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37日目. 転校生ってワクワクするよね

「はい、これで編入完了です。新学期からここに通ってもらえますね」

「ありがとうございます。すいませんこんなに遅いタイミングになってしまって」

「随分とお仕事が忙しかったんでしょう? なら仕方ないですよ」

「ははは……」


 必死の作り笑顔で内心を悟られないように心がける。まさか今日まで忘れていたなんて口が裂けても言えない。


 話を逸らすように、僕は前もって聞きたかったことを聞いておく。


「あの、教科書販売はいつなんでしょうか?」

「クラスが決まってからお渡しします。教科書代はその後お子様を通じて請求させて頂きます」

「そうでしたっけ……」


 小学校時代のうろ覚えの知識を絞り出しながら、そうだったっけ……そうじゃなかったっけと脳内をウロウロする。


 と、そんなことは後でいい。もう1つ聞いておきたいことがあったのだ。


「あの、もう1つ聞いてもよろしいですか?」

「ええ、何でしょう?」

「1年生からの転校とは違って、2年生ってもう既にグループが出来てるじゃないですか? それでもしかしたら友達ができないのではないかと思うと不安で……」


 メリーさんが他の人と話している所をあまり見ていないため、もしかしたらと思うと不安で不安で仕方ないのだ。


 だが、担当して頂いている女性の先生は「何だ、そんな事か」と肩を落とした。


「心配しなくも、小学生は思っている以上にできる子ばかりですよ」

「先生がそう仰るなら大丈夫なんでしょうが……」


 やはり一抹の不安は残る。


「なら、次の授業参観へいらっしゃってはいかがでしょう? それを見れば問題ないことが分かると思うのですが……」

「なるほど……分かりました。お呼ばれに預かります」

「いや、普通に呼びますけどね? お子様にプリントを渡しますからそれでいらしてください」

「あ、はい」


 最後の最後で気が抜けた。気がした。


「ではまた連絡等あればお電話致します」

「分かりました、本日はありがとうございました」


 担当の先生に一礼して職員室を出る。が、一緒に来ていたはずのメリーさんがいない。


 メリーさんはどこかと校庭の方へ視線を移すと、彼女は楽しそうに同じくらいの年代の子と遊んでいる。見たところ「だるまさんがころんだ」をしているみたいだ。


 メリーさんが鬼の後ろに着いた。……メリーさんがなんか言ってるな。鬼の子の「キャー!」という悲鳴が……でもその女の子は笑ってる。


 あ、メリーさんが帰ってきた。


「ヒロユキ! 学童の子達はとても面白い子ばっかりなの!」

「そうかそうか、それは良かった」


 どうやら僕の師匠バカ的な心配は杞憂だったようだ。


「で、1つ気になっただが……メリーさん、あの子の耳元でなんて囁いたんだ?」

「ん? 「私メリーさん。今、貴方の後ろにいるの」って言ったの!」

「そりゃあの子も「キャー!」って言うわ。もう少し自重、OK?」

「OK牧場なの!」


 古いなぁ、とは言わずに心の中で留める。とりあえず、おそらく元凶である父親の方に後で問いつめることは確定した。


「今日で有給は終わりだからな。また明日から職場通いになるけどいいか?」

「問題ないの! メリーさんにお任せなの!」

「なら任せておくか」


 何を任せるか? そんなことは知らん。ただ任せると言ったら任せるのだ。


 ※   ※   ※


「終わったなー、奈良旅行。思ったより楽しかったよな」

「想像以上だったの!」


 今は近鉄の電車に乗りながら絶賛思い出に浸っている。たった4日間とはいえ、ここまで密度の濃い時間を過ごすことは今後も滅多にないだろう。


「初日は……物件視察からだっけ?」

「やっぱり新居はテンションが上がるの!」

「その後は鹿せんべい買って氷室神社行ってかき氷食べて」

「かき氷はフワフワで美味しかったの!」

「2日目はなんと言っても法隆寺だよな。世界遺産だとメリーさんSMTになることがよく分かった」

「SMT?」

「うん、SMTスーパーメリーさんタイム

「よく分かんないけどカッコイイの!」

「で、その後は柿の葉寿司食べたり雑貨見たり……あ、靴下めっちゃ買ったからしっかり消費しような」

「かき氷美味しかったの!」

「ほんとにかき氷好きだよな……お腹壊さないでくれよ」

「心配ご無用なの!」

「……で、3日目はショッピングモールに寄って服買ったり本買ったり」

「富雄ラーメンを食べたの!」

「1回食から離れような? な?」

「そうだ! 社会学部について聞くの忘れていたの! ヒロユキ! プリーズテルミー、なの!」

「家帰ってからな。で、その後すぐに市役所寄って書類集めて、家購入したな」

「まだ引渡が残ってるの!」

「そうだな、忘れないようにな」

「やっぱり私に任せておいて正解なの!」

「うん、そうだな」

「……ヒロユキ? 何で目が窓の外を向いているの?」

「いや、何でもない。気にするな。それで今日はすぐに小学校に編入届けを出して……何で大臣が届出を出してくれなかったんだろ?」

「お父さんは案外面倒くさがりなの! 多分そういうことなの!」

「どういうことだよ……でもメリーさんには友達ができて良かったな。新学期からは友達とまた一緒に遊べるぞ」

「ヒロユキも新学期から新しい仕事を押し付けられるの!」

「う……それは思い出したくなかった……」

「ヒロユキ! 目が死んでるの! 生き返るの! ヒロユキー!」


 ※   ※   ※


「そういえばなんでメリーさんを名乗るようになったんだ?」


 電車を乗り継ぎ、今はもう谷町四丁目の道中。ふと気になったので聞いてみる。


 ちなみに僕は死んでいない。しっかり生きている。


 小さめのスーツケースをカラカラと鳴らし、メリーさんは夕日を浴びて輝く後ろ髪をたなびかせて堂々と応えた。


「覚えてないの! 気づいた時にはもうメリーさんだったの!」

「お、おう。そうか」


 ダメっ子じゃねぇか! 心の中でそう叫んだ。


 いや、もしかしたら本当に生まれたときからメリーさんだったのかも知れない。でもそうならばメリーさんは人形ということになるが……話し方が人間だもんな。人形な訳ないよな、そうだよな。


「ヒロユキー!」

「んー? 何だー?」

「お腹空いたのー! 何か買ってきてもいい?」

「あー、いいよ。そんなに高くないやつでな」

「わーい! かき氷買ってくるの!」

「………………」


 やはりこの子、ダメっ子じゃねぇか!


 結局、僕の中には「メリーさんがダメっ子だった」という結果だけが残るという、なんとも締まらない結果で有給を消化し切った。

はい、という訳で春休みとともに秦野の4連休も終わりました。もう少しだけ1章は続きます。


次回は水曜日投稿予定です。

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