演目七:契約
アリスside
「わぁい!やったね、おねぇちゃん!」
オレは見た目を使った擬態、幼女モードで喜ぶ。
「うぉぉぉ!!ダンがやられたァ!?」
「嘘だろ!あいつ、ここらじゃ結構強いはずなのに」
「ヒナミは分かるが、あの幼女のガーディアンはなんだ…?」
周りが叫ぶ。
そして、ヒナミとナーシャに向かって観客は、いいものを見せてもらった!とかヒナミまた強くなったな、など言われ、オレには可愛い、幼女ヤバスとか…外見だけじゃねぇかっ!オレの強さを褒めやがれっ!!
と、そこへナーシャが辺りを見渡しながらやってくる。
「我が主よ、少々お聞きしたいのですが」
「ん?…あぁ…かえってからねっ」
なるべく幼女感を出しつつ、周りを誤魔化しながらその場を離れる。
宿屋『ユキグモ』
宿屋ユキグモの一室、内装はシンプルに木で作られており、丸いテーブルに椅子、端にベッドが2つ。その側にベッドライトが一つ優しく灯っている。
そのベッドに頬杖をつき寝っ転がって座るは、アリス。
アリスはいつもの服を脱ぎ、部屋着…黒いウサギを象ったぬいぐるみパーカーを着ていた。
その前にはナーシャが片膝を付き従っていた。
「…ふむぅ。ここのシーツはふかふかしててイイな…」
「はっ。この宿で一番いいものをご用意させて頂きました」
「ふむふむ…。よくやった。さすがオレのナーシャだ!」
「ありがとうございます」
ナーシャは頬を染め、礼を言う。
「しかし、よく取れたな?」
「簡単でした。少し我ら流のお話をさせて頂きましたら、泣いて鍵を渡してくれましたので」
「なるほどナ。なっとく」
「納得するなぁぁあ!!」
と、乱暴に扉を開けながらツッコミ、ゼェハァと息を吐いてるヒナミがいる。
「あ、あぁ、アンタの仕業か!?私が少し買い物行って戻ってきたら、宿屋のおじさんが泣きながら震えていたのよ!?何事かと思って聞いたら変な服を着た背の高い女の人が口にナイフ突っ込んで『この宿で一番いい部屋を寄越せ』だって…阿呆か!?何してくれてるのよ!!」
「変な服だと!?」
ナーシャはガタッと立ち上がりヒナミに抗議する。
「そこじゃないわ!!」
「まぁまぁ落ち着けョ?ナーシャがオレのためにしてくれたんだゼ?」
「限度があるわよ!!」
「そんなことより、我が主」
「そんなこと!?」
「あぁ、オレたちの現状の事だナ」
無視なの!?とかヒナミが騒がしいが無視である。
「オレはコイツ、ヒナミ・メリーに使い魔として召喚されたみたいでョ?」
「使い魔!?貴様!我が主を使い魔扱いするのか!?」
「あなたは少し黙りなさい!」
「!?」
この子はアレだ…アリスの事になるとほんとアホの子になるわね…。
「いいか?…そんで、オレは自分より下のヤツに付き従うのは嫌いだから試した訳ョ。手っ取り早く、決闘でナ!」
勝てば使い魔、負ければ殺され……あれ?殺されてないわね。
まぁ、それよりも------
「あの決闘……今思い出したら恥ずかしいわね…」
「へっ。実に滑稽だったゼ!…まぁ、結果はオレサマの勝ちだったが」
「………そうね。どんな結果であれ、覚悟は決めてあるわ」
「酒場で愚痴ってたヤツのセリフとはオモエネーナ…」
アリスはジトっとした眼をヒナミに向ける。
「う、うるさいわね!いいじゃない別に…」
ヒナミは口を尖らせ、目を逸らす。
「ん、そう言えばアリス…あなたどうして契約に失敗した私を殺さずに生かしてくれたの?」
「アン?そりゃおめェ…なかなか面白いもん見せてもらったからナ!それに、オレの世界とは違う新たなる芸術がここにはあるって分かったしよ」
アリスはそう言い、頬杖をつくのをやめゴロンと寝転がる。
ナーシャはそんなアリスに近付き、ベッドに座る。アリスの頭を取り自身の膝へと乗せ、長い髪を梳くように撫でる。
アリスはされるがままの状態だ。
「ぁぁあぁぁ…ごくらくなんぢゃぁ…」
「オッサンかアンタは」
湯に浸かるオッサンみたいな声を上げるオレにヒナミは容赦なくツッコンでくる…。
「さっきの続きなんだが、最初は生かして利用しようと思ってナ。ここの世界の情報を得るためにョ」
「………」
「だがここにはオレの知らない芸術がある。留まるには十分な理由だ。それに…メリー家次期当主、そんなお前と一緒にいればと考えると何やら面白い予感がしてならねェ」
「そっ!それじゃあ!!」
ヒナミは嬉しそうに顔をほころばせる。
「アァ、その契約…結んでやるョ」
あ、でも…と言って、ヒナミはナーシャへと視線を向ける。
「なんだ?」
「いや、だって…」
「ふん!馬鹿にするなよ小娘。我が主が契約すると言ったのだ。ならば、従者である私が拒む理由などあるはずがなかろう」
「ナーシャはオレのお気に入りの中の一つ。その中でとりわけ忠誠心が高いやつだゼ?ヒナミ」
ヒナミは眼をぱちぱちとすると、ふふと笑い出した。
急に何笑ってやがんだ?
オレがそう怪訝な顔をしてると、
「あ、ごめんなさい。つい、ね?」
そう言って彼女はまた笑う。
ひとしきり笑ったあと、ヒナミは言う。
「それじゃ、契約……お願いするわね」
「オウ!」
ヒナミは眼を閉じ、魔力を高める。
すると、アリスとヒナミの足元に青い魔法陣が浮かぶ。魔法陣は魔力を迸らせる。その迸りは淡い蒼の玉となる。
「我、ヒナミ・メリー、使い魔の契約を」
淡い蒼の光の玉が辺りを漂う。
「汝、不思議アリス、我が身を守りし守護者となりて、我が怨敵を討ち滅ぼさん」
淡い蒼の玉が眩い光を放ち、アリスとヒナミを取り囲む。
光は徐々に収まり、魔法陣も消えていく。
ヒナミはふぅ、と息を吐く。
「これで終わりよ。どこか痛いところとかある?」
「んー、ないナ」
「そう。それじゃアリス…これから宜しくね!」
「あぁ、任せな。オレの最凶の力…人形術を魅せてやるョ」