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35日目. ラーメン激戦区「TOMIO」

 ある暖かい日の昼下がり……といっても3月上旬なので気温は摂氏15度ほどなのだが、メリーさんは改札を出ると両手を広げて喜びの声を上げた。それにつられて金色の髪もバサッと舞い上がった。


「富雄なのー!」

「そうだな」


 ラーメン激戦区、富雄。


 奈良県のラーメンといえば天理にある某ラーメン店Aと某ラーメン店Bが有名だが、実は奈良市と生駒市との間にあるこの富雄も隠れたラーメン激戦区である。ここのラーメンを食べに他県から訪れる人もいるとかいないとか。


 そんな富雄でも有名なのは「泡系ラーメン」で有名な某ラーメン店C。テレビ露出も最近多く、あべのハルカスにもイベント出展したりカップ麺を作ったりしている人気店だ。


「かき氷といいラーメンといい、奈良県の料理は何でも泡にして芸が無いの」


 なんて考えていたらとんでもない事を言い出した。誰がって? もちろんメリーさんだ。


 某ラーメン店C、ひいては富雄ラーメンの名誉のため、当然僕は彼女に反論する。


「いや、むしろ芸しかないだろ。そのかき氷やラーメンを考えるのにどんだけ苦労したと思ってるんだ?」

「分からないの、ヒロユキは?」

「……まあ僕も分からないけどさ。おそらく並々ならぬ努力があったと思うよ」


 分からないけど。


「ふーん……今日はそういうことにしておくの」

「『今日は』という言葉にちょっと引っかかるけど……いいか」


 少し不満げな顔でメリーさんに僕は持ち合わせの飴ちゃんを与えた。蒼穹の瞳がキラキラと煌めいている! メリーさんの機嫌は直った! ……やっぱりメリーさんって扱いやすい……いや、素直だなあー。


 ……うん、しっかり考え直したからそんなに睨むのは止めてくれ。ついでに爪を立てて手を握ってくるのも止めてくれ。


 ゴホンと1回咳払いをし、僕は彼女に忠告する。


「頼むから過激なことばっかりは言わないでくれよ? そうじゃないと社会的に批判が集まる」

「? 誰から批判されるの?」

「……すまん、何でもない。でも出来るだけ過激な発言は控えよう、な?」


 ぽかんとした顔のメリーさんの頭を撫で、僕自身も飴を舐める。糖分補給は大切だ、うん。


 現実逃避しながら富雄川沿いを歩き、先ほど買った本の著者「丘野友禅」についてスマホで調べる。


「丘野友禅……やっぱりどこか引っかかるんだよな」


 どこかで聞いた気もしなくもないが、どうしても思い出せない。なのに何故か胸に引っかかり続ける。と言うわけでG○○gleに「丘野友禅」と挿入し、検索検索ぅ!で、検索結果は、と。


 『丘野友禅』に一致する情報は見つかりませんでした。


 あれれ? おかしいぞー? ということで今度はYAH○○! で検索する。


 『丘野友禅』に一致する情報は見つかりませんでした。


 ダメだ……もしかしてスマホが悪いのかな……でもこの機種最新から3世代だけ遅れてるだけなのにな。


「ヒロユキー、歩きスマホ、ダメ絶対なの」

「……すまん」


 僕はスマホをポケットに直し、ほっぺたを膨らましてご立腹のメリーさんの頭を撫でる。不満げながらもメリーさんは飴を受け取り、舐めながら頬を緩めている。


 河川敷に目をやると、中学生くらいの子供たちが興に乗じてサッカーを楽しんでいる。時折聞こえる「ナイシュー!」という声が中学や高校時代の部活を思い出されて中々に懐かしい。


「サッカー楽しそうなの!」

「だな、部活が懐かしく感じるな」

「ヒロユキは昔は何部に入っていたの?」

「え、僕?」


 げぇ……あんまり答えたくないんだけどな。だからと言って答えないわけにもいかないのだが。


「うん、ヒロユキの部活。運動部に入っていたの? それとも文化部だったの?」

「えっと……社会学部?」

「? 何それ?」


 ほら、こういう反応になるでしょ?


