11日目. フランス大統領おもてなし計画前日
できれば旅行まで行きたかった……
『今日未明、フランスのマイロン大統領が関西国際空港へと到着しました』
2月21日、朝のニュースはそんな言葉から始まった。
『マイロン大統領は今日未明、フランスの政府専用機で関西国際空港に降り立ちました。明日夜からの日仏首脳会談に向けて、今日は歓迎パーティが行われるとのことです』
さて、僕も行かなくては。鞄を手に取り、玄関へ向かおうとした
「おっと、そうだそうだ」
が、あることを忘れていたため、一度居間へと戻り固定電話へある電話番号を打ちつける。
『……もしもし、私メリーさん』
「僕だ、弘行だ」
……もちろん電話先の相手はメリーさんなのだが。
『……なんでこんな朝っぱらから? まだ朝の5時だよ?』
「メリーさんのお父さんのアドバイスが役に立ったから礼を言おうと思って、お父さんはいる?」
というか、小学校入学前の少女に対して朝5時から電話をかけるのはどうなのか、と一瞬頭をよぎったが、過ぎたことを考えてもしょうがない。
『もう仕事でいない』
「そうか……」
『……もう寝ていい?』
「すまん。朝から起こして申し訳なかった」
前言撤回、少女に電話する時間は考えよう。……いや、人に電話する時間は、だな。
『……あと』
「ん?」
『礼はヒロユキが直接お父さんに言って』
「え……でも」
『それじゃ』
ブツッ。
ツーツーツー……。
……いってきまーす。
※ ※ ※
「……はい、明日の大統領観光プランはこれで行きましょう」
朝から行われていた計画の最終チェックが終わり、会議室内には倦怠感が溢れかえった。
「秦野さんも山科さんもお疲れ様でした」
向かい側の席からは外務省の道下さんがそう労ってくれる。
「道下さんもお疲れ様でした」
「明日のエスコートが残ってますけどね、お互いに」
「……ですよねー」
と、一瞬で脱稿終わりのムードから締め切り前まで引き戻される作家の気分を味わわせてくれる道下さんは流石だと思う。
「山科くんもお疲れ」
「………………」
「山科くん?」
「は、はい! 何でしょう!?」
「いや、お疲れ様ってだけだから……」
「はい! お疲れ様でした!」
「えっとー……疲れてなさそうだね」
むしろ朝より元気に満ち溢れている気がする。
「でも、こんなところで疲れてちゃ、明日まで持たないですよ!」
「まあ、そうなんだけどさ……」
山科の言うことはもっともだ。今倒れても仕事は残っている。
しかし、仕事を終わらせた後に少し休みたいと思うのは自分だけだろうか。
「あーそういえば山科くん」
今思い出した風を装い(現に今思い出しただけなのだが)山科に質問をする。
「メリーさんって知ってるか?」
「メリーさん? あの都市伝説のやつですか?」
「いや、知らないならいいんだ」
他にも聞きたいことがあったが、山科が知らないことだけでも収穫だろう。
「俺も秦野さんに聞きたいんですけど」
「ん?」
「秦野さんってあの噂についてどう思ってるんですか?」
噂……前も言ってたな。
「噂なんて僕は初めて聞いたけどな」
「そうですか。すいません、聞かなかったことにしてください」
山科はそういうと「電話に出るのでついでに先に帰ります」と告げ、部屋を後にした。
山科が出ていったドアをボーっと眺めていると、
「秦野さん、そのメリーさんについてなんですけど」
「え?」
不意に後ろから声がしたのでそちらへ顔を向くと、まあ僕が後ろを向いているだけだったので当然というべきか、向かい側の席に座っている道下さんがいた。
「もしかしたらそのメリーさんって……」
「……!」
※ ※ ※
『今後の日仏関係を願って、乾杯!』
時間はさらに進んで今は午後7時、大阪のとあるホテルで行われているマイロン大統領歓迎パーティに参加している。理由は……別に省略してもいいだろう。
しかし、ここまで豪勢なパーティだとは思わなかった。周りに目を向けると、大手企業の社長、衆議院議員、さらには海外の駐日大使など、財政界の大物ばかりが目に入る。自分の場違い感が凄い。というか逃げ出したい。
一緒に来るはずだった山科は、そんな空気なんぞ知らないとでも言わんばかりにパーティ会場の人々へと話しかけていた。彼はなんというか……能天気なのか、それとも彼自身が大物なのか、そこは彼に聞かないと分からないが。
「秦野くん」
後ろから声をかけられ、振り向くと見知った顔がいた。いや、いらっしゃった。そしてその横には、見知った、というよりも近頃テレビでよく見る顔がいらっしゃった。
「ご無沙汰しております、仲夢大臣」
「まあそんなに堅くならないで。マイロン大統領、彼が秦野くんです」
「やあ、君が秦野くんだね」
「お初目にかかります、マイロン大統領」
キリのいいところで切ったら結局旅行まで行きませんでした。次回はほぼ確実に旅行します。
次回は日曜日投稿です。




