25日目. 実は奈良県ってかき氷が有名なんですよ
「奈良には氷室神社っていうところがあるんだ。まずはそこに行こうか」
「ひむろじんじゃ?」
こっちを向いて首をかしげるメリーさん。聞いたことがなければ当然の反応だろう。
「氷の室って書いて氷室神社、氷の神様を祀る神社だよ」
氷室神社。奈良国立博物館の道向かいに存在する神社だ。
歴史は奈良時代からと古く、その昔春日野の氷池や氷室の守り神を祀ったのが始まりともいわれている。
と道すがらに考えていたところ、不意にメリーさんが足を止めた。それに釣られて僕も引っ張られるように停止する。
「あ、あれ!」
「ん、どした?」
「鹿さんが信号待ちしているの!」
彼女が指を指す先を見ると、確かに鹿が信号を待っていた。
「ああそうか、メリーさんは初めて見るのか」
「まるで人間みたい! 鹿さんってこんなに賢いの?」
「みたいだな。鹿のIQなんて考えたことなかったが、相当高いのかもしれないな」
仏首脳歓迎計画の視察中によく見た光景だったが、改めて見ると中々変わっているなと感じざるを得ない。
青信号に変わると、鹿と一緒に横断歩道を渡って神社へと向かう。このような体験ができるのも奈良公園ならではだろう。
道沿いに進み、右折すると目の前に見えてくるのが、氷室神社だ。
だが、平日の昼ということもあってか少し閑散としているにも見えた。
「人、少ないね」
「そうだな……」
前回夏に来たときはこんなに人が少なかった記憶はなかったが……やはり冬と言う季節が関係しているのだろうか?
「……とりあえずお参りはして行こうか」
祀られている神様は闘鶏稲置大山主命、大鷦鷯命、額田大仲彦命の三柱、神社の名の通りいずれも氷に関係する神様だ。
「あ、そういえば『奈良一番桜』なんてのもあったな」
僕は目の前に見えた枝垂桜を見て思い出す。メリーさんはチンプンカンプンといった様子だったが、看板の解説を読むとすぐに理解したようで首を縦に振った。
奈良一番桜。
氷室神社の境内には何本か枝垂桜があるが、最も有名なのは『四脚門』と呼ばれる門前に立つ枝垂桜だ。
その枝垂桜は「奈良県で最も早く開花する桜」といわれる桜であるとされていて(諸説あり)、例年は三月二十日に開花し、四月には散ってしまうため「訪れるタイミングが難しい桜」としても有名だ。
「……まだ咲いてないね」
「今は花見の季節にしてはちょっと早すぎるかな」
今は二月のつごもりごろ。開花するのはあと20日ほど先だ。
「近所になるし、また花見の季節になったらここに来ような」
「うん!」
僕がそう提案するとメリーさんは二つ返事で快諾した。やはり小学生女子としては花は好きなのだろうか?
「さて、おみくじでも引いていこうか」
「おみくじ? それなら他の場所でも引けるでしょ? 私もお父さんと一緒に熱海神宮に引きに行ったよ?」
「そうかもな」
確かにおみくじなんて(などという言い方は良くないが)近辺では春日大社や東大寺でも引くことはできる。
というか、たかが(なんて言ってはいけないが)おみくじを引くためだけに熱海神宮に行く仲夢大臣の旅行精神も凄まじいな……。
「でもな……ここには普通とは一風変わった面白いおみくじがあるんだ」
「ふぇ? そうなの?」
メリーさんの声は少し上擦り、興味津々と言うかのように目を輝かせている。
「まあ百聞は一見に如かずだ。買いに行こうか」
僕はメリーさんと手を繋ぎながら境内へと入る。途中境内にいた鹿と戯れるなどしていたが無事(百メートルしかないが)に本殿に到着した。
本殿をお参りして周りを見渡すとまず目に入るのが、今までに見たことがない氷のピラミッド。
その脇を通って僕は販売所でおみくじを購入した。
「すみませーん。氷みくじ2つください」
「はい、どうぞ。そこで貼って結果をお待ちください」
おみくじを受け取りメリーさんへ渡す。だが、メリーさんは受け取ってからおみくじを裏返したり振ってみたりして、終いには首を傾げてしまった。
「これ、何も書いてないよ。落丁本ならぬ落丁神籤だよ?」
「まあ見てろって」
そう言って僕は買ったおみくじを隣にある氷のピラミッドにピタッと貼り付けた。
「ほら、見てみろよ」
「あ、文字が浮かび上がってきたの!」
そう、このおみくじ、氷に貼ってか少し経つと文字が浮かび上がってくるのだ。
「ほら、メリーさんもやってみような」
「うん!」
メリーさんはさっきまでの疑心暗鬼が嘘のように氷のピラミッドに貼り付けた。当然メリーさんのおみくじも文字が浮かび上がってきた。
「あ、大吉なの!」
「おお、それはよかったじゃないか!」
ちなみに僕は例に漏れず末吉だ。いつまで呪いがかかり続けるのだろうか……。
「ちょうど桜の季節には『ひむろしらゆきまつり』っていうかき氷の祭りもあるし、5月1日には『献氷祭』ていう昔からやってる氷の奉納をする祭りもあるみたいだからな。また時間があれば来ようか」
「うん!」
……あれ、何か忘れているような……。
「……ヒロユキ、かき氷のこと忘れてたでしょ?」
「ああ!」
しまった、完全に意識の奥に追いやっていた。
「早く行くよ! 人気なんだからすぐに売切れてしまうかもしれないじゃん!」
「あ、待てって!」
メリーさんが走っていく後ろを、僕はゆっくりと歩いていく。その途中、
「……楽しそうだな、良かった」
僕は彼女には聞こえないように独り言のように呟いた。
ちょうど作中と現実の季節が一緒になってますね。
氷室神社には他にも氷室京介さんのファンやフィギュアスケートのファンが訪れることもある神社です。奈良公園に遊びに来た際は一度足を運んでみては如何ですか?
次回も日曜日投稿予定です。その次からは週二に戻ります!
追記:後半部分少し梃入れしました。




