演目五十五:赤き…
ヒナミside
「そこよメリーさん!そのまま左アッパーでとどめよ!!」
右手のランスで巨体人形を斜めに切り裂き怯んだ所に、懐に潜り込んだメリーさんが勢いよくアッパーカットをするが既のところで躱される。
「ああ!惜しい!!もういっ!?」
何これ…腕に力が入んない…。
「じゃない!メリー…ぁっぐぅ!!」
次の指示を出そうとするが、腕に力が入らず指示を出す事が遅れてしまった。その隙を見逃さなかった巨体人形はメリーさんのボディに鋭いパンチが炸裂した。
いったぁ…くそ!しまったわね、髑髏鎧の呪いの存在の事すっかり忘れてたわ…!キャミーの髑髏鎧、しゃれこうべを出現させるだけじゃなくてしゃれこうべが傷付けば鎧所持者も傷付くなんて在り来りな呪いを…。
「いったいわねこんちくしょう!!『朽ち果てのメリーさん!アイツを呪い溶かすわよ!!死怨の花束!!!』」
「いたた…ヒナミあんた、ちょっと口調やら性格やら変わってるわよ?」
呪いの効果を受けているキャミーがお腹を擦りながら話しかけてくる。
そんなもん知ったこっちゃないわ!!
メリーさんが空に向かい、水をすくうように両手を作りゆっくりと上に持ち上げる。ゆっくりとした動作で上がって行く中、その何も無かった手からどんどんとどす黒い紫の花弁がこぼれ落ちていく。真上にまで上がると、掌にどす黒い大きな紫の花、死怨が咲く。咲いた死怨は一度大きく膨らみ、パァンっと大きな音を鳴らして咲いた花よりも一回り小さな死怨が数え切れないほど空から降り注ぐ。
巨体人形は動かず、その光景にただただ見入るばかりだ。一つの死怨が巨体人形の腕に当たりかける。
「終わりよ」
死怨が巨体人形の腕に当たる。その瞬間、高速で機械が溶け抉られていくように死怨が腕を貫通する。それに脅威を感じ逃げようとする巨体人形であるが、時すでに遅し。
「流石ヒナミ。最初の段階で距離を取らなければもう退避不可の大技…死怨の花束。しゃれこうべでやる時はこんなにも大きくないのに、やっぱりメリーさんと合体したお陰で威力もサイズも上がってるわね…」
空中から降り注ぐ大量の花が巨体人形に当たり、その巨体を削り崩れゆく様にヒナミは大満足した様子だった。
巨大であった頭のない人形は、目玉は飛び散り腕や体はもう部品であろう部分しかなく、残骸しか残されてない状態だった。だが、それでもまだ動こうとしているのか小さく振動している。
「メリーさん、キャミー。いくわよ」
「え、えぇ。『憑依無双 解!』」
憑依無双を解除されたメリーさん。纏っていた紫色の魔力を霧散させ憑依していたしゃれこうべが消え、メリーさんの剥き出しの髑髏だった左半分の顔は元の顔に戻り、顔同様骨であった右手も元に戻る。元に戻ったメリーさんは巨大化をやめ元のサイズに戻りヒナミのあとに続く。
その時、私はまだ気付いていなかった。この戦いが……ほんの序章に過ぎなかった事を。
「!?ヒナミ…っ!よけてぇぇぇ!!!」
「え…?」
ザシュッ。
残骸散らばる戦場に、一つの赤い花が咲いた。




