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21日目. ロリコンは少女と新居を探す

「まあ、この際秦野くんがロリコンなことはどうだっていい」

「良くないです、僕はロリコンじゃないです」


 性犯罪予備軍扱いされては困る、というか社会活動に関わるので是非とも止めていただきたい。


 後メリーさんも地味に距離とらないで、そういうの一番心に来るから。


 店長はメリーさんを僕をそれぞれ一瞥してからため息をついた。


「秦野くん、君は彼女をずっと職場まで連れてくるのかい?」

「? と言いますと?」


 僕がそう問うと、店長は呆れ果てた表情でもう一度ため息をついた。


「だから、今日君はなぜ彼女を連れてきたんだ?」

「えっと、家に1人で居させるのが怖いから、ですかね」

「それで、明日からはどうするんだ? またここに連れてくるのか? それとも誰か預かってくれる人がいるのか?」

「それは……」


 もちろんそのことについて考えはしていた。


 1番楽な方法は、小学校付属の学童保育に行かせることだろう。だが、僕が仕事が終えて家に帰るのは大体午後7時過ぎ。対して近くにある学童保育が子供を預かってくれるのは午後6時まで。その約1時間が埋められないのだ。


 また家政婦を雇うのも1つの手だが、これは現実的ではない。今現在金に困っているわけではないが、無駄な出費はできるだけ避けたいものだ。


 朝に少しだけ考えただけでは結論は出なかったため、今日は仕事を見せるという口実でメリーさんを連れてきたわけだが、どうやら後回しにはできなさそうだ。


「……何かいい方法ないですかね」

「こういうことには秦野君はめっきり弱いな」

「言わんでくださいよ……」

「ほら客が来たぞ、早く対応して来い」

「……はい」


 痛いところを突かれうなだれる僕に対し、店長は容赦ない追撃で僕をバックヤードから追い出した。


「……ヒロユキ」

「……んー?」


 そんな僕をメリーさんは一度引きとめ、カウンターへ出る直前に、聖母のように微笑みながら手を振って見送ってくれた。


「……いってらっしゃい」

「……おう」


 か、可愛すぎる……。


 思わず飛び出して抱きしめそうになった衝動をどうにか抑え、緩んだ頬を引き締めながらルンルン気分で僕はカウンターへ向かった。


「……やっぱりロリコンじゃないか」


 そんな店長の声が聞こえた気がするが、多分気のせいだ、うん。


 扉を開けると水本先輩が別の客の対応をしながら席へと指さしている。どうやら「ここに座れ」とでも言っいてる様だ。


「いらっしゃいませー、こちらへお掛けください。ご用件は、あ、前回のプランについて変更ですか? 分かりました、少々お待ちください」


 パソコンの中から電子データを引き出している途中、隣の水本先輩から声をかけられた。


「秦野……お前やっぱロリコンだろ?」

「水本先輩まで!?」


 ※   ※   ※


「うーん……厳しいなぁ」

「……どうしたの?」


 家のパソコンの前でうんうんと唸っている僕の腕の中から、メリーさんはひょこっと顔を出して画面を見つめた。


「メリーさんのぼっちをなくす手段を模索中」

「言い方悪くない? あと、私じゃなくてヒロユキが一人ぼっちになりたくないんじゃないの?」

「ごもっともで……」


 まあ実際僕がメリーさんの所在を知らないのが怖いだけであって、メリーさんは一切関与していない。ただし、決して僕がぼっちなのが寂しくて嫌な訳ではない。


「いや、最終手段として引越しも考えているんだけどな、やっぱり駅近の物件は高いからどうしようかなって。それに視察に行く時間もないし」


 画面に移る物件は『駅3分 家賃10万円』から『家賃3万円 駅から20分』まで一長一短な物ばかり並んでいる。マンションもあるが、家賃は基本的にお高めのものばかりだ。かといって一軒家は論外だ。


「有給を取ればいいんじゃないの?」

「いや、でもな……」


 メリーさんは軽々しく言ってくるが、ここ最近ずっと仕事を休んでいた男は早々有給なんて取れない。


 ここ一ヶ月は奈良支店の人々に自分の仕事を肩代わりしてもらい、今度は自分が仕事を周りから受け持っているところだ。流石の店長もここで有給を取らせてくれるわけが……。



「別に構わんぞ」

「いいんですか!?」

「ここはブラック企業ではないからな、有給の使用は基本的に自由だ」


 思ったよりあっさり時間を確保でき少し拍子抜けだ。もう少しこう、何というか、うむ、説明しづらいな。


 そんな僕を、店長はニヤニヤしながら見ている。


「…………何ですか?」

「新妻との新居探しだろう? わざわざ隠さなくてもいいよ」

「別に隠してないですよ? 聞かれなかったから言わなかっただけです。……あと新妻はメリーさんが怒るので止めてください、僕が死にます」


『ヒロユキはただの師匠です。そんなことは絶対ありません』と言ってるメリーさんの姿がありありと浮かぶ。……別に悔しくなんてないんだからね!


「……そんなことはないと思うがな」

「何か言いましたか?」

「何でもない。それで、物件にアテはあるのか?」

「いや、全くないです」

「なら、見知りの物件屋を紹介してやろう」

「え、いいですよそんなに面倒見てもらわなくても」

「君が早く仕事に戻らないと回らん仕事がいくつかあるんだ。早くそっちの件を終わらせて帰って来い」

「あ、はい」


 なら好意に甘えてそうさせてもらおう。僕は店長からその人の電話番号を受け取り、有給の届出を出し本日の仕事を早々に終えて家に帰った。

次回は水曜日投稿予定です。

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