第二節 体内集落
白くてもふもふな毛が生えていて人間みたいな半獣人。
神の体内で生活する奴らは、なんかワンピースのキャ〇ットうさ耳なしバージョンのみたいな集団なのであった。
この世界では、俺達は異邦人だ。ってことは、嫌が応にでも目立つわけでありまして。
道行くキャ〇ットもどき達の視線を、俺達は引きつけてしまうのであった。
「……いや~カリスマAランクってのは辛いね」
「そこまでいったら呪いらしいわよ」
「まあ、カリスマなんて本来ロクなものじゃないからな」
「注目されることにどれだけのデメリットがあるかということに、気が付かない人間って結構多いのよね」
「で、俺達は注目されてるわけですが」
「どうしましょうね」
二人して肩をすくめる。
なんかアクションを起こせばいいんだろうが、どんなものが好印象だったりするんだろうか?
「あー……俺達は敵じゃない。安心してくれ。俺達は、ただこの世界を見て回りたいだけなんだ」
「……」
シーンと静まり返る住人達。おい、なんか喋れよと心の中でツッコむ俺。
これじゃあ公開処刑みたいなもんだな。視線の圧力ってこんなに強いのか。
「誰か、この村のことを教えてくれないか?」
「……」
「なあ、俺の言葉って今翻訳されてんのか?」
「グー〇ル翻訳並みの精度で翻訳中よ」
「割と精度が低いじゃないか!」
「嘘よ。本当はネイティヴ並みの翻訳を展開中だわ」
「何故に嘘を吐いたのか……」
「あなたのテンパり具合が面白かったからよ」
「正直に言えばなんでも許してくれるってわけじゃないんだからな」
割と余裕のない状況でボケをかますのはやめてほしいものである。
あーだこうだと俺達がわちゃわちゃしていると、住人達の中から一人の若いもふもふな女性が現れて。
「あら、神様が啓示で言っていた旅人さん達ですね。どうしたんですか? 二人でそんなにもめて」
俺達二人と住人達がぽかーんとする中、その女性だけはにこやかな笑顔で俺達に話しかけるのだった。
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「ここの人達はみんな閉鎖的な環境で生活してる分、外の人達に対してどう接していいか分からないんですよ。どうか、気にしないでくださいね」
俺達の前に出てきてクリアと名乗った女性は、陽気にそう話しかけてくる。
「で、俺達をどこに案内しようとしてるんだ?」
「家ですよ。あそこでみんなの注目の的になってても、苦痛なだけでしょう?」
「それは……そうだな」
街中を歩きながら、俺は納得する。遺跡の町には、大勢の半獣人達がいた。
買い物をするために子供と外出する母親。荷を担いで仕事にでかける若い男。何人かでキャッキャと俺を見てあざ笑う生意気なガキども。まあ、普通の町の光景ってことだ。
周囲には食材屋や家具店、武具屋、建材屋などが並んでおり、それぞれが活気的なのであった。
「随分と栄えてるんだな」
「この時期はですね、ヨルムンガンドの星食いが始まるんですよ、みんな村からの撤収準備で忙しいんです」
「また色々分からん単語が出てきたな」
えーと、ヨルムンガンドに星食いか。うん、よく分からんな。
「ははは、そうですよね。分からないのも当然です」
太陽の元に育つひまわりみたいな印象を受けるもふもふちゃんは、人差し指をピンッと立てながら講師のように説明しだす。
「私達が今住んでいるのは、巨大な生物の体内だということは分かりますか?」
「それくらいはな」
「その巨大生物の名前は、ヨルムンガンド。世界蛇と呼ばれることもありますね」
「また北欧神話系の神が出てきたわね……」
ヨルムンガンド……北欧神話に登場する神の一柱ロキと、霜の巨人アングルボザとの間に生まれた兄妹神の一柱である。その兄妹の構成はと言うと、フェンリル、ヨルムンガンド、ヘルとなっており、あの炎の世界の神様であるフェンリルとは血が繋がっているのだ。
