃあああああああ!!!」

 「なら、あなたという存在が一体何者なのかを再認識しなくちゃね。あなたは……小豆洗いよ」


 小豆洗い……溢れるセンスが暴発した選択である。


 「は、はいぃ。わっしは小豆洗いでござんすぅ~」

 「よろしい。では、この小豆を一粒くれてやるからそこの壁の隅でコシコシ擦って無駄にきれいにしてらっしゃい」

 「美しき女神様の小豆、このわっしが命をかけて洗うでござんすぅ~」


 そう言って自ら小豆をコシコシ洗い出すトリブス。一人称まで変わってやがる。ああ、女神を挑発したばかりに……哀れ。


 「調教完了ね」

 「どうせ幻でも見せたんだろ」

 「幻覚幻聴は洗脳へと発展させやすいのよね」


 黒い発言である。まさにブラック女神である。


 「……あのぅ、ブルー様。私の弟が失礼なことを言ってしまってすいません。トリブスも世間知らずなもので……どうか許してはもらえないでしょうか?」

 「そんなに心配しなくても大丈夫よ。十分したらすぐに幻は消えるわ」


 ああ、少なくとも十分間は自ら醜態を晒すわけね。

 てかあいつはクリアの弟だったのか。


 「シスコン要素のある弟だったな」

 「それは……否定出来ませんね。最近一人暮らしをするまでは、一緒に住んでいましたから」

 「ああいう奴は、一度知性体としてのプライドを全て剥奪させておくくらいの勢いでしつけておかないといけないのだわ」


 彼女の言い分の結果がこれである。にしたってこれはあんまりではなかろうか。本人はこの会話なんて聞く気はなく、ただただニヤつきながらひたすら小豆洗いに情熱を燃やしていた。

 そんな彼を心配して他のアルビナが近付こうとするが、いきなりの豹変ぶりに困惑して声まではかけていない。一気に奴の株が落ちたな。大暴落だ。


 「で、ここはどこなのかしら?」

 「ここはどうやら、総排泄口の一歩手前のようです」

 「お、やっと着いたのか」


 着いたとは言っても、景色はほぼ腸内と殆ど変わっていない。

 ただ、少し奥へ目を向けるとそこから先の地面がなかった。断崖絶壁だ。察するに、これは大穴なんだろう。


 「このでかい穴から排泄物を体外へと排出するわけか」

 「つまり、ウンコを出す場所ということね」

 「なんで俺が小難しい言い回しをしたか分かってないようだな」

 「分かった上で言ってるわ」

 「言ってて恥ずかしくないのかよ」

 「私には縁遠い生理現象だわ。それに、これも立派な命の循環なのよ?」

 「ぐむむ」


 正論なのであった。言い返せぬ。


 「それに、大概の女子はそういう汚い発言を結構するものよ」

 「若い男子が聞いても信じなさそうな話だな」

 「男子の前では猫かぶってるだけなのだわ。女子トークのお下劣さはオールドだって脳内検索かければすぐ調べられるでしょうに」

 「そんな実態をわざわざ調べて見たくねぇ……」

 「女に理想を抱いている男の言葉ね」

 「うるせえよ」

 「女は計算が大好きなのよ。自分の年齢を二で割り、自分のドレスの値段を倍にし、夫の給料を三倍に言い、一番の女友達の年齢にいつも五を足すのだわ」

 「その言葉知ってる。マルセル・アシャールだろ」


 有名な男性映画監督のことである。


 「その言葉を信用するのなら、真っ先に警戒すべきはお前かな」

 「そうやって疑っていられる内はいいわね。私の幻で疑問すら抱かないようにすることはいつでも可能なのだから」

 「洗脳って実は怖いんだな」

 「生物の意思と言うものは例外なく揺らぐものだし」

 「それはお前も同じか?」

 「私だって同じ生き物に変わりないわ」

 「だよな……」


 こいつだって異世界では万能じゃない……らしいし。


 「で、みんなここに集合してるけど何待ちだ?」

 「星食い待ちですね」

 「そっか。リミットまでにたどり着けたのはいいけど、後どのくらい待つんだろう?」

 「今は大体でしか分かりませんが……数時間程度の余裕はあると思います。星食いの直前でアキレウス様からのメッセージが聞こえると思います」


 それまでは待機ということだな。


 「はっ!?」


 そこでトリブスが覚醒した。ブルーの言った時間より少し早かったな。


 「ぼ、僕は一体何を……?」


 彼が周囲を見渡す。

 みんな引き気味に彼のことを見ていた。子供を持つアルビナは子供の目線をトリブスと合わせないようにする始末だ。


 「な、なんなのだこの重苦しい空気感は」

 「お前、なんにも覚えてないのか?」

 「いや、確か……僕はそこの不気味な金髪に対して説教をしていたはずだが?」


 あ、さっそくまた地雷を踏みやがった。


 「そこの不気味な女、とりあえず僕の目の前へ座れ。もちろん正座でな」


 火に油を注いでいる。世間知らずを通り越してバカ野郎である。空気を読めば分かることなのに。そして……


 「あへっ。あへへへへっ。ぶべらーちょ。ぶひょらああああああ!!!!」


 案の定もっと酷いことになっていた。周囲のみなさんは完全ドン引きだ。もうこいつは社会的に生きていけないだろうってレベル。


 「今度はちゃんと、幻を見ている間の記憶も残るように配慮しておいたわ」

 「それ配慮ちゃう」

 「本当にこれが、私の弟なのですか……?」


 姉であるクリアが信じられないようなものを見る目で実の弟を見ている。それを見て満足そうに微笑むブルー。とんでもないサディストだぜ。そして数分後……


 「すいませんでした許してくださいごめんなさい」

 「分かればいいのよ」


 見事な家畜の出来上がりである。いや、社畜か?


 「これからは労働基準法を消滅させかねない勢いでこき使ってあげるわ」

 「へへぇ!」


 いや、労働基準法リアルで消滅してるし。


 「ほどほどにしておけよ、周りのアルビナ達が怯えてお前から離れていってるぞ」

 「障害物が自ら避けてくれるなんて、ありがたいことだわ」

 「お前の脳内ではアルビナが大きなじゃがいもかなんかに変換されてるってことがよく分かったよ」

 「ちなみにオールドはダイオウグソクムシに見えるわ」


 キモイ生き物筆頭ですやんそれ。


 「トリブスは塵の集合体なのだわ」

 「僕は有機物ですらない!?」

 「塵は塵らしく黙ってなさい」

 「……」


 そして本当に黙りだすトリブスである。忠犬ご苦労様だな。


 「おい、クリア。お前自分の弟がこんなんでいいのかよ?」

 「よくありませんが、私も洗脳されたくはないので現状スルーです」

 「お前意外と冷徹?」

 「優先順位に忠実なのはどのアルビナでも同じですよ。生きるための処世術です。ある種合理主義的ですから」


 ということで、あっけなく姉から切り捨てられたぞトリブス。


 「こうして余裕を持って話せるのも後数時間ですよ」

 「星食いが始まったら、死ぬ奴らが出てくるって言ってたもんな……」

 「今はまだ嵐の前の静けさ、と言ったところです」


 そう、嵐は来る。確実に。

 その時まで俺達は、大穴の前で休息を取るのであった。

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