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46日目 飲み会のチェイサーはいつだって面倒事

エイプリルフールです。(特に何もありません)

活動報告にも書きますが、少し投稿頻度が落ちます。読んでくれている方は申し訳ありませんが、あと1年待っていただけると幸いです。

「何だ? 秦野くんは飲まないのか?」

「こう見えても家に小さい子が居るんでね。ベロンベロンに酔って帰るわけには行かないですよ」


 時間は進んで今は居酒屋の中。一杯目から生ビールで飛ばしていく店長に合わせて、僕もウーロンハイをオーダーする。生なんて飲んだ日には翌日動けなくなるので仕方ない。

 ……浴びる様に酒を飲んだ翌日は決まってメリーさんにまるで三角コーナーに溜まった【自主規制】を見るような白い目|(個人的妄想)をされたのだ。秦野弘行は学習が出来る男なのだ!


「割り勘だから飲まないと損だぞ?」

「その分食べるので」

「私も食べるぞ?」

「……すいません店員さん。生ビールください」


 ……結局圧力に屈してこうなるのは見えていたわけだが。

 周りの女性が大食漢だから別に割食っても気にしないけど、流石に女性より食べてないって悔しいので見栄をはっておく。べ、別にお金のためじゃないんだからね!


「秦野くん。気持ち悪い」

「心読まないでくれますか覚り妖怪ですか?」


 本当にこの化けもん店長は……いえ、何でもないです。何でもないので今にも視線で射殺そうとしないでくださいプレッシャーで圧死してしまいますから!


 店長の視線から逃れようと届いた生ビールを喉の奥へ流すと、アルコールが喉を焼く独特の感触が体へと侵食していく。心臓の音が耳の中でドクドクと鳴り、雲の上に乗っているかのごとく浮遊感が自身の体を弄ぶ。チェイサーとしてお冷を熱くなった喉へとぶつけ、酒に対する日頃の鬱憤を吐露する。


「酒って何回飲んでもなれねぇのに……」

「酒弱いのに毎回律儀に飲む君も君だけどね」

「そうでしたっけぇ~……」

「本当に弱いな」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 吐露したことにより、少し酒が体と馴染んできたので今日の本題へと触れる。


「で、今日は何なんですかぁ?」

「何が、とは?」

「とぼけなくてもいいじゃないですかぁ店長~。店長が人を飲みに誘うときなんてぇ嫌な話を持ってるくらいしかないでしょぉ~?」


 店長は「バレてたか」と苦笑し、ジョッキの中身を一気に飲み干すと、枝豆を食べながら面倒くさそうに口を開いた。



「どうってことはない。水本くんが鬱ったから何とかしてくれってだけだな」



 店長の口から飛び出した爆弾発言は、あまりにも普段どおりの口調だったため一回では酔っ払った脳では認識することが出来なかった。

 何度か店長の放った言葉を反芻しながらゆっくりと自分の脳へと浸透させていき、まず最初に俺の口から出た音は、


「…………は?」


 一瞬で酔いが覚め、それでも認識が出来なかったためにエラーが起こった音であった。


「いやだから水本くんが鬱になったから何とかしt……」

「何でどこでいつどうやって!? 5W1H! ホウレンソウ!」

「昨日は何事も無かったんだがな、今日になって生返事ばっかりになった。意識もうわの空だし、正直使い物にならん。理由は不明だ。後連絡は今した。何とかしてくれ」

「何とかしてくれじゃないでしょう……」


 店長の無茶振りとも言える案件に、僕は天井でさんざめく蛍光灯など意に介さずに天を仰いだ。


 水本くん、改め水本勇樹は僕の二つ上の先輩である。つい最近までは地元仕込の関西弁を聞かせて僕と馬鹿騒ぎを起こし、度が過ぎて店長に拳骨を食らう、というのがSTB奈良支店のお決まりであった。


「秦野くんなら何とかしてくれそうなもんだがなぁ……」

「…………少し時間をください。後本当に心配なら精神科まで連れて行くのが一番だと」

「それは彼が決めるところだけどね」


 僕が別の場所で仕事をしている間に何かあったのか、はたまた別の要因かは不明だが、今の僕にどうこう出来る問題ではない。少し様子を見て病院に連れて行くか猫カフェに連れて行くかを決めたほうがよさそうだ。猫は可愛いしね!

 それに彼には入社したときに非常に世話になった恩がある。「恩返し」というわけではないが、自分がしんどいときに助けてもらった分位は返さないと失礼だろう。


「……分かりました。出来る限るは何とかします」

「助かるよ。後用件はもう一つあってな」

「そっちは嫌です。厄介事はこれ以上いりません」


 僕がそう言い切ると、店長は法隆寺の釈迦三像の如くアルカイックを浮かべた。


「………………………………」

「………………………………」

「…………………………………………………………」

「…………………………………………………………」

「……だああああああああああああああああああ! 分かりましたよ! やりゃぁいいんでしょ!」

「話が早くて助かるよ」


 結局店長の微笑に居た堪れなくなり投げやりに受諾した僕に対して、店長は最大級の仕事スマイルを浮かべた。


 駄目だ怖すぎる……。まさか店長が七色の圧力の使い手だったとは……。そしてこれに対抗できる伏見さんが怖すぎる……。


「でも、これは君にとっても大切かもしれないからね」

「……?」


 僕が疑問の表情を浮かべると、店長はトートバッグの中から一束の資料を取り出した。表紙には「極秘」と赤字で書かれており、その下には人事部長の名前が載っている。


「極秘……なのに何でここにあるんですか……?」

「コネ。以上」

「えぇ……」


 引越しした件といい、この人のコネクション強すぎでは?


 だが、いくら気にしたところで何かが変わるわけでもなく、僕は意識を切り替えおもむろにページを開いた。人事部と書かれていたことから粗方予想はついたが、ある程度検閲を入れられているとはいえ、そこには各部署の社員一覧が記載されている。ペラペラと捲っていると、二三ページ目に書かれていた一文に僕の視線は釘付けとなった。


 店長は追加で頼んだ生ビールをあおりながら、楽しそうに、嗜虐的な笑みを浮かべて言葉を続けた。


「まあアレだな。丘野友禅(ともゆき)くんがSTB九州支部のエース『丘野友全(ともまさ)』の息子だったってことだな」


 酒の所為かは不明だが、また頭が痛くなってきた。

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