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幕間 明梨の里帰り

お久しぶりです。息抜きに書いたら筆が乗ってつい書いてしまいました。

「そう言えばさ」

「んみゅ?」


 今はとある平日の夕暮れ時。


 メリーさんは僕が買ってきたお好み焼きを頬張りながら首を傾げた。


「メリーさん実家に帰ってたよな? その時の話ってないのか?」

「んー、ほんははなひははんはひはひほ」

「すまん、飲み込んだ後で頼む」


 全く聞き取れなかった。余談だが、何故ものが口に入っているときはハ行になるのだろうか。


 メリーさんは豚焼きを飲み込み終わり、丁寧に口の周りのソースを拭き取ると、少し思案してから口を開いた。


「んーとね、少し長くなるけど……」


 これは先日仲夢明梨が里帰りしていた時の話である。


 という訳で地の文は天の声へバトンパスしておこう。


 ※   ※   ※


「パパー! 久しぶりなのー!」

「おー、おかえり明梨」


 明梨はその長く伸びた金の髪をたなびかせながら、家に帰って久しぶりに会った父親に抱きつく。特にホームシックになった訳でもないが、父が仕事から帰ってきたときには必ずと言っていいほど玄関までハグしに行く彼女にとっては自分が帰ってきた場合でも同じ行動をとるようだ。


 その彼女を若干白みがかった髪、少し背が高く肉付きもしっかりしている男性――もとい父である仲夢譲二は優しく抱き返し、少しだけ背が伸びた彼女の頭を撫でた。


「パバ、今日はなんで家にいるの? 仕事じゃないの?」

「今日は珍しく休みだったんだよ」


 もちろん嘘だ。


 譲二は明梨が帰ってくると決まったその日から、国会に欠席届を出していた。


 バレれば謝罪案件ものではあるが、仲夢譲二の親バカぶりは与野党の中でも広く知れ渡っており、他の仕事ぶりも相まって最近は黙認されていることが多い。


 本当にこれでいいのかはこの際置いておくとしよう。


「あら、明梨おかえりなさい」

「ママ! ただいまなの!」


 玄関から伸びた廊下のドアから、明梨と同じ金髪に青い瞳、それでいてどこか和の雰囲気を醸し出す女性――もとい彼女の母である仲夢深琴(みこと)は朗らかな笑みを顔に浮かべ明梨の帰宅を歓迎した。


