34日目. ブティックとブックストアって似てる?
「ヒーローユーキー! 遅いのー!」
「荷物多いんだから仕方ないだろ……。メリーさんこそもう少しゆっくり歩こうよ……」
宿を出た僕たちは「日常を過ごしたい」というメリーさんの要望を受けてショッピングモールを訪れてた、のだが……。
「ダーメーなーのー! 早く行くのー! 早く行かないと日が暮れちゃうのー!」
「まだ朝の10時だからな? いくら奈良の店が早く閉まるといっても、そこまで早く閉まるわけではないからな?」
「でも私は早く行きたいのー! ヒーローユーキーはーやーくー!」
「はいはい……」
日常とはかけ離れた量の服飾品を購入するメリーさん(代金は僕持ち)に、僕は段々と頭痛がしてくる。ほんとにこれが日常なのだろうか?
両手一杯の紙袋を手に、僕は諦めを含んだため息をつきながら、僕の気持ちなんぞ露知らず、まさに元気溌剌といった言葉がぴったりなメリーさんの後を付いていく。
彼女の長い金の髪に日の光が反射して、まるで光のベールを被っているかのようなメリーさんが、その蒼穹の瞳で次なる目的地としてロックオンしたのは……
「ウニクロなのー!」
「あ、おい!」
日本ではよく耳にする某洋服店だ。あの赤柄に白い字体で書かれているロゴマークで、絵柄でゴテゴテしていない至ってシンプルな服が多いあの洋服店だ。
僕の静止の声を聴かず、そのままメリーさんは颯爽と店内へと消えていった。
「ったく……」
好奇心旺盛なのはいいが、お金もないのに洋服店に入っても何もできないだろうに……。
彼女は放っておいても勝手に帰ってくるはずなので、暇つぶしでもしようと、とりあえず店前でTシャツを物色していると、当然と言うべきか、さっき纏っていたベールはどこへやら、どよーんと湿った空気を引き連れたメリーさんがゆっくりとした歩調で帰ってきた。
「ヒロユキ……服を買うためのお金をください……」
「……お前この紙袋を見てもそれを言うか?」
メリーさんはそのまま僕にしがみつくと、目に涙を浮かべながら懇願してきた。
僕は両手をふさぐ紙袋をそのまま上に上げる。彼女の目がそっぽを向く。僕は彼女の視線の先へと回りこむ。彼女はまたそっぽを向いた。僕は再び彼女の視線の先へと回りこみ、今度は紙袋を全面的にアピールしながら彼女の前へ突き出す。彼女は三度そっぽを向いた。
「流石にこれ以上は僕の財布がもたない。これだけあれば服は十分だろ」
「えー…………」
不満げに頬を膨らますメリーさんに「また今度な」と慰めながら、自販機で買っておいた紅茶を彼女に渡す。彼女は渋々といった様子で紅茶を受け取り、そのままやけになって一気飲み。だが、その後の彼女は何故かご機嫌になっていた。メリーさん、意外とチョろいのかもしれない。……もしかしてチョロインって奴か!
「それは絶対に違うし絶対に認めたくないの」
「……すみません」
物凄い真面目な顔でメリーさんに完全否定された。というか心を読んでくるメリーさん久しぶりだな……。
※ ※ ※
ショッピングモールを訪れたその足でもう1か所生きたい場所があった。
「本屋なのー!」
「買うのは程々にな。あと1時間後にここに集合で」
「了解なの!」
メリーさんは本棚の奥へと颯爽と駆け抜けていって……あ、走っているの怒られた。
……数分後。
「すいません、以後気をつけさせますので……」
「全く……次からはしっかり見といてあげてくださいね」
「はい、すいませんでした」
書店員に一通り謝罪を済ますと、僕はメリーさんに苦笑いしながら彼女に問いかけた。
「やっぱ一緒に行こっか」
「……ごめんなさい」
「いや、言ってなかった僕も悪いしな。これから気をつければ大丈夫だよ」
「……うん」
「じゃ、一緒に行こう。どこ行きたい?」
「旅行本のところ!」
「OK、そこ行こうか」
旅行本コーナーへ向かうと、僕たちは感心の声を上げた。
本棚一面が全て旅行本で埋め尽くされていたのだ。かなり大きめの書店だった期待はしていたが、まさかここまで大きいコーナーが取られているとは思っていなかった。
国内から海外まで、さらには秘境までの旅行本もそれなりに充実しており、中には『十津川一人旅』というほとんど需要のない(と思われる)本まで置いてある。僕はその本をそっとかごの中に入れた。旅行本集めは昔からの趣味で、僕が新居の条件に書斎を求めた理由のひとつでもある。
「私、これが読みたい!」
「ん? 何々……『10年で行ける! 世界遺産全集!』ね…………え?」
もう一回見直そう。何々……『10年で行ける! 世界遺産全集!』……? 著者は、「丘野友禅」か……確かどこかで……。
「メリーさん。この著者の人誰だか知ってる?」
「いや、全く知らないの」
「お、おう。ありがとう」
食い気味の即答だった。確かどこかで見たんだけどな……家に帰ったら調べとくか。
というか世界遺産全てを10年で回るってどういう所業なのだろうか、使用金額含め非常に気になる。
「ヒロユキー、それは買っていい?」
「ん? ああ、いいよ」
「ありがとうなの!」
メリーさんから本を2冊受け取り、僕も適当な本 (コーヒーなど)をかごに入れてレジに向かう。
「すいません、これお願いします」
「はい、4点で7800円です」
「あれ、高いな……ん?」
かごの中を見ると『日本旅行のすすめ』と書かれた知らない本が中央に堂々と鎮座している。メリーさんはまたそっぽを向いた。
……そういえばさっき2冊渡されたけど確認しなかったな。今回は僕にも非があるしいいか。
「今回は大丈夫だよ、さっきOKって言ったし」
「ほんと!? ヒロユキありがとうなの!」
花が咲いたようにパッと笑顔になるメリーさん。こんな笑顔を見せられたら怒らないといけないことも怒れなくなる。可愛いからいいのだが。
「ありがとうございましたー」
書店員さんの気の抜けた礼を後ろに、僕は袋を両手に持ちながら本を大事そうに抱えるメリーさんに問いかけた。
「次どこ行きたい?」
「んー……ラーメン!」
「朝言ってた富雄の?」
「うん!」
「分かった、じゃあそこ行こうか」
その前に荷物をどうにかしようと一旦宿に荷物をおいてから、僕たちはラーメン激戦区「富雄」へ向かうことにした。
ギリギリのギリで金曜日に投稿です。限りなくアウトに近いセーフです本当にすみません!
次回は日曜日投稿予定です…が、おそらく今日のように遅れます。できればゆっくりと待っていただけると幸いです。




