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5日目. 急用、つまり超弩級案件

「はあ、はあ……」


 午後7時、いつもなら開いているはずの職場が、今日は『本日臨時休業』の張り紙が扉に貼られ、完全に閉店モードに突入している。


 その扉を開けおそるおそる店内に入ると、やはりというべきか、店長を中心に社員が全員集合していた、僕以外は。


「遅いぞ秦野くん。一体何してたんだ?」

「これでも超特急で来たんですけど……」

「全く……電話もすべて無視しおって」

「え?」


 もう一度スマホの画面を覗くと『不在着信』の文字が。それも20個以上。時間も朝の六時から夜の五時まで。いったい何時間皆を待たしたのだろうか……考えるだけでも恐ろしい。


「……すいません」

「謝るのは後だ。それよりも重大な案件が入った」


 店内には緊張した空気が張り詰めている。いつもならここでふざける水本(みずもと)先輩も、今は真面目に話を聞いているようだ。


 僕も社員の列の一番後ろに並び、店長の話に耳を傾ける。


「皆も知っているよう、今月の21日にフランスのマイロン大統領が来日する」


 そういえばニュースでそんなことを言っていた気がする。詳しくは覚えてない。


「マイロン大統領は日本との貿易や連携強化について協議するようなのだが、その合間に日本を観光したいという要望があったようだ。彼は大の愛日家で有名だからな」


 うん? 話が段々きな臭くなってないか……?


「その話の中に『京都や奈良に行きたい』という案が上がってな」

「店長、体調が悪いので帰っていいですか?」

「まあ待て。その観光プランをSTBに考えて欲しい、と外務省から連絡が入った。そしてそのメンバーを選ぶんだが、先に聞いておこう。誰かやりたいやつはいるか?」


 皆一斉に店長から目を逸らし、そして訪れる静寂。まあ誰もやりたくないよね。僕もやりたくない。


 誰も手を挙げない中、痺れを切らして沈黙を破ったのは、大方の予想通り店長だ。


「……こうなることはさすがに予測済みだ。私もやりたくないしな」


『なら押し付けるなや!』と喉元まで来ていた言葉をグッと堪え、店長の言葉に耳を傾ける。


「……そこは突っ込んで欲しかったんだがな」


 見た目によらず面白いし面倒臭いなこの人。……そんなこと言ったら上から拳骨が降ってくるから言わないけど。


「話を戻そう。そこでSTB本社から、奈良県内の店舗である当店に白羽の矢が立った訳なんだが、昨日外務省から連絡が入ってな、少し条件が追加された」


 その言葉に、話を聞いていた全員が固唾を呑んで次の言葉を待つ。


 そして、次の言葉が放たれた瞬間、


「協議メンバーの中に秦野(はたの)弘行(ひろゆき)くんを入れろ、とのことだ。良かったな、秦野くん」


 僕は何を言われたか反芻する間もなく、その現実を突きつけられることになった。


        ※  ※  ※


「まあまあ、そんな表情しなくてもいいじゃないか」

「……そりゃ、こんな理不尽な内容で仕事任されたら誰でも不機嫌になりますよ」


 時は変わって、2月6日。今日は外務省との打ち合わせのため、店長と共にSTB本社のある大阪は難波まで来ている。


 光栄(?)なことに外務省に直接指名されるという、まるで奇跡みたいな悪魔の契約みたいな状況に陥った僕ではあるが、さすがに仕事とあっては断ることはできないので渋々本社まで赴くこととなったのだ。


 ちなみに、そのとき、条件を聞いた他の社員達は「皆! この条件に異義はあるか?」「「「「「異議なーし!」」」」」と惚れ惚れするほど見事な連携プレーで僕の反論を封じた。 ……覚えとけよお前ら。


 ……話を戻そう。ひとまず、本社の第一会議室で会議とのことだったのでそこへ向かう。店長も一緒だ。


 そして俺たちを真っ先に出迎えたのは、高さ235メートル、55階建て、中にはレストラン、ショッピングセンター、ホテルまでもが完備されているSTB所有及びSTB本社の入る超ド級の高層ビル『なんばスクエア』。


 いや、もはや大きいとか高いとかそういう次元の話じゃないだろこれ絶対何かの記録狙ってるだろこれ。


「でっか……」

「個人の所有する日本一高い建物だそうだな」

「へー……そーなんですね」


 僕の予想が見事に的中した。というかこれ個人所有なんだ……いくらするんだろ?


 という関西人的目線の僕には目もくれず、店長はスタスタとビルの中へと入っていく。僕は彼女の背中を追いかけて付いて行った。


 エクステリアに圧倒されていたが、インテリアもこれまた凄い、というか……やっぱり凄い。ただそれしか出てこないほどの豪華絢爛さだ。


 一階の床は大理石で張り巡らされ、天井にはシャンデリアが煌めいている。その中でも圧巻なのが、入って左右の壁に埋め込まれた絵画だ。優に億はくだらないだろうと思われる作品が十枚単位で羅列する姿はルーブル美術館、いや宮殿のようでエルミタージュ美術館を彷彿とさせる。


 もうこれ個人所有の域超えてますよね?


 と、一旦1階のホテルを後にして、僕たちは30階の本社へと向かうためエレベーターへと乗り込む。


 しかしそのエレベーターの中も(以下略。


「秦野くん、君、実は楽しんでやってるだろ?」


軽く冗談を漏らす店長だったが、その目は僕の方を一切向いていない。


「ええ、何かとても楽しいです」

「そうか、でも会議までには気を引き締めてくれよ?」


 そんな僕の興奮した気分を特に止める気もなく注意する店長の額には、薄っすらと汗がにじみ出てた。まるで何か別のことに緊張しているかのように。

今回は少し短めとなりました。

ちなみにドレッドノートは ✕ドイツ 〇イギリスの軍艦です。なんばスクエアに関しては、あべのハルカスを思い浮かべてください。

次回は日曜日投稿です。


追記 ドレッドノートはイギリスの戦艦です。訂正と共にお詫びします。

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