44日目 プリンは夕食に入りますか?
お久しぶりです。
ゆっくりですが、投稿再開していきます。よろしくお願いします。
「ヒロユキー! プリンなのー!」
「開口一番のそれは師匠だいぶ傷つくな! あと僕はプリンじゃない!」
と、お決まりのツッコミをかましたここは、最近引っ越したばかりで木の香りが漂う我が家の玄関である。
そして、その上がり框の上で金色の髪をたなびかせながら僕を出迎えてくれた少女は仲夢明梨、通称メリーさんだ。エプロン姿で「もうご飯できてるの!」とは正しくできた妻――――――失礼、できた内弟子である。
「プリンなのー!」
「わかった、分かったから。買ってきたから冷蔵庫で冷やしておくよ」
「やった! ヒロユキありがとうなの!」
電話口では怒気を孕んでいるように感じた彼女の声だったが、別段そのような雰囲気は感じない。むしろプリンの登場で喜んでいるようにも見える。
自室でネクタイやらを外してからリビングへ降りると、メリーさんがニッコリと笑っていた。
「今日はいつもより少し豪華に作ってたの!」
「おおー、いつもより花があるなー!」
客が多く来ても良いように少し大きめに買ったダイニングテーブルは、狐色にこんがりと上がった唐揚げ、緑の中に黄色い花が咲き誇っているミモザサラダ、チーズの焦げた匂いが鼻腔を擽ってくるグラタン、卵の黄色とトマトの赤のコントラストが映えたオムライス等々、かなり力&気合いがこもった夕食で綺麗に彩られていた。自信ありげにメリーさんがご飯ができたと言ったのも納得の出来だ。
「今年度の仕事始めだから、少しお祝いの気持ちを込めたの!」
って言われたら泣きませんか? 僕は完全に涙腺崩壊しましたよ、ええ! ありがとう、メリーさん。
一口つまんで食べた唐揚げからは、パリッと上がった衣の中から熱々の肉汁が飛び出してきて、思わず頬が緩む。店で売っているものと比べても遜色ない美味しさである。
「……ちなみに、これ全部メリーさんが?」
「もちろんなの! 少し奏音さんに教えてもらっただけで後は全部自分で作ったの!」
「そうなのか……凄いな、本当に」
奏音は僕、秦野の幼馴染だ。僕が昔住んでいた大阪にカフェを持っており、現在はそこの(幽霊)オーナーを務めている。……わざわざ幽霊と言った理由は殆どそのカフェが開いてないからであるが。
そのカフェオーナーという一面の他に、彼女は趣味として世界全土で食べ歩きを行っている。そのため料理の腕前はピカイチなのだろう。
奏音とメリーさんが連絡を取っていることは
そして、もはや小学生の域を超えている料理の出来に、僕は感嘆の声を漏らさざるを得ない。本当にできた妻――――――本当によくできた内弟子である。
「ありがとう、冷めないうちに食べようか」
「はいなの!」
「…………うん、食べよう、そうしよう」
いつも見ているはずのメリーさんの笑顔であったが、妙に小っ恥ずかしくなりオムライスを口の中へと掻き込んだ。
※ ※
「はぁ……」
小一時間ほどで食事を済ませ、その後どこへ旅行へ行こうかをメリーさんと一緒に考える&一応旅行資格についての勉強を済ませた後、僕はリビングでボー……と虚無を眺めていた。メリーさんはテレビに映っている旅行バラエティ番組に釘付けになっている。今の場面はちょうどローカルバスの最終便に乗れなかったお笑い芸人が歩きで宿まで向かっているシーンだった。
仕事柄、「バスの時刻は早めに確認しとかないとなー……」、「あそこの料理屋さん美味しいよなー」なんてことを考えていると、隣から憂慮のこもった視線が刺さっている。
「どうしたの? ご飯美味しくなかった?」
「いや、全然そんなことは無かったけど、何で?」
「ヒロユキ、ずっとため息ばっかりついてるから」
「あー……ごめん、気をつける」
彼女いわく最近数分単位で無意識にため息をついているらしく、小学生にも気にされるているのは問題である。そうして考えている間にもため息を零していたことを指摘されたので、本格的に対策を講じねばならないかもしれない。
「あとプリン食べていい?」
「良いけど寝る前にはしっかり歯磨いてな」
「はーい!」
おそらくではあるが、ため息をついている理由は何となく理解しているつもりだ。
機嫌よく冷蔵庫へと向かうメリーさんとは裏腹に、僕の両肩にはそのまま地面へと埋まって行きそうな程の重荷がのしかかっていることだろう。
某新入社員のことだ。
電話口から彼のことを聞き、STBに入社してきた際は今までにかいた量をはるかに超える冷や汗を流したが、初日に見た彼の言動からはそんな様子は微塵も感じることが出来なかった。
どこかからのスパイなんてことはあるのか数刻考えたが……いやいや、そんなファンタジーみたいなことある訳無いある訳無い。
メリーさんが取ってきてくれたプリンを食しながらウンウンと唸っていると、テーブルからも唸り声が聞こえてきた。よく聞くと唸り声ではなく着信音だったが。
テーブルの上に置いてあった携帯を見ると、画面には「店長」の文字と赤い着信ボタンが記されている。
「はぁ……」
嫌な予感がプンプンするが、上司からの電話に無視するわけにはいかないため、僕は大きくため息を零してから、赤いボタンを押した。
「もしもし?」
「秦野くんだな? 少し仕事で話したいことがあってな、明日の夜は開いてるか?」
残念ながら先月のボーナスの話ではなさそうだ。そして急ぎの用ではなさそうだが、何やら物騒な香りがする。
「はい、特に予定は入ってないですが……」
「じゃあ明日の七時から九時くらいまでは予定を空けておいてくれ」
「あの、家には小学生がですね」
「君よりもしっかりしてるから大丈夫だろう」
「………………そっすね」
一応の抵抗を試みるも、チャップマンも目を見開くほどの剛速球で返ってきた。悔しいが真実である。
「一応彼女に聞いてからまた連絡を入れます」
「分かった。もう予約は入れてるからそっちは気にしなくていい。じゃあ」
はえーよ……。と口に出す前に電話が切れていた。上司に向かってため口を言わずに済んだので吉と見るか、はたまた厄介ごとが両肩に追加されたので凶と見るか。……明らかに後者なのは言うまでもない。
「メリーさん、明日帰ってくるの遅くなるから一人で済ませられる?」
「んみゅ?」
美味しそうにプリンを食べていたメリーさんはしばし瞑目した後、目を輝かせながら提案をしてきた。
「奏音さんに頼むから大丈夫なの! また美味しいもの教えてもらうの!」
「ああ……ならあいつに頼むか」
その後奏音にメリーさんの子守(?)を頼んだ結果、すんなりOKを貰った代わりにスイーツをせがまれた。
僕のため息の数がいつにも増して増えた気がした。
半年ぶりでしたが、待ってくださっていた方々、本当にありがとうございます。
しばらくは不定期で投稿しますが、ゆっくりと見守っていただけるとありがたいです。




