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20日目. 新しい朝が来た

「ぬぁ…………ここは……家か……」


 まだ日も登らぬ午前6時、有給を終えた僕は久々の通常出勤のため朝に慣れず寝起きが悪かった。


「くそ……あの大臣蟒蛇(うわばみ)か……」


 仲夢大臣は酒豪であった。


 それに加え僕があまり飲めないためいつもなら遠慮するのだが、今回の晩酌の相手は他でもない大臣である。大臣に言われるがまま飲んだくれた結果、記憶がなくなるほどまで潰れたらしい。


 五月蝿く電子音を鳴らし続ける目覚まし時計をひっぱたき、寝床から重たい体を持ち上げる。酒を飲んで潰れていたにもかかわらず目覚まし時計をセットしていた過去の僕グッジョブ!


「……お土産持っていかないとな」


 長時間職場を開けていたのだ。何か粗品を持っていこうと、京都で購入した千枚漬けを冷蔵庫から取り出す。


 そして、隣のキッチンへと視線をスライドさせると……。


「……おはようございます、師匠」

「おう、おはよう」


 ………………は?


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「……どうしてそんなに驚いているんですか師匠?」


 ※   ※   ※


「……おはようございまーす」


 8時過ぎ、普段より少し遅く出社してドアを開けると何だか懐かしい店内が変わらず存在していた。


「おう、おはよう秦……野……」

「全く、重役出勤とは良い身分だ……な……?」


 久しぶりの出社だが、水本先輩も店長も特に変わった様子はなかった。


「秦野……」「秦野くん……」

「え? どうしたんですかお二人共?」

「「どうしたんですじゃねぇ(ない)! 誰だその子は!?」」


 いや、横にメリーさんがぴったり引っ付いている僕が変なのか。


「誰って……仲夢明梨さんですが」

「そんなことを聞いてるんじゃない! 彼女が何でお前と一緒にいてるかを利いてるんだ!」

「えー……言わなきゃダメですか?」

「「ダメだ!!!」」


 非常に面倒くさいことになったが、ここでロリコン認定される訳にもいかない。僕は1つため息をつくと渋々口を開けた。


「……分かりました分かりました。順を追って説明します」


 時間は昨日の夜まで遡る。


 ※   ※   ※


「でも大臣、弟子を取るといっても、何を教えるかサッパリなんですけど」

「心配するな、私も同じだ」


 食後のデザートを頬張りながら、僕は仲夢大臣へ問いかけた。が、返ってきた答えは至極適当なものだった。心に一抹どころか百抹程の不安が残る。


「じゃあ何のために僕は弟子を取ったんですか……」

「明梨を旅行させるために決まってるだろう?」

「僕は旅行ばっかりしている職場じゃないですよ? 現に去年は3回ほどしか旅行に行ってないですし」

「では、外務省からそちらに外出する仕事を回そうか?」

「やめてください」


 回される仕事の厳しさは今回のフランス大統領の件で経験済みだ。そんなことをされたら絶対に精神が持たない。


「でも、私よりずっと時間は多いだろう?」

「まぁそうですけど……」

「なら、私にはできないことを明梨にやってあげてくれ」


 大臣はそういうと、隣に座っているメリーさんの頭を撫でた。「んー……もう食べられないよー」と寝言を発したメリーさんは天使のような無垢の笑顔を見せている。


「ほら、もう1杯どうぞ」

「あ、ありがとうございます」


 ……ここから先、昨日の記憶はない。


 ※   ※   ※


 そして朝起きてキッチンへと視線をスライドさせるとメリーさんがいた訳だが、酒を飲んでいた間に生活費を送る引き換えにメリーさんを居候させるというとんでもない条件も同時に飲んでいたそうなのだ。書類にはしっかり僕の拇印が押され、もう無効には出来そうになかった。


「……なぁメリーさん」

「? 何ですか師匠?」

「何で師匠なんだ? 今までヒロユキって呼んでたじゃねぇか」

「目上の人には敬称を付けなさいと言われたんです。……ご不満ですか?」

「いや、何と言うかな……」


 日本語としては別におかしくはないのだが、やはり違和感が強く残る。


 今まではお互いに「メリーさん」「ヒロユキ」と呼び合い、タメで話しあっていたため上下関係というものがつっかえ棒として残るのだ。


「……今まで通りでいいぞ」

「え?」

「なんか違和感が残るからな。そっちも言いにくいだろう?」

「……いいの?」

「ああ」

「怒らない?」

「もちろんだ」

「私のこと好き?」

「そりゃお前世界で1番……おい」

「冗談だよー」


 タメでいいと言ったそばからこれか……どっちの方がいいのやら。僕が言いにくいのは勘弁なので今のままでいいか。


「朝食作るが、コーヒーは飲めるか?」

「……飲めない」

「そうか、なら今日は紅茶にするか」


 僕はタッパーから紅茶パックを取り出し、陶器の鍋へ投入。


「メリーさん……」

「……何?」

「お前今日どこで寝たんだ?」


 そして、最大の懸念材料に触れる。


「? ヒロユキの布団の中だけど?」

「……僕、お前に何もしてないよな?」

「うん、何もされてないよ?」

「そうか……」


 よ、良かったー! 改めて、グッジョブ過去の僕!


「さて、朝食出来たぞー!」

「ヒロユキ何だか機嫌がいいね」

「そうかー? いつも通りだけどなー!」


 嘘である。懸念材料が解決され舞い上がっている。


「で、私は今日どこに居ればいいの?」


 そして、僕はぴたっと動きをとめ、メリーさんの方を振り返った。


「……どうしよう?」

「ノープランなの?」

「……まぁな」


 記憶が飛んでいたので仕方ないとはいえ、このまま少女一人を家に放置する訳にはいかない。かといって小学校に行こうにも、まだ小学校には転入届が届いていない。


「……なら僕の仕事場に来るしかないか」


 よってこうなる。


「同僚の人はいいの?」

「店長も優しいし何とかなるだろ」


 少し甘めの紅茶を飲みながら、僕は口角を上げた。


「師匠からの指導第1弾だ、楽しみにしとけ!」


 ※   ※   ※


「というわけなんです」


 水本先輩と店長はお互いの顔を見合わせ、そして同時にこう言い放った。


「「小学生と同衾しておいて何がセーフだこのロリコン!」」


 ……どうやらもう少し説明が必要なみたいだ。

ちょっと遅れました、申し訳ございません。

次回は日曜日投稿予定です。

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