 明梨も母へ屈託のない笑顔でハグしに行き、深琴もそれをゆっくりと受け止める。


「あれ? ママも今日は仕事ないの?」

「今日はたまたま休みだったのよ」


 当然嘘である。


 深琴の職業はファッションブランドの社長である。


 故に仕事の休みはほぼ0に等しいのだが、そこは親バカの深琴である。当然のように仕事を休むと彼女の右腕へと告げ、当然のように明梨が帰宅するのを待ちわびる。


 本当にこれでいいのかはこの際言及しないでおこう。


「そうだ! ママとパパにお土産があるの!」

「そんなに気にしなくてもいいよ。お土産は帰ってきた明梨で十分だ」

「そうよ。明梨の帰宅が私たちのカンフル剤なんだから」

「深琴、それが本当なら俺たちは死にかけてることになるんだが?」


 深琴の発言に譲二は堪らずツッコミを入れる。カンフル剤は起爆剤と同義、モチベーションを上げるのは別のものだ。


 しかし、深琴はのほほんとした雰囲気を醸し出すが、されど凛とした表情は崩さない。


「あら、そうなの? でも意味が分かればそれでいいでしょ?」

「それはそうだが……」


 譲二はまだ言いたいことがあったようだが渋々引き下がる。


 いつもは内閣の重鎮として国を回し、一省庁の長として君臨している譲二ではあるが、身近なところにも頭の上がらない人間はいるようだ。


「パパ、ママ。そろそろお土産話してもいい?」

「え? あ、ああ。すまんな話の腰を折ってしまって」

「立ち話もなんですから、お茶入れてきますね。明梨とパパは座っててくれるかしら?」


 靴を綺麗にそろえてからLDKへと向かい、明梨と譲二はダイニングテーブルへと席に着く。


 インテリアの少なく整然とされた室内は、一ヶ月前とほぼ変わらぬ姿を維持していた。


 深琴が淹れた紅茶を家族3人で飲みながら、明梨はこの1ヶ月の間に起こった出来事を語り始めた。


「えっとねー……」


 そして数十分後。


「それでね、そのときヒロユキが……」


 さらに数十分後。


「でね、そこで……」


 ここからさらに数時間が経過した。


「そしたら、ヒロユキが」

「明梨、そろそろ切り上げて夕食にしないか?」


 たまらず譲二が声を上げた。


「んみゅ? まだ少ししか話してないのに?」

「明梨? 4時間近く話して『少し』なのは多すぎないかしら?」


 深琴もたまらずツッコミを入れる。


 言われた明梨は……


「? ヒロユキは何も言わないで全部聞いてくれるよ?」


 凄いあっけらかんとしていた。


「……あなた、秦野君にあとで」

「……ああ、謝礼を送っておく」


 ちなみに、この謝礼を弘行は全力で拒否したという。


 ※   ※   ※


「明梨、向こうの子とは仲良く出来てるか?」

「うん! いつも遊んでくれる友達がいて楽しいの!」


 場面は変わって今は夕食後の家族団欒の時間。


 彼女の連絡は、弘行が毎日欠かさず送っているため心配はしていないが、何せ譲二も深琴も人の親。やはり直接本人から聞きたいものである。


 そして、当然明梨の視点は弘行のものとはベクトルが違うので、


「翔子ちゃんは晃くんのことが好きなの! でも、晃くんはクラスの人気者だからみんなが好きなの!」

「お、おお……」

「優奈ちゃんは追いかけっこがとても速いの! この前は近くの公園まで競走したけど全然追いつけなかったの!」

「え、ええ……」


 この場で彼女以外誰も知らない友達の個人情報がダダ漏れしているのである。


「そ、そうだ! 明梨、弟子入りして何か得たものはあるか?」

「んみゅ? 得たもの?」


 譲二、必死のダイブでよそ様の個人情報シャットアウトに成功。


「そうそう。色んなところに行ったみたいだが、何か学んだことはあるか?」

「んー……」


 明梨は少し思案すると、思いついたのか手をポンと叩いた。


「関西人らしい値切り方を教わったの!」

「「ん?」」


 2人とも怪訝な顔をする中、明梨は言葉を続ける。


「旅行先の値段は観光地なだけにとても高いの! でも、ヒロユキは値切って半額より安くすることもあるの! さすがヒロユキなの!」

「そうか、良かったな」


 譲二の顔から表情が少し抜け落ちている。


 明梨はその顔を見て察したのか、慌てて弁明をする。


「あ、旅行のことももちろん教えてもらってるの! もちろん旅行業務取扱管理者の件もだけど、他にも色々なことを教えてくれるの!」

「そ、そうだよな! さすが秦野くん!」

「あなた、さっきからキャラが安定してませんよ?」


 深琴の冷ややかな目線から、譲二は顔を逸らした。


「でも、弟子入りして学んだ1番大切なことは……」

「「ことは?」」


 ※   ※   ※


「やっぱりヒロユキには内緒なの!」

「何で!?」


 教えてくれなかった。


 あ、天の声さんから地の文は返してもらいました。


「何がなんでも秘密なの〜!」

「ちょ、メリーさん!?」

「ヒロユキ、もう少しお好み焼き欲しいの!」

「あぁ、どうぞ。……ってそうじゃない、教えてくれよ!」

「ダーメーなーのー!」


 メリーさんが隠しているのは何なのか、この謎は永久に解けそうになかった。


 ……いや、親御さんに聞けば分かるけど、ね?


 お好み焼きを美味しそうに頬張るメリーさんを見ると、僕の頬も自然と緩んでくる。


 今日もまた、いつも通りの時間が過ぎていくのだ。

オチはありません。受験生ですので。

メリーさんの友人はいつか出るはずです。


では、今後もよろしくお願いします。

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