姿は巨大な蛇であり、常に自身の尻尾を口に加えて活動しているとか。その牙には猛毒があり、神すら殺すとも言われている化け物なのだ。
「ヨルムンガンドはある日突然この世界にやってきて、私達の星を飲み込みました。飲み込まれた私達の先祖は、この体内でずっと生きていくことを決めたんです」
「それが今のお前らの先祖ってことか」
「はい。そして星食いというのは、元々私達の住んでいた星が飲み込まれてしまったように、定期的にヨルムンガンドが星を食べることを言ってるんです。星を食らうと、ヨルムンガンドの体内は星そのもので全てが押し流されます。だから、それらから避難するために、町から撤退するんですよ」
「逃げるって、どこに逃げるんだよ?」
「それは、尻尾の部分ですよ」
確か、ヨルムンガンドは自分の尻尾を食べているはず……
「尻尾にいたらヨルムンガンドに食われて死ぬんじゃないか?」
「普通は死にますね。だから死なないように頑張って、ヨルムンガンドの口に侵入するんです」
「尻尾から口に?」
「尻尾、食べてますから」
彼女はそう軽く言ってくれるが、決して軽く言えることじゃないはずだ。
「ヨルムンガンドは星を食べ終えた直後、また尻尾を食べだすんですよ。尻尾は永久に再生され続けますから、ずっと大口を開くわけです」
「……もしかして、お前らの食料はヨルムンガンドが咀嚼して食った尻尾の肉なのかしら?」
「おかげで私達はこの体内でも餓死せず生活できるんですよ」
それを裏付けるように、食料店で売られているのは全てが肉なのである。
この世界の住人は完全肉食性ってわけだ。
「星食いが始まるのは今から二日後。ここにいてもみんな死ぬから、必要なものだけ持ってあとは逃げる、ということです」
そこでクリアは足を止めた。
眼前には一軒家ぐらいの大きさの遺跡が建っていた。
「お前の家か?」
「はい。体内にある遺跡群は全て星食いで飲み込まれた建材を使って作ったものです。飲み込まれた物が私達の住処になるんですよね。まあ、次の星食いが始まればここの遺跡も全て消えてなくなりますけど」
「そして口からここまでやってきて、また住処を作るのね」
「ずっとその繰り返しですよ」
まるで、大きな輪の循環である。ウロボロスと言ってもいいかもしれない。
ヘビは、脱皮して大きく成長する動物だ。長期の飢餓状態にも耐える強い生命力などから、「死と再生」「不老不死」などの象徴とされる。そのヘビがみずからの尾を食べることで、始まりも終わりも無い完全なものとしての象徴的意味が備わった。
北欧神話に出てくるヨルムンガンドがその最たる例だろう。生命が循環しているという点において、なにか神の悪戯めいたものを感じるぜ。
「まあまあ、ここで話すのもアレですから中に入ってください」
遺跡に取り付けられた木のドアを押し開けて、クリアは中に入っていく。続けて俺達も中に入った。
内装は……普通のお部屋やね。強いて言うなら、女の子らしさが微塵も感じられない部屋だってことくらいか。必要最低限の家具しかここにはないのだ。
「すぐに引っ越すから、そんなに家具はいらないんだろうな」
「私達の種族……アルビナはみーんなミニマリストですから」
ミニマリスト……持ち物を必要最低限まで減らし、物に縛られない生き方を目指す者達のことである。
「とりあえず、肉を食べましょう」
「とりあえずって……俺達はル〇ィじゃないんだぞ」
「だってここには肉しかお出しできるものがありませんから」
「水は?」
「ないですよ」
「じゃあ水分補給はどうしてるんだよ」
「肉で水分は取れますから」
「肉食主義もここに極まれりだな」
「野菜? なにそれ?って感じです」
