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12日目. 前夜Part2

また旅行まで行かなかったよ……。

「やあ、君が秦野くんだね」

「お初目にかかります、マイロン大統領」


 肩ほどまでにかかる金色(こんじき)の髪。全てを見透かすような深い蒼穹の瞳。日本人の平均と同程度の身長にもかかわらず、それを感じさせない圧倒的な存在感。


 仲夢大臣の横に堂々とした風格で佇むマイロン大統領の姿は、各界の著名人が集うこのパーティの中でもかなり異色の雰囲気を醸し出していた。


「君が奈良観光を担当するのはムッシュ仲夢から聞いているよ。奈良は死ぬまでに1回行ってみたかったからね、こんな機会を作ってくれた君には感謝しかない」

「いえいえそんな……礼なら大臣や外務省の人に言ってあげてください。僕なんてしがない旅行代理店員ですから」

「それでも君が私のために尽力してくれたことに変わりはない。礼を言わしてくれ」

「……ありがとうございます」


 そこから、話のベクトルは観光の話へと舵を向けた。


「私は昔から日本の歴史に興味があってね、大学時代は日本の歴史を専攻していたんだ。日本は約2000年以上前から国家というものが存在しているだろう? 私はそんな日本の歴史に心惹かれたんだ。その中でも歴史の半分以上で都として発展していたのが京都と奈良だ。奈良は平城京だけでなく藤原京、長岡京、もっと昔に遡ると邪馬台国も存在していた、いわば日本の基礎となった場所だ。京都は言わずもがな、1000年以上日本の首都として機能し続けた日本の中心だ。私は今の日本を作り上げたその二つの場所を、直接自分の目で見たいんだ。分かるかい?」

「は、はい」

「今の外国人は日本の歴史ではなく、今の日本製品に目を向けていることの方が断然多い。確かに日本製品は高性能、高品質、低価格の三拍子揃ったものが多い。しかし、その日本製品を作るまでの道のりには、長い間鎖国していた中で自分たちの持てる全ての能力を総結集させ、さらにその素材の特性を最大限に引き出す職人の技が生み出されるまでの苦労があったんだ。そして、その能力が凝縮しているのが京都の扇子や着物、岐阜県の関の刃物などだ。日本製品を語るには、まず日本の歴史を……」


 ベクトルを向けたは良いんだが……酒の入った大統領の日本愛が強い。通訳さんもう三十分以上ノンストップで話してもうヘトヘトになってるよ……。


 ヘルプを求めて仲夢大臣に視線を送ると、大臣は大臣でフランスのお偉いさんに絡まれていた。これはヘルプには期待できないな……。


 大統領には悪いが、話を切ろう。そう切り出そうとしたとき、後ろから聞き慣れた声が耳に届いた。


「秦野さ~ん!」

「ん?」


 振り向くと朝俺を置いて一人会議室を出て行った山科が手を振っていた。


「ムッシュ秦野、彼は?」

「ああ、彼は今回の京都観光担当の山科です」

「おお! 彼が山科くんか!」


 ここで僕はひとつの悪巧みを思いつく。


 そうとは知らない山科は、何の警戒もなく僕の方へと進んできた。もう既に酒が入っているみたいで、若干へべれけになっている。僕はまだ呑んでないのに……。


「秦野さ~ん、何で大統領とお話してるんですか~?」

「おい、酒臭い身で近づくな! 接待中だよ!」

「ムッシュ秦野、彼は何と言ってるんだ?」

「はい、大統領に会えて光栄です。と言ってます」

「秦野さ〜ん、何で置いていったんですか〜! 一人で会場に入って肩身が狭かったんですよ〜!」

「やかましい! というかお前が先に帰ったんだろうが!」

「そうでしたっけ〜? 正確に覚えてないですね〜」

「ムッシュ山科、少しお話をしてもいいかい?」

「え、ああマイロン大統領、初めまして山科と言います」

「それじゃ、僕はこれくらいで」


 山科をマイロン大統領に押し付け、僕はその場をそそくさと逃げ出した。すまんな山科、悪いとは思っているが俺を置いていった返しだ。


 ※   ※   ※


「仲夢大臣」


 酒の入ったマイロン大統領と山科から逃げ出した僕は、フランスの閣僚との話を終えた仲夢大臣への声をかけた。


 その仲夢大臣は、少しも驚くことなく、まるで僕が来ることを予想してたかのように笑みを浮かべていた。


「何だね、私に話でもあるのかい? 秦野くん」

「少しだけ」

「分かった。河野(かわの)くん」


 そう言って呼ばれたのは、日本の外務副大臣である河野(かわの)氏だ。


「少しだけ席を外す。その間だけ会場は任せる」

「承知しました」


 その河野氏を顎で使えるのは流石日本の外務大臣といったところか。


「さて、それでは行こうか」


 僕と仲夢大臣は会場のホテルから出た目の前にあるバーへと場所を移した。


 パーティ会場とは打って変わり、バーの中はとても静かだ。カランカランとドアベルが鳴り、「いらっしゃい」というマスターの低い声が冷たい空気を伝わって耳の中へと入る。


「ご注文は?」

「マティーニを。秦野くんは?」

「僕はお酒に弱いので……烏龍茶を貰えますか?」

「あいよ」


 マスターはそう言うと後ろを振り向いて作業を始めてしまった。


 ちょうどいい、話を切り出させてもらおう。


「大臣、何で僕なんですか?」

「ん? 何でとは、何の事だ?」

「分かってるくせに……何で僕なんかを大統領の来日プランに組み込んだんですか? 僕より優秀な人なんて星の数ほどいるでしょう?」

「……君はまだ自分の実力を知らないようだね。それとも、これも演技だと言うのかね」

「え?」

「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」

「はぁ……」

「君を選んだ理由か……。私だけが選んだ訳では無いが……そうだな、強いて言うならば」


「君が()()()()()()()()じゃないかな」


 その一言に、僕の身が凍るのを感じた。何だ……? この人の得体の知れない不気味な、まるで心臓を掴まれている感覚は……。


「………………」

「話はそれだけかい?」

「……いえ、まだあります」


 身体の震えは止まらないが、これだけは言わないとここに来た意味が無い。思い切って話を繰り出す。


「ほう、聞かせてもらうとしようか」

「仲夢大臣」

「何だい? 急に改まって」

()()()()()()()()()()()

「……それは君を選んだことへかい?」

「いいえ」

「……ふふふ、そうかい」


 そう言うと、大臣は口角を上げた。まるで、何か悪巧みを成功させたかのように。


「分かった、後日また話をさせてくれ。ただし、今度は()()付きでな。今は明日のことだけを考えてくれ」

「ありがとうございます」


「僕は明日の用意に入るので、お先です」

「おう、お疲れ様。今日は奢るよ、代金は気にするな」

「心遣い感謝します。それでは」


 ドアを開けると、2月の冷たい空気が肌に触れた。冷たい……冷たい空気のはずなのに……身体の震えは収まった。


 ……今はその事はいい。とにかく明日の仕事を成功させよう。


 僕は会場へは戻らず、1人自室へと帰った。

ちょっと投稿遅れました。

ほんっっっとに旅行パートに行かなくてすみません。次は、次こそは必ず、絶対行きます。

さて、話は変わりまして、読者の皆様、十一月からではありましたが、読んで下さりありがとうございます。

来年も今まで通りゆっくりとですが進めていこうと思いますので、どうぞよろしくお願いします。

それでは皆様、良いお年を。

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