演目五十七:えすとえむ
時は遡ること数時間前。
アリスが消えヒナミがまだ部屋の中で固まっていた頃、アリスはナーシャの魔力反応が消えた所にいた。
崩れ果てた家に、体の五体をぶちまけ瓦礫の一部にオブジェクト化した状態のナーシャ。アリスは無言で近付き、その場にある手を一つ取ると顎に手を当てて考える。
アリスside
「ふむ?ナーシャの損傷具合は…っと」
ほぅ…断面が綺麗に…そんじょそこらの人形よりも硬いはずなんだが、まるでバターでも斬ってるかのように斬られてる。こいつぁなかなかの実力者だな、ナーシャ相手にここまでの技をやってみせるとは…ねぇ。
だが、相手が悪かったな。人間ならば…ここで終わりだろうがナーシャは人形だ。オレが魔力をナーシャに通せばすぐに元通りだ。それにしても…。
「はっ!簡単に殺られちまいやがってよ…いま戻して説教してやる」
近くにあった棒で丸い陣を描き、散らばった五体の体をかき集めその上に乗せる。手を合わせ目を閉じる。深く呼吸、吸って…吐いて…吸って…吐いて…自身の鼓動に合わせ呼吸する。そして柏手を一つ。パンっと音を鳴らし、そこに息をふきかける。
「ふっ」
アリスの周りに一陣の風が吹く。すると、陣に変化が起きる。丸い陣は白い光を放ちながら、だんだんと小さくなる。
どくん…どくん…。
大地が脈打つように揺れる。小さくなった陣はナーシャに吸い込まれるように消えていき、その場に五体満足の状態で横たわるナーシャの姿があった。
「いっちょあがり…起きろナーシャ」
その声に反応するかのようにピクンと長いまつ毛が動き、ゆっくりと瞼が持ち上がる。
ナーシャside
「………」
寝惚け眼から一瞬で凛々しい顔つきになるナーシャ。キョロキョロと辺りを見渡し、アリスが傍にいることに気付いたナーシャはすかさず起き上がり、膝をついて臣下の礼を取る。
「あ、主よ!申し訳ございません!!」
「ふん!理解してるんなら良い…が、簡単に殺られちまいやがって!!」
「はっ…申し訳ございません」
「まぁいい、んで?相手の顔は見たか?」
しゅんと落ち込んでるナーシャに優しく声をかけることも無く尋ねるアリス。
自身の失態故甘んじて受けるナーシャに、アリスはこれ以上責めようとはしなかった。
「はっ!赤いフードをかぶった六人組で少々変な刺青を入れておりました」
「刺青…?」
「林檎を咥え、翼の生えた蛇の刺青でした」
「……ふむ。そいつらがオレのコレクションを壊したってわけか…」
アリスはひとしきり頷く。一瞬、顔が無表情と化すがナーシャは気づかなかった。
「そんじゃ、そいつらを探して…っと!?」
「!?」
ズゥゥゥゥンと、お腹に響くような低い音がアリス達を襲う。
「なんだぁ?」
「主よ、あちらを!!」
ナーシャが指さす方には、巨体な人形と半分骨と化したメリーさんが戦っていた。巨体人形の周りには花が飛んでおり、遠くからでもわかる美しさがアリスの目を奪った。
「美しい…」
「主!?あれは、たぶんヒナミが戦ってるのでは…」
「っ!そうだな、間近で見るのも一興だよな!」
「助太刀なさらないのですか!?」
それを聞いたアリスは、やれやれと肩を竦め鼻で笑う。
「あの程度の人形相手に遅れるようじゃ、オレの弟子は名乗れねぇよ。さっ!早く行くぞ!!ヒナミにこっそり付けたマーキング人形でひとっ飛びするぜ!」
両腕をブンブンと振り回し、楽しそうに笑うアリス。ヒナミが勝つと信じて…。
「あ、ヒナミが負けたらもう一回オレが叩き直すぜ」
ヒナミ、まじで頑張れ…。
「到着!ってあら?」
一瞬にして、ヒナミ達の場所に到着したアリス達だが…。
「戦闘終わってるじゃん」
主は倒れふす巨体人形を横目にガッカリと長いため息を吐く。
「はぁぁぁぁぁ……しょうがない」
主がこちらに振り向き、にこやかな笑みを浮かべ、どこからともなく取り出した棒を持ち。
「ナーシャのお仕置きでもしてよう!」
「んんんんーー!!!」
棒に括りつけられ口を塞がれた私をつつくのであった。




