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敵の手③

 ビジネスホテルの一室に()け込むと、キノはバッグを引っくり返した。整えられたベッドカバーの上に、中身が散乱する。


「先に服を見て来る。一度も脱いでないのにまさかとは思うが…廊下ですれ違った奴らの中に、スリの腕前でも持ってる奴がいたなら、発信器を仕掛けるくらい簡単なことだろうからな」


「どのくらい小さいのかな?」


「性能にもよるだろうが…米粒くらいのもあるかもな。とにかく、(すみ)から(すみ)まで見てくしかない」


 ジーンズのポケットから抜き出した財布を持ち物の山に放り、涼醒はバスルームに消えた。キノはベッドの上に座り込み、それらを(はし)から手に取っていく。


 あまり活躍しなかった3冊の地図と手帳を(めく)り、ハンカチを広げ、化粧ポーチの中の細々した物全ての(ふた)まで開けてみる。


 キノが自分のアパートから持って来た物の中に、ほかの誰かが触れた形跡はない。けれども、キノはバッグの内ファスナーに入っているキーホルダーにも目を()らす。


 見慣れぬものがないかどうか、徹底的にチェックする必要があった。しかも、可能な限り手早く。もし、キノたちが発信器とともに行動しているとすれば、それを受信する者は好きな時に、護りを持つ者の前に現れることが出来る。今この瞬間にさえも。


「見つかったか?」


「バッグの中にはないと思う」


 キノは息を吐いた。


 涼醒がベッドの縁に腰掛け、金の入った封筒を逆さにする。散らばった札の間に不審なものはない。ジャルドの用意したものは、館を出る前にすでにチェック済みだったが、見落としがないとも限らない。


「希音も調べて来いよ」


「うん」



 キノは着ている服全ての裏表を見て行ったが、(あや)しいものはひとつもなかった。洗面所の鏡に映る自分の姿を見つめる。鏡の前に差し出した手の平には何も乗っていない。


 すごく不思議…本当に私の目にしか見えないんだ…。


 キノは手の平へと視線を移した。そこには、胸元から取り出した黒い小石が、頭上からの灯りを()びて輝いている。


 誰の目にも映るようになるまで、あと6時間もない…。もし、夜明けまでに館に戻れなくて、ラシャに降りれなかったら…誰でもつかめる石になったら…。


 キノは力の護りを握り締める。


 もし、そうなっても…必ず守ってみせる。石の姿をしてるうちは誰にも渡さない。だから…


 キノは(こぶし)を広げ、そっと持ち上げた護りを額にあてる。


 希由香…私たちを守って…浩司の望みを叶えさせて…。


 キノは鏡に向かって微笑んだ。




「服にもなかったよ」


 溜息混(ためいきま)じりにそうつぶやいたキノが開いてる方のベッドに腰を下ろした時、涼醒は手帳の白い紙面を(めく)っていた。


「紙の間に()りつけてあるのかと思ってさ。この手帳、あの部屋にあったやつを、メモ代わりに持って来たんだよな?」


「うん。汐さんが館の電話番号とか教えてくれた時、書くものがなくてジャルドが引き出しから…」


 涼醒の手元を見つめていたキノの目が、記憶を手繰るように宙を泳いだ。手帳の表紙に留められているボールペンに手を伸ばす。


「これ、中の芯まで館で調べたよね」


「手帳につけるにしてはでか過ぎる。何か細工がしてあるんじゃないかってな。でも、普通のペンだったろ」


「一度…奏湖さんに貸したじゃない? 車の中で…」


 銀色をしたプラスティック製の胴体からペン先を外し、インクを満たす芯の部分を抜き出したキノの手が止まる。


「奏湖さんは、ちゃんと役目を果たしてたんだ…」


「クソ! あの時すり替えたのか!」


 涼醒が憎々し気に言った。


 ボールペンの芯の部分。通常なら12、3センチくらいのその細い管は、先の2センチ余りしかなく、残りはペンの幅に合わせた黒いケースのようなもので出来ている。その中に精密な機器が入っているであろうことに、疑いの余地はない。


 キノがサイドテーブルの時計を見やる。午前0時40分。奏湖との電話を切ってから、すでに30分が経過している。


「ここから出なきゃ…」


「見張りがいないことを祈ろう。もし、後で奴らがここに入って来たら、思いきり喜ばせてやる」


「居場所がわかってるなら見張る必要はないはずだけど、何かあって計画が変わったとしたら…もうすぐ来るかも」


 キノは、散らばった物を無造作(むぞうさ)にバッグに押し込んでいく。


「ジャルドは…さすがに手口が上手いよ。誰だって、腕時計は(あや)しむだろう。それを手放せば、とりあえず安心する。さり気なく二段構えとはな」


「…私たちが気づいたこと、まだ知らないといいね」


「だとすれば、これがプレゼントさ」


 走り書きをしたメモとボールペンをサイドテーブルに置き、涼醒が立ち上がった。


 (あわ)ただしく部屋を後にしたキノと涼醒は、薄暗い階段を下り、裏口から深夜の街へと姿を消した。

 ボールペンに内蔵された発信器は、持ち主の去ったホテルの部屋で、彼らの不在を知らせる時を待つ。見つける者へのささやかなメッセージとともに。


『 A little Surprise ! Tonight, This Bed is yours. Sweet Dreams... 』

 今宵(こよい)このベッドをあなたに!  よい夢を…。


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