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10日目. 仏にはやっぱり仏でしょ?

タイトルの読み方を予想して読んでみてくださいね。

ちょっとした騒動のあと(結局トイレには間に合った)、山科のメンタルと胃を休ませるために、駅のすぐ近くにあった西洋中世風の喫茶店へと入った。


最初は落ち込んでいた山科も、今はコーヒーを飲んで落ち着いている。


「……すみません」

「いや、別に未遂なんだから気にしなくてもいいよ。僕は人酔いで吐いたことあるし」


しかし、気は落としているようで、山科は俯いたまま謝罪の言葉を述べた。


実際に未遂なため、僕に対して謝罪する必要はないのでそうフォローする。


「いえ、そうではなく……」

「ん?」

「会議、絶対遅刻ですよね」

「あー……」


しかし、山科が不安に思っていたことはどうやら別のことのようだ。


腕時計に視線を落とすと、確かに会議開始時刻を十分ほど過ぎていた。



「でも吐き気は不可抗力だし仕方ないよ。道下さんには粗品持っていこうか」

「……はい」


と開き直って僕は背もたれに体重をかける。対して山科は背もたれは一切使わず、丸まったハムスターみたいに縮こまっていた。


「まあ連絡も入れたし大丈夫だ。それより、今はここで少しでも会議を円滑に進めるために話し合いをすべきだと思う」

「……そうですね」


折角会議の開始時間を遅らせてもらったんだ。時間は有効に使うべきだろう。なにより僕のプランがまだ完成していない。


……そう、プランが完成していないのだ。メリーさんのお父さん(?)からアドバイスを貰い、昨日は一睡もせずにひたすらプランを考え、電車の中では山科の話をシャットアウトして熟考していたにも関わらず、だ。


「とりあえず山科くんのプランを教えてくれないか? それに僕のプランを合わせるから」

「そんな……こっちに合わせてもらうなんて秦野さんに申し訳ないです」

「大丈夫だ。こっちは複数プランを持ってきてるから」


そんなことはおくびにも出さず堂々と嘘を並べたてる僕を、山科は少し驚きが混じった(?)の目で見たが、すぐに元の視線へと戻った。


「……流石ですね。俺なんて3日かけてやっと2つできただけなのに……」


いや、君のほうが十分凄いから。今即席で考えてる僕よりよっぽど凄いからね?


「承知しました。時間も勿体無いので早口で言いますね」

「分かった」


そういうと山科は鞄の中からノートパソコンを取り出し、電源を入れた。


そのパソコンの画面に映し出された山科のプランは何というか、僕の想像の範疇を超えていた。


まずプランに書かれている場所が分からなかった。朝聞き流していた彼の言葉の中にあったものはほとんど含まれてなく、さらに聞き馴染みのない観光地の名前がずらっと並べられた。


また、キリスト教に関連するものが多かったようには感じたが、山科いわく、


「マイロン大統領って熱心なカトリック教徒として有名ですよね。だから京都のカトリック教会やカトリック信者との面会を考えてみたんです」


とのことらしい。


大統領はかなり熱心なカトリック教徒としての情報は耳に入れていたが、まさか観光プランに入れてくるとは……流石に予想外だった。


次に、地元の公立高校と協力して留学生を受け入れ、その授業風景を見学する、という一見普通に思えるプランにも一工夫加えられていた。


何と、公立高校なのにも関わらず、高校生がフランス語を履修科目として取り入れ、さらにSTB京都支店が留学費用を全額負担することによってフランスへの留学者数が増加、それによってフランスとの交流が活性化し、今では外務省へ大量に人材を送り込む高校へと成長したのだ。


しかも、そこにはちょうど留学生が来ているというおまけつきだ。


「すげぇな……」


何年も前から仕組まれているとしか思えない山科のプランに、僕はそう声を漏らした。


このプランに合わせるプランなんて……。


『『温故知新』だってさ』

『……だから次は生のずんだを買ってくるの』

『定番のお土産だけあって美味しかった』


……もしかしたら、いけるかもしれない。でもそれには時間が足りない。ならば……。


「どうですか秦野さん! これならいけそうですか?」

「……1時間待ってくれ」

「え?」


もはや説明する時間さえ惜しい。このまま僕の世界の中へ飛び込む。


日は2月22日、ゲストはマイロン仏大統領、時間は正午まで、北部のみ、午後の予定はキリスト教、フランス色を色濃く出したもの、使える素材は奈良公園、興福寺、東大寺、春日大社、猿沢池、浮身堂、東大寺、興福寺、法隆寺、平城宮跡、薬師寺、唐招提寺、元興寺、賣太神社、石上神宮、大神神社など……

もっとだ。もっと深く、意識の奥底まで……記憶の底まで……もっとだ。


「……やっぱり噂通りですね、秦野さん(ヒロユキくん)は」


山科が放ったその言葉が耳に伝わる前に、僕の意識は外と完全に隔絶された。


      ※   ※   ※


見えた。


「できた」

「秦野さん?」

「山科くん、今から会議に行くぞ」

「は、はい」


荷物をまとめて僕は喫茶店を出る。


時刻を見ると、短針が30度移動していた。ちょうど1時間だったようだ。


「秦野さん……秦野さん!」

「ん? どうした?」

「俺まだ秦野さんのプラン聞いてないんですけど、教えてもらっていいですか?」

「ああ、(ほとけ)(ふらんす)だよ」

「へ?」


これならば、山科のプランについていけるだろう。僕は心の中で胸をなでおろした。

次からやっとこさ旅行パートです。と言ってもメリーさんは出ませんが……早く出すよう善処します。

次回の投稿は水曜日の予定です。が、それよりも早く出すかもしれません。

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