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敵との対面②

 冷たい手が、キノの腕をつかんだ。


「希音、こっちへ来い。旅は短くて済んだようだな」


 暗灰色の洞窟を背景に、ジーグの蒼銀の髪が鮮やかに映える。(あか)い光を縁取(ふちど)る岩につまずきながら、キノはジーグとともにに池の1、2メートルばかり(わき)へと移動する。


「シキが無駄話をしていなければ、涼醒もじきに着くだろう」


 ジーグの声は耳に入っていたが、キノの視線は(あか)い池ではなくその周辺を(めぐ)り続けている。


 イエルにある湶樹の家の中空の間とほとんど同じ、15メートル四方ほどの岩作りの部屋。けれども、キノはこの空間のほぼ中央から見渡しているにもかかわらず、壁のどこかにあるはずの石の扉を目にすることは出来なかった。


「ジーグ…」


 (おび)えるような()を周囲に向けたまま、キノはジーグの身を(まと)(あお)い布をつかむ。


「心配は要らん。私がここにいる限り、彼らには何の手出しも出来ん」


「ここにいるのはみんな…」


「希音、どこに…」


 キノのつぶやきに、涼醒の声が重なった。


「何だ、こいつらは…!? いったい何だってこんなに…」


「涼醒、こっちだ」


 ジーグの呼ぶ声にこちらを向いた涼醒の顔にも、キノと同じ困惑の色が浮かんでいる。


「希音…俺から離れるなよ」


 二人のそばに来た涼醒が、震えるキノの手を握り締める。


「この人たち…みんなリシールなの?」


 キノの問いに、ジーグが笑う。


「だからと言って、おまえとそう変わりはせん。だが…思った通りだな」


 (あか)い光に向かって、ジーグが低い声を張り上げる。


「おい、(せき)よ。大勢の者が集まった上に、おまえのほかに3人もの継承者がここへ来ているのは…何のためだ?」


 その言葉に、中空の間に立ち並ぶヴァイのリシールたちが静まり返る。


「護りの発見を祝うためにここまで足を運んだ者たちに、何の他意(たい)もありません」


 池の向こう側から答えた女が、沈黙に足音を響かせる。


「ジーグ。無駄な邪推(じゃすい)はやめてください。私たちはあなた方を補助するためにいるのです。ほかの中空の間を守る者を除く3人の継承者も、彼らの力が何かのお役に立てばと思いここへ来ているのです」


「ほう。では、そういうことにしておこう。だが、この二人に手を出す者には容赦(ようしゃ)せん。皆によく言い聞かせておけ。おまえの意に反して無茶をする者がいると困るからな」


「…承知しております」


「道はもう閉じてよい。わけあって、浩司はラシャに残る」


 汐が眉を寄せる。


「浩司はヴァイに降りないと?」


「案じなくとも、力の覚醒はなされた。明後日には戻るだろう」



 (ざわ)めくリシールたちを、汐の視線が瞬時に(しず)める。


「浩司が今ここにいないことに、何か問題でもあるのか?」


「…いいえ」


 汐の視線がジーグからキノへと移る。


「あなたが希音さんですね。私は(あずさ)(せき)。浩司から聞いているでしょうけど…紫野希由香さんには、本当に申し訳ないことをしました。あなたにもお詫びします」


「希由香は? ここにいるんでしょ? 彼女はちゃんと無事でいるの?」


 汐と向き合い、キノが問いを重ねる。


「意識はありませんが、無事でいます」


「…会えるの?」


「私はこの館にある間、紫野希由香のところにいるつもりだ。おまえたちも一緒にな」

 

ジーグがそう言うと、汐が微笑んだ。


「希音さん。希由香さんのことは心配要りません。彼女の安全は、私が守ります。信じてください」


 キノは目の前の女性を見つめた。


 希由香と同じ歳くらいの、ここのリシールたちを率いる継承者。けれども、その()は優しくどこか悲し気で、そこに(たた)える暗い光は、浩司の宿す闇に似ていた。


「それが本当なら、こいつらは何でこんなに緊張した(つら)をしてる?」


 涼醒が険しい()で汐を見据える。


「ラシャの者を恐れてるんじゃないのか? 何かしでかす気がなけりゃ、ビクビクする必要もないだろ」


「あなたは…イエルの?」


「橘涼醒。ただのリシールだけどな」


 中空の間に、(ささや)きの声がいくつか響いた。


「俺がいちゃまずいのかよ!?」


 振り向いた涼醒を見て、彼らが口をつぐむ。


「彼らの多くは、イエルの者に会ったことがないだけです。気になさらずに」


 汐がジーグに向き直る。


「護りの石の在処(ありか)は、すでに判明しているのですか?」


「数時間前にな。だが、おまえたちに教える理由はないぞ。ヴァイのリシールの手を借りんでも、この二人だけでことは足りる。祝いのために集まったのなら、その準備でもして大人しく待つがよい」


「…何か必要なものがあれば、申しつけてください」

 汐が仲間たちに手で合図をすると、彼らは静かに扉までの道を空けた。


「どうぞ。後ほど、食事を運ばせます」


 ジーグに続いてリシールたちの注目する中を歩きながら、キノは不安を募らせる。

 強い視線を感じて顔を向けると、一人の男と目が合った。


 この人…継承者のうちの一人? 他の人たちと…雰囲気が違う。私を見る目が刺すように鋭くて…。


 明褐色の髪を肩まで伸ばしたその男は、金色の(ひとみ)でキノを射抜いたまま、ぞっとするほど冷酷な笑みを浮かべた。急いで視線を逸らしたキノの身体(からだ)に、戦慄(せんりつ)(はし)る。


 怖い…! 何故(なぜ)かはわからない。だけど…感じる。明日の朝、護りをラシャに持っ

て帰ることは出来ないかもしれない…。


 キノの手を繋いだままの涼醒が、その指の力を強める。


「俺がいる。浩司の代わりとまではいかないけど…おまえを守るって決めたんだ。大丈夫だ」


「ありがとう。涼醒…」


 (つも)る不安の群れを押しのけて、涼醒の思いがキノの心に優しく染み渡る。


「そばにいて…ひとりにしないで…」


 そう思うのは…こんな状況だから? 涼醒と一緒にいると、何故(なぜ)か安心出来る。でも…今の私の心は浩司でいっぱいで、涼醒の気持ちに(こた)える余裕なんかない。それなのに、そばにいてほしいなんて…私、勝手だ。だけど、浩司の代わりだと思ってるわけじゃないよ…。


「俺がいるからな」


 何も言わずに、キノは涼醒の手をぎゅっと握り返した。


 中空の間から廊下に出たキノたちの目に、館内に(すき)なく配置されているリシールたちの姿が映る。獲物を狙うハンターにも似た彼らの目が、待ち望んだ標的を(とら)えたかのように鋭く光った。


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