 首をかしげるメリーさんに説明をば。


「えっとな……社会学部っていうのは学校に竪穴住居造ったり、世界遺産を回ったり他には」

「世界遺産!? ヒロユキ! 世界遺産ってどこに行ったの? どんな感じで巡行したの? もう少し詳しく!」

「お、おう……」


 食い気味に質問してくるメリーさんの剣幕に思わず尻込みする。


「あ、そろそろ店に着くしその話は後でな」

「分かったの! 世界遺産部、どんなところだったのか楽しみなの!」


 しかも名前変わってるし……。


 ともかくラーメン店に着いたので、もちろん入店する。


「いらっしゃいませー」


 店内はチェーン店のように活気に溢れているわけではなく、ゆっくりとした時間の流れる喫茶店のような雰囲気を醸し出し、さらにスープの香りが店内に充満している。


「ご注文は?」

「僕は醤油ラーメンを。メリーさんは?」

「私も醤油ラーメンをください、なの!」

「分かりました、少々お待ちください。 醤油ラーメン2つ入りましたー!」


 ぐつぐつと煮えるスープの音、ザッザとてぼで麺の水切りをする音が心地よい。メリーさんはそんな絶賛作成中のラーメンに釘付けになっている。


「ラーメン食べるのってメリーさんはいつぶりなんだ?」

「うーん……10日ぶりぐらい?」

「あれ? 結構最近だな」

「お父さんがラーメン大好きなの」

「なるほどねぇ……確かに大臣好きそうな顔してるわ」


 3月の通常国会内で仲夢大臣がくしゃみを連続でしたことはまた別の話。


「大変お待たせしました、醤油ラーメンです」

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうなの!」

「んじゃ、いただきます」

「いただきますなの!」


 ここのラーメンはさっき言ったように「泡系ラーメン」と呼ばれる種類で、その名のとおりクリーミーなスープが特徴のラーメンだ。


 エスプーマ風とも呼ばれる泡のスープは、味わい深いにもかかわらず、すっきりとした軽い風味でとても食べやすい。さらに出汁はしっかりと鶏肉と豚でとられており、コクがありまろやかなスープとなっている。


 さらにさらに、この泡状のスープは非常に麺と絡まりやすく麺との愛称が抜群に良い。


 つまりどういうことか? このラーメンはここでしか食べることの出来ない「唯一無二」の味なのだ。


 さらにオーナーや店員さんの対応も良い。そのためこの店はリピーターも多いという。


「美味しいのー!」


 メリーさんもここのラーメンの味にご満悦の様子。これだけの笑顔を見せられるとここまで来た甲斐があるあるというものだ。


 その後、美味しさのあまり完食するまで2人とも無言で麺を食べ、スープをすすり、その美味しさに一口ごとに心を躍らされた。


「「ごちそうさまでしたー!」」


 食べ終わった頃には僕たちは既にここの虜となっていた。


「ありがとうございましたー、またお越しくださいませー!」

「美味しかったの! また来るの!」


 メリーさんは店長に対してリピーター宣言を行った。僕もおそらくやみつきになるため、無言で頷く。


「ありがとうございましたー!」


 店長の温かい言葉に送られて、僕たちは店の外へ出る。暖かい店内から少し肌寒い風を感じ、立毛筋が収縮したことが分かる。


 とここで朝での欠陥が露になる。目的地が決まらないのだ。というわけで毎度のごとくメリーさんに決めてもらおうと問いかける。


「他に今日行きたいところあるか?」

「うーん……特にはないの」

「といっても僕も特には、と電話だ」


 仕事なら勘弁だと思って画面を見ると、全くもって知らない番号。メリーさんに断りをいれ、僕は電話に出る。


「もしもし……はい、あ! お久しぶりです! はい……はい……あ、本当ですか! はい、分かりました、ではのちほど。はい、失礼します」

「どうしたのヒロユキ?」


 僕は高くなったテンションのままメリーさんに一言一句違わないように伝えた。


「聞いて驚け! 家の書類が揃ったからそろそろ購入できるってさ!」

はい、ギリギリ日曜日です、ごめんなさい。

日常回とは何だったのか…いつも通りの食レポとなっております。(出来ていないのはご愛敬)


次回は水曜日投稿予定です。

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