「家族? なにそれ?ってフェ〇タンみたいな言い方だ」
「フェ〇タン? なにそれ?って感じなんですが」
いや、知らなくて当然だよな。
「まあいいや。俺達は肉いらないよ」
「食べなくて大丈夫なんですか?」
「大丈夫な体なんだよ。菜食主義でなく、肉食主義でもなく、不食主義ってところかな」
「植物みたいな体なんですね」
「私達は水分も太陽光も必要ないのよ」
「永久機関?」
「使徒ってわけでもないけれどね」
S2機関を備え付けてるわけでもあるまいし。
「食欲はあるけど、ここまで来るまで肉ばっかり見てきたから胸やけしそうでな」
「香りで?」
「まあな」
「それは残念」
「でもあなた、太陽光なんて言葉よく知ってたわね」
「気が付きました?」
「ヨルムンガンドの体内で生まれた者達が、太陽の光なんて知ってるはずがないもの。どうして一度も見たことのないものの名前を知ってるのかしら」
生まれた時から全知全能な奴なんていやしない……こともないが、クリアがそうだとは思えない。
きっとなにか理由があるはずである。会話の流れからして、この質問まで誘導したかった節があるな。
「私、特別なんですよ」
「特別?」
「私、神様の窓口ですから」
「メッセンジャーって言いたいのか?」
「ええ。神様の啓示を私だけが受け取れるんですよ」
……神の言葉は人間には届かない。だから、人間達から一人を選んで告知人としたという話は神話じゃ珍しくない。それは他の世界だって同じことじゃなかろうか。
「神様と話ができるのか」
「いえ、話ができるわけではなくて……ただ神様の言葉を聞くことができるってことです」
「ああ、よくありがちな一方的なタイプだわね」
「神様が世界の住人と会話することってあんのかな」
「少なくとも私はなかったわね。人類が滅ぶまで、終始一貫して見守ってたわ」
「この旅でも神様の介在をよしとしないってスタンスだもんな」
「子供はいつまでも親を必要とはしないものだわ」
「自立しろってか」
「ニート予備軍を製造する気はないのよ」
「厳しいっすね」
「母親だもの」
「母星だものな」
「母性とかけてるつもりなのかしら。寒いわね」
「いつものドライな対応どーも」
「オールドさんは尻に敷かれるタイプ?」
「いや、亭主関白さ」
「カカア天下で間違いなしね」
「これもいつもの対立って感じですねぇ」
分かったような顔をして言うクリアはムカつくが、まあ概ね間違ってはいないので文句は言えないのであった。
「夫婦漫才はここらへんで大丈夫ですか?」
「夫婦じゃねぇよ」
「夫婦じゃないわ」
「シンクロしてある辺りが夫婦っぽいですね」
「否定したい気持ちでいっぱいになってくるのは気のせいか?」
「そこだけは私も共感よ」
ふむ、やっぱり磁石のS極とN極みたいな感じじゃないか。
「いえ、否定したいならすればいいんですけどね」
「精一杯実行中だぜ」
「照れ屋さんですねぇ」
うるせ。余計なお世話じゃい。
「まあ、私は神様のメッセンジャーとして、神様のご意思を他のアルビナ達に伝えてるんですよ」
「とすると、星食いのタイミングもその神様からの啓示で教えてもらってるんだろうな」
「聡明ですね。星食いの時期は本来ヨルムンガンドにしか分かりませんから」
「じゃあ、ヨルムンガンドがこの世界の神様ってことでいいのか?」
「ヨルムンガンドと神様はまた別ですよ」
「……どういうことだ?」
ヨルムンガンドは、北欧神話の神であるロキの息子だ。つまり、ヨルムンガンドも神の一柱である。
そしてブルーはこの世界に神は一柱しかいないと言った。であれば、ヨルムンガンド以外にこの世界の神様はいないはずである。
「じゃあ神様って誰なんだ?」
「それはですね……」
何故か少しばかし溜めてから、クリアは神の名を言った。
「ギリシャ神話の神……アキレウス様ですよ」




