8日目. 少女との会話は休養になる
「……何で昨日は電話に出なかったの?」
「先輩と飲みに行ってたんだ。電話に出なかったのはすまんと思ってる」
朝起きると、またメリーさんからの着信が電話を鳴らしていた。そして急いで電話に出た第一声がこれである。
「………………」
「……悪かった。これからはすぐ確認するようにする」
「……分かればいいの」
何が分かったのかは僕自身よく分かってないが、昨日電話に出なかったことは全面的に僕が悪い。僕はメリーさんに対して(電話越しで見えないが)頭を下げる。
しかし、誠意は伝わったのか彼女からそれ以上の追求はなかった。あったところでやましいことなんて何もないが。
「……ヒロユキは最近忙しいの? 昨日だけじゃなくて一昨日も出なかったし」
「2日くらい電話に出れないことがあってもおかしくはないだろ」
「毎日1時間に一回はかけてたのに?」
「……忙しかったんだ。すまない」
確かに最近は家(電話の近く)にいることが多くなかった。昼は図書館か書店、もしくは現地調査。夜は自室でひたすらルートや観光地の検討。ここ数日はメリーさんはおろか、昨日出社するまで他の人とは一切まともな会話していなかった。
「……そんなに忙しいなら辞めちゃえばいいのに」
メリーさんはそんな物騒なことを言い出した。
「そういうわけにはいかないんだ。僕にも生活がある」
「……分かってる。言ってみただけ」
「どうだかな……」
今の口調は本気で言ってたような気が……いや、もういいや。
「そうだ、仙台のお土産ありがとな。あれ、かなり美味しかったぞ」
僕は重くなった空気を変えるため、違う話への転換を図る。
「……生ずんだは賞味期限が早かった、次は買ってくる」
「なまずんだ?」
聞きなれない言葉にオウム返しで聞き返す。
「……知らないの? 旅行会社で働いてるんでしょ?」
「残念ながら」
メリーさんは小声で「ふ~ん」と興味なさそうに相槌を打ってから僕に説明してくれた。
「生のずんだで生ずんだ。意味はそのまま、冷凍していないずんだもちのこと」
「へえ……最近のずんだもちは冷凍してるのか」
お土産でもらったずんだもちの箱の側面を見ると、確かに『冷凍で保存』と書かれていた。
「……だから次は生のずんだを買ってくるの」
「いや、そんなこと気にしなくても」
「買ってくるの」
「……ありがとうございます」
よし、話は美味く逸らせたようだ。しかし、僕とメリーさんの力関係が徐々に明らかになってるような……気のせいだと願いたい。
それにしても、冷凍ずんだに生ずんだ、か。いやはや、最近の技術は凄いな。
※ ※ ※
「……それでね、通天閣の上でビリケンさんにも触ったの」
「そうか。それでメリーさん、今何時だと思う?」
「……ん~……午後の4時?」
「そうだよ……」
つまり、朝起きてからずっと電話してるのだ。しかも主にメリーさんが話して僕がそれに相槌を打つという役目でだ。
「……大丈夫。昼ごはんはちゃんと食べたし、お母さんには許可を取ってる」
「僕が大丈夫じゃないんだよ……」
現に、僕は朝から一食もせずに約10時間ひたすら話を聞いているのだ。今にも倒れそうだ。
というか、メリーさんはいつの間に昼食を食べたんだよ……。
「……そっか。分かった、続きは明日にしたあげるの」
「悪い、明日は会議だ。また明後日でいいか?」
「……明後日ね。絶対なの」
「それじゃあな」
「あ、ちょっと待って」
明後日に約束を取り付け、早々に仕事を始めようと耳から放した受話器からメリーさんの声が聞こえた。
僕は下ろしかけた受話器を再度耳に当てる。
「まだなんかあるのか?」
「……お父さんからの伝言」
「お父さん?」
その言葉に僕は訝しげな表情を浮かべずにはいられなかった。メリーさんのお父さんと知り合った覚えはない。
しかし、メリーさんは僕の質問には答えず、伝言を淡々と述べた。
「『温故知新』だってさ」
「いや、だから何で君のお父さんが」
「それじゃ」
「あ、おい!」
ブツッ。
ツーツーツー……。
結局、今日の昼ごはんは抜きになり、その後の仕事には全く集中することができなかった。
内容が薄い&話が全く進まない&更新遅いの三拍子が揃っております。待ってくれた方申し訳ございません。
予定は消化しきったので来週からはまた半月前のペースに戻れると思います、いや戻します。
次回は水曜日に投稿予定です。