演目六:動く人形
ヒナミside
や…やりやがったわあの残念ロリボイスちゃんっ!私がせっかく上手く誤魔化したと言うのにこの子は!!
「くっさ…ヤキュー…だと?」
コメカミをヒクつかせながら、顔を俯かせ震え声で喋るダン。
私は、こいつキレるなと悟る。
「それで、誤魔化せるとでも思ったのか…」
多分、当人は誤魔化せると思ってるでしょう。目を泳がせつつも、少し自分今上手く誤魔化せてるわオレマジ天才じゃんって言うくらいの顔してるもの。
ダンは、俯かせた顔を上げると、それはもう見事な程の真っ赤に染まった顔が出来上がっていた。
「ごほう……この俺様が臭うっていうのかぁ!!??」
おい待て、ダンよ。お前は今何を口走ろうとしていた?
「それに、歩く腐臭製造機だとぉぉ!!??」
そこまで言ってない。
「はぁ…はぁ…っ!」
息を上げるな。頬を赤らめるな。お前がやったって何一つ可愛くはないんだ察しろ。
見てみろ、アリスの顔を。もう人様に見せられないくらいな顔になってるわ。
良かったわね、アリス。皆がダンの方を見てるお陰であなたのモザイク顔が見られてないわよ。
「おっ、おい!嬢ちゃん!!…んふ…この俺と勝負しやがれ!!」
「……え?」
「ぁぁんかわ…ゲフンゲフン。…お前に年長者として、人生の先輩として教育指導してやるって言ってんだよ!!」
前々からコイツとは気が合いそうにないな、とは思ってたけど確信したわ。生理的に無理だわ。うん。
「しょうぶですかぁ?」
………ん?
「おねぇちゃんといっしょでもぉ…いいですかぁ?」
そう言ってアリスは椅子から降り、とてとてと私に近づき抱きつく。
誰だお前ェェェェ!!何いきなり幼女感出してんのよぉぉぉぉ!!私の時と態度違いすぎない!?
「グフッ…い、いいぜ…」
血を吐きながら。
ダンお前…手遅れだな…。
あ、でも…。
「私とアリスのコンビか。ダン、あなただけで勝てるのかしら?…私にまだひとつもかすり傷も負わせたことないあなたに、ね」
「うるせぇ!男がやるって言ったらやるんだよ!!」
ダンは唾を飛ばしながら叫ぶ。
コイツ…!私の時とアリスの時とで反応が違うじゃない!!これだから男ってやつは…あぁ、アリスもあんな形でも男だったわね。
「たっ、ただし、ハンデはくれよな?くれるよな!?二対一だもん!」
「どうするのぉ?おねぇちゃん」
「さっきの威勢は何処に行ったのかしらね…はぁ。まぁ、いいわよ。…そうね…私はメリーさん、魔法なしで行ってあげるわ」
ダンはホッとした顔をするが、すぐにキリッとした顔付きにしようとするが、手遅れである。
「アリス。あんたのはどうしようか」
「ギャハハ!!俺がこの嬢ちゃんに負ける分けねぇだろ!!」
お前だけハンデあれば余裕だし、とかなんとか言ってるが、コイツは私より強いんだからしてもらった方がいいと思うのだけど…ふふ。黙っておくわ。
「それともうひとつ!!」
「はぁ…まだあるの?」
「あっ、当たり前だ!これが本命と言っていいだろう!!」
「それで、なにかしら?」
「ふっ!決まってらァ!俺が勝ったらお嬢ちゃんを貰う!!」
「…………は?」
「お前達が勝ったら…そうだな!今着てるこの竜の鱗で作った鎧をあげるぜ!」
そう言って彼はニヤニヤと笑いながら、自身の着てる皮の鎧を指さした。
「いらないいらない、汚いし、少し、いやかなり臭うし…それに…竜の鱗…?はん!…ないわぁー…」
「てっ、てめぇ!?」
「あのね、あなたハンデまでしてもらってその上勝負して勝ったらアリスを貰う?バカバカしいわ!それに、あなたのその鎧、どこが竜の鱗なの?ただのやっすい皮の鎧じゃない」
「うっ、うるせぇそこまでいわな」
「もひとつ!アリスとあなたの鎧が同格?それこそないわ!あなたとアリスが釣り合うものなんてひとつもないわ!」
私の完全正論にぐぅの根も出ないみたいね…ふっ、決まったわ。
「そうね…釣り合わなくても、ダン」
「なっなんだよぅ…」
「あら?そんなに怯えなくてもいいわよ?…アリスにだいぶ劣るけど、あなたの相棒の竜、いるでしょう?それで手を打ってあげるわ。丁度、食料が欲しかったし」
「…え」
竜騎兵から竜を奪い、更にその竜を食料にすると発言。
周りから鬼だ悪魔だの呟かれてるが気にしない。
私の大事なパートナー(まだ契約していない)を取ろうしてるもの!しょうがないわよね!!
