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16日目. 鹿と大仏は何ら関係はない

 奈良国立博物館を右手に進み、鹿達と共に最初の十字路を左折する。その道をそのまま直進し、南大門の両端にそびえ立つ金剛力士像の間を通ると、その堂々とした姿が目に入ってくる。


 東大寺。この1単語だけで十分なほどの知名度を誇る奈良のシンボルだ。


「私は盧遮那(るしゃな)仏よりも運慶・快慶作、金剛力士像のほうが好きですけどね」

「そ、そうですか」


 そして日本マニアマイロン氏、ここでも個人の主観を入れていく。僕も南大門の方が好きではあるが、ここでは言わないで欲しかった。


 皆のご存知のとおり、奈良と言えば鹿と大仏。そのうちの鹿は早朝に済ませたので今度は大仏を、と言う薄っぺらい魂胆が見え隠れしているかもしれないが、そこは目を瞑っていただきたい。


 しかし今はまだ午前9時、冬の寒い中、態々朝から大仏を見に来る物好きなんていないだろ、と予想していたのだが……。


「……かなり人がいますね」

「ああ、思っていた数倍はいるな」


 いっぱいいた。それはもう数百人単位でいた。新春で中国からの観光客が多いとは聞いたがまさかこんなにも増えるとは……何たる不覚。唯一の救いは、中国系が多いのでフランス大統領がいてもそんなに騒ぎにならないことだろうか。


 ひとまず人混みを避けるために壁沿いへと寄り、おみくじを引きに売り場へと向かう。売り場では『おみくじ1つ100円』と書かれた筒と賽銭箱が置かれていた。


 僕は千円札を賽銭箱風集金箱へと投下し、10人分のおみくじを同時に引く。そして、出てきたくじを皆に配る。


「どうせなら皆で一斉に開けませんか?」


 そう提案したのは、ちゃっかり耳当てをつけて防寒対策している山科だ。気温は上昇してきているとはいえまだ五度台だった。完全な防寒対策を施す山科に羨ましげな視線が飛ぶ。


 その視線に山科は一瞬肩をビクッとさせるが、すぐにいつもの調子へと戻った。


「どうですか、折角なんで一緒に開けましょうよ!」

「いいな、それ。僕は賛成だ」

「うむ、乗った」


 周りからも反対の意見はなく、寧ろ誰が大吉を引くかの賭け事へと発達していた。楽しそうなので僕はマイロン氏が大吉を引くと予想した。掛け金はもちろんゼロだ。良い子の皆は賭け事をやりすぎてはいけないぞ!


「じゃあいきましょう、せーの!」


 一斉におみくじを開く音がする。


「私は大吉でしたよー」

「大統領は大吉ですか、よし配当は何円だ?」


 ゼロに何をかけてもゼロである。


 ちなみに僕は毎年東大寺へとおみくじを買いに来ているが、今年で5年連続末吉だった。もう誇ってもいいんじゃないかな?


 その他は仲夢大臣が中吉、山科は吉、ついでに道下さんは凶だった。……道下さんドンマイです。


「盛り上がっているところ悪いですが、大仏殿のほうに向かいましょうか」

「それもそうだな」


 僕は一行と共に大仏殿の中へと入る。そこで待ち構えていたのは、説明不要、奈良の大仏こと盧遮那(るしゃな)仏である。


 正式名称は「銅造(どうぞう)盧舎那仏(るしゃなぶつ)坐像(ざぞう)」、高さは約14.7メートル、大仏殿の高さは約48メートル、聖武天皇によって造立されたこの大仏は、今もなお奈良の街を見守っている。


「でも、忘れてはならないのが」

「行基ですね」

「その通りです。さすがマイロン大統領です」


 そう、行基の存在である。


 行基は仏法の教えを説き人々、主に民衆により篤く崇敬された僧侶である。その圧倒的な支持から聖武天皇に目をつけられ、大仏造立の実質上の責任者として招聘(しょうへい)された功績から、東大寺の四聖の一人として名を連ねている人物でもある。


 つまり行基がいなければ今の大仏は無いということとなる。行基様様だ。


「秦野さーん、これなんですか?」


 見ると山科がある柱に向かって指を指していた。見ると床と触れている面に人一人が通れるサイズの穴が開いていた。


「ああ、それは」

「その穴の大きさは大仏の鼻の穴と同じだといわれています。そこをくぐることを一般的に柱くぐりといい、それをするとその年はいいことがある、または頭が良くなるといわれています」

「へー、そーなんですね! ありがとうございます!」


 ……解説は大統領だけでよくね? もう僕いらなくね?


「秦野くん……」

「大臣まで哀れんだ目をするのは止めてください。泣きますよ」

「いや、悪かった悪かった」


 その割には全く悪びれてないように見えるのだが。


「しかし、今回は法隆寺には行かないんだな」

「ちょっと遠いですしね、京都観光でも楽しんでもらわないと」

「それもそうか。まあ大統領も満喫しているようなので文句も何もないがな」


 仲夢氏は少し苦笑を漏らして、というより少し緊張感を解いて笑った。


 しかし、僕はこんな風に笑っている余裕はない。もし大統領が今の通りならば、おそらく……。


「さて、最後戻る途中に興福寺(こうふくじ)によってから帰りましょうか」


 時刻は10時を過ぎた頃だ。引き際としては丁度良いだろう。


 ※   ※   ※


「はい、興福寺です」


 興福寺へと戻ってきた僕たちは、興福寺国宝館へと脚を運んでいた。目の前にあるのは国宝阿修羅像だ。


「私も前見たが、こんなに人が少なかったかな?」

「天王寺では凄い人が集まってましたけどね。それが独り占め、ではないですけど、少ない人数で独占できるのは魅力だと思いますね」


 平日だという点を考慮しても、国宝級の作品20点を扱う美術館に1人だけなど普通ではありえない。そこが奈良のいい所なのかもしれないが。


「何でこんなに人が少ないんですかねー?」

「山科、それは奈良へ喧嘩を売ったのだとの認識で良いのか?」

「京都なら平日でもこんなに人が少ないことはないんですけどねー」

「OK山科、後で本社前な」

「冗談ですって」


 山科は少しおどけたように見せかけ、僕はため息をついてこの件を諦めた。


 というか、山科は初めて会った時はこんなに饒舌だっただろうか? 今日はいつにも増して口数が多い気がしなくもないが……気のせいだろうか?


「ムッシュ秦野、ちょっといいかい?

「はい、何でしょう……か?」


 呼ばれたほうを振り向くと、マイロン大統領は微笑みながらこちらを見ていた。それはいつも通りだ。ただ違うのは、


「この計画を考えたのは君かね?」


 彼の目が一切笑っていないことだ。

おみくじは神社と寺院とでは少し違います。具体的には神社のものは和歌が、寺院のものは漢詩が載っています。次買うときは少し見てみてください。

ちなみに5年連続末吉、あれは私の実話です。しかし、ここ5年は熱も出ていないので運はあながち悪いというわけでもなさそうです。いや、むしろ末吉が悪運を吸い取っているのか……神のみぞ知る、というやつですね。

さて、ここからは真面目な話です(といっても大して重要ではないですが……)。予想してる方もいると思います、次回で旅行編最後です。ということはそろそろあの子が……。

次回は日曜日投稿予定です。

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