表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/83

敵の手②

「森にいる者たちのことはわからないわ。一族以外の者だって入り込めるんだし。でも、門はいつも8時には閉め…」


 奏湖が言葉を止める。


「何だ?」


 携帯の向こうの気配を(うかが)いながら、涼醒が語気を強める。


「門の鍵…かかってないはずだわ。だってそうでしょう? 館にいる者は誰も外に出られないんだもの。鍵は私も持ってるけど、今夜はまだ館に帰ってないの。お昼過ぎに一度戻ったけどね」


「一族が集まってる時に、夜遊びしてていいのかよ?」


「私が館にいたって、何の役にも立たないもの。ジャルドやほかの継承者たちが来てる時は特に…息が()まるわ。それに、ラシャの者も苦手よ」


「昼間帰った時の様子は? あれだけの大人数が外に出るなと言われて、何して時間(つぶ)してる?」


「大人しいものよ。いろと言われた場所で、読書でもしてるんじゃない?」


「ジャルドや姉貴は?」


「会ってないわ。あなたたちが出掛けた後、客間に(こも)ったきりよ。継承者たち全員…ラシャの者と一緒にいるの。トイレに行く以外は部屋から出ないことにしたらしいわ。お姉ちゃんは、0時に中空の間にいる義務があるけどね」


「ジーグと、あの部屋に?」


「そう。ジャルドが、自分は(あや)しい動きをしてないって見せるためじゃない?」


 奏湖の忍び笑いが聞こえる。


「それでも、誰かが森にいて、あなたたちが戻るのを妨害してるって聞いたら、ラシャの者はジャルドがやってると思うのかしら?」


「もちろんさ」


「どうして? ジャルドの信者が勝手にやってることだとは考えないの?」


 涼醒はしばしの間を置いた。


「ジャルドの信者なら勝手にはやらないだろ? それに…俺が奴だとしても、絶対の信頼の置ける者や、手足のように使える者くらい抱えてるさ」


「彼の兵隊は、みんな館の中よ」


「…何でそう言える? おまえの知らない奴らだっているだろ? それとも、ジャルドについて知らないことはないのか?」


「そんなに詳しいわけじゃないけど…」


 奏湖が口籠(くちごも)る。


「とにかく…館に戻るなら、一緒に行かない? 私もそろそろ帰ろうと思ってたところだし」


 涼醒が、隣で耳を傾けているキノに目配せをする。


「俺たちは4時半頃まで戻らない」


「え?」


「奏湖。館のまわりにいる奴らに会ったら、よく言っといてくれ。もし今度、俺たちの行く手を(ふさ)いだら…迷わず警察を呼ぶ。ラシャの制裁を受けたくなかったら、邪魔するなってさ」


 奏湖が息を飲む気配が伝わる。


「涼醒君…本気なの?」


「何が?」


「警察なんて、リシールが頼るものじゃないわ。そんなことしたら…」


「困るなら、俺たちを無事に館に帰らせるように、ジャルドに言うんだな。あと、館の電話が通じない」


「電話? ああ…配線が切れたって言ってたっけ。買いに行けないから、そのままなのよ」


「なるほどな」


「…私を疑ってるの?」


「いや。だから頼んでる。護りは必ずラシャに戻ると、ジーグにも伝えてほしい」


 奏湖が黙り込む。短い沈黙を破ったのは、(あせ)りの混じる奏湖の声だった。


「あ…ちょっと待ってて。ほかから電話が入ったの。切らないでいて」


 小さな電子音が、単調なリズムで続く。


 キノが口を開きかけた時、奏湖の声が戻った。不自然に(ほが)らかなその口調から、明らかな動揺(どうよう)(うかが)える。


「お待たせ…えっと、護りは戻るって伝えるわ」


「何かあったのか?」


「ううん。友たちから、明日の授業のことでちょっと…何でもないわ。じゃあ、私は館に戻るけど、あなたたちも…」


「気持ちだけ(もら)っとくよ」


「だけど、早く戻った方がみんな安心するわよ。あなたたちだって、疲れてるでしょう? そんなところにずっといたってしょうがないじゃない。私一人の何を警戒するのよ?」


「そういうわけじゃないさ。だけど、自分たちで行く…戻る時はな」


 奏湖の溜息(ためいき)が耳に届く。


無理強(むりじ)いは出来ないわね」


「奏湖…もうひとつだけ聞きたいことがある。今夜来る予定の継承者は、もう館に着いてるのか?」


「リージェイク? そう言えば、まだ見かけてないわ。もうとっくに来ててもおかしくない時間だけど…館の中にはいないみたい。あの男のことだから、庭で空でも(なが)めてるのかもね」


「そうか…」


「彼がどうかしたの? ジャルドとは正反対の男よ。ここにいてもいなくても大して変わりないわ」


「奏湖。気をつけて帰れよ。ジャルドによろしくな」


「え? 待ってまだ…」


 言葉の終わりまで待たず、涼醒は通話を切った。キノに向けた()が笑う。


「決まりだな」


「よそからの電話…何だと思う?」


「本当に電話だったのか、誰かと直に話したかは知らないけど、何かあったのは確かさ。あの後の奏湖は、自分のついた嘘も忘れちまったみたいだからな」


「館にいるのに、まだ帰ってないって言ったのは、ジーグに替われとか言われた場合を考えてだとしても…」


 キノが眉を寄せる。


「何かおかしくない?」


 見つめ合う二人の脳裏に、同じ疑問がはっきりと浮かぶ。


「そんなところって言ったよな。まるで、俺たちの居所を知ってるみたいに」


「それに…奏湖さん、一度も聞かなかったよ。今どこにいるのかって…」


 二人が電話をかけていたのは、ファミレスの裏側の路地だった。辺りを素早く見まわした涼醒の目が、100メートルほど先に見えるビジネスホテルを見上げた。


「希音…」


「わかった。急がなきゃ」


 キノの視線が、ホテルの灯りから涼醒へと戻る。


「服の裏まで、全部調べるしかない」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