「さぁ早く表に出なさい!!」
もはやヒナミの方が荒くれ者に見えてくる。
「ダ、ダン!もうコイツやべぇって!やめとこうぜ!」
「そうだよダン!」
「うぎき…っ!おっ、男に二言はねぇ!!勝てばいいんだ!!勝てばよぅ!!!」
「ふふふ、そうよ?勝・て・ば…いいのよ」
わざとらしく勝てばを強調する。
酒場前~
皆が見守る中、アリスを巡っての決闘が行われる。
皆が見守ると言っても、酒のつまみにしたいだけなのだが。
「さぁ、覚悟はいいかしら?」
「おめェこそ!やられる覚悟はいいか!?」
「行くわよ、アリス!」
「がってん!」
私はメリーさんを取り出し、指示を出す。
「ここで巨大化は流石にまずいから…『メリーさん!敵を倒しなさい!!』」
指示を受けたメリーさんは、右手をそっと前に出す。すると、手のひらに筒状の物が伸びてくる。
「『メリーさん!構えて!!』…さぁ、アリス。準備はいい?」
「もちろんだよおねぇちゃん!」
アリスは笑顔で答える。猫かぶりすぎだろ…。
アリスはいつの間にか手に持っていた人形を空に向かって投げる。
そして、アリスは私にだけ聞こえる声で囁く。
「このオレが人形を操るだけだと思ったら大間違いだゼ。オレのお気に入りを見せてやる」
「え」
「おいでっ!ありすのがーでぃあん!」
投げられた人形は空中で止まり、眩い輝きを放つ。あちらこちらで悲鳴があがるが-----
まぶしっ!!眩しすぎて他人を気遣う余裕がないわ!
「これがオレの」
光はだんだんと弱まっていく中、そこに黒いシルエットが2つ。
………2つ?
「お気に入りの一つ、自動殲滅型人形『黒犬のナーシャ』」
女性にしては背が高く、黒く長い髪。頭に軍帽を被り、軍服を着ている。眼は伏せていて、口を一文字に結んでいる。顔立ちは凛々しく、スラッとした手足。アリスの前で頭を垂れ臣下の礼をとっている。どこから見てもかっこいい美人さんである。
これが人形でしかも、自動だって…?
「な、なんだこりゃぁ!?」
ダンや周りの人達も食い入るように見ている。
「我が主よ」
…!?
口が開き、声を発する。透き通る声だ。
人形が目を開く。
切れ長く黒い綺麗な瞳。
「私を呼ぶ程の事態に…とは思えませんが…これは?」
「んゆ?」
「………なるほど、把握しました」
え?まって、今ので何を把握したの?そいつの猫かぶり?
彼女、黒犬のナーシャさんは私に近寄り、小声で話しかけてくる。
「おい貴様」
「え?わたし?」
「貴様以外に誰がいる。…それで、これはどういう状況だ?」
「あー…」
この子何も把握してなかったよ。
「簡単に説明すると…アリスを賭けて勝負してるのよ。私とアリスが仲間で、敵はあちらの汚い格好した肉ダルマよ」
「なるほど、我が主の危機。それならば私が呼ばれるのもうなずける」
いやぁ…?多分、私に自慢したくて呼んだだけだと思うなぁ…。怒らせたら怖そうだから言わないけど。
「さて、そろそろ敵を殲滅するか」
「流石に殺すのはまずいから動けなくするだけでいいから!」
「私に命令をするな!」
「えぇぇー…とりあえず、私のメリーさんと合わせて」
「メリーさん?…あぁ、これか」
メリーさんが体全身を使ってアピールしている。
「ほう?お前も我ら同様、動くのだな」
「我ら…?」
「それについては後で我が主にでも聞けばいい。メリー、さっさとやるぞ。あの醜い造形物をいつまでも我が主に見せるわけにはいかん」
メリーさんは首を上下に激しく動かしている。
メリーさん…あなた、いつからそんな子に…。
「やい!おめぇら!!いつまでくっちゃっべってやがる!?」
「……いいわ。ナーシャさんもう行ける?」
「無論」
「そう、それじゃっ!行くわよメリーさん!『メリーさん!出力30%!!放て!!!』」
「えっ!?ちょ!?まだ相棒よんでっ」
先手必勝。メリーさんは構えてた右手に溜められていた魔力を放つ。
放たれた魔力の塊は、ダンへと命中。
「ぐわぁぁぁ!!??」
そこへすかさず、ナーシャさんが加速し接近。
「我が身は刀なりて斬れぬモノなし」
ナーシャさんは更に加速、目にも留まらぬスピードでダンの周りをかけていく。
加速終了と同時に------
ダンの鎧、衣類が全て切り裂かれた。
「いやぁぁぁあん!!??」
ダンがキモチワルイ声をあげる。
ナーシャさんは手を振り払い、見向きもせず告げる。
「…痴態を晒せ。人として死ね。無様に散れよ豚ァ…ッ!」
アリスの持つバイオレンスな人形、黒犬のナーシャさんは、よっぽど、主様であるアリスにいいよったことが気に食わなかったのか、肉体的にも精神的にも辛い攻撃を仕掛けました。
他人事見たく語ってるけど、実際メリーさんの初撃の時点でオーバーキルだよね…。