演目五十二:災厄
ヒナミがナーシャに制裁を受けてからはや数日が経過した。アリスの山積みにしていた人形の整備が着々と進み、今日で終われるだろうという所まで持ってこれた。
ヒナミside
体の至る所に絆創膏や包帯を巻いた私は、アリスの扱う人形を尻目にアリスへ問いかける。
「そう言えば、さ。アリスってよくシリーズシリーズって言うけど…それってなんなの?」
アリスはその声にピクっと反応した。カチャカチャと人形を扱う手はやめないが、目だけは爛々と輝いている。そして頬を朱に染め、待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに口をニヤニヤと歪ませる。
「イヒ…し、仕方ねェナ!知りたいなら教えてやるョ!!」
声は弾ませ、もう隠しきれないほど言いたそうにしているアリスを見ると、可愛すぎて悶え死にそうになる。多分、いや、絶対アリスに尻尾が付いていれば今頃はちぎれんばかりにブンブンと振っているだろう。
「シリーズってのは…人形の強さランクの総称の事だ!シリーズ1は時空兎とかだナ。一番最初にヒナミと殺りあった時に使ったやつ、覚えてるだろ?」
鼻息を荒くし説明するアリスに、それを聞いて思い出し、うっと変な声を出してしまうヒナミ。
「覚えてるわよ…あの怖可愛い兎ちゃん」
「なんだョそれ…んで、シリーズ2は自動殲滅型人形達だナ。ナーシャ、カルラ、憤怒と他の大罪の奴らもな」
「はっ!?自動人形ってシリーズ2なの!?あんだけ強いのに!?」
嘘でしょ…?これより強いやつって言ったら何が…あ、グラニールか!
「………あれ?ねぇ、ヴラドってどうなるの?あれ自動じゃなくても喋るし…」
アリスは、あー…あいつはねェ、と言い頬をポリポリとかく。
「あれはシリーズ3に当たる。グラニールと同じ強さを持つ奴だゼ。一見そんな風には見えねぇかもしれないが…見た目で判断すると死ぬからョ」
アリスは目を細め、くっくっくと楽しそうに笑いカチャカチャと人形を扱う。アリスはその人形の整備が終わると次の人形に手を伸ばす。掴んだ人形はナーシャだった。
「実際に見たから分かるけど…あれは怖いわよね。てか、シリーズってどこまであるの?」
ナーシャの腕や頭を触りながら、アリスは答える。
『……ンッ…』
「シリーズは全部で四つ。その他にもあるんだが…まぁ、この世界で使う必要があるかどうか悩みだナ」
『………ぁっ…』
「へぇ、気になるわね」
『……そこは…ダメッ…!』
「へへっ、内緒だゼ!人形使いが仕込みをバラしちゃ本末転倒だからョ!」
彼女は…じゃなかった、彼は本当に楽しそうに笑う。見てるだけで愛おしく、そして何より……。
『イッちゃ』
「さっきから煩いのよボケェェェェ!!!」
私とアリスの会話を艶声で邪魔してくるナーシャをアリスの手から強引に奪いさり、窓に手をかけ外へと投げ捨てる。キラン、と輝き星となったナーシャの方向を見ながら、私はフーっフーっと肩を上下させながら荒い息を吐く。
「…ふぅ…さ、これで問題ないわね」
かいてもない汗を拭う仕草をして、これで障害がなくなった!続きを始めましょう、と思いアリスの方に顔を向けたが、眼前いっぱいに白一色が広がった。何これ?と思った瞬間にすぐさま…。
バチンッ!!
「ぃっったぁぁぁぁ!!??なにぃ!?」
重い衝撃と痛みが顔中を走った。顔を両手で覆い、ゴロゴロと地面を転がる。
「なにぃ!?…じゃねェ!!こっちの台詞だ!整備中のナーシャを勝手に放り投げやがって!!」
涙で視界が霞むなか、白い紙を束にまとめた物を肩に担ぎ、ぷりぷりと怒っているアリスが見えた。
くそぅ!!涙で見えないし痛みが凄くてまともに見れない!!
カタカタカタ…カタカタカタ……
…ん、なんか小刻みに地面が揺れてるような…?心做しか見えないが、アリスの視線が鋭くなったような気がする。そんなに私怒らせたかしら?
しかし、そんな私の考えを壊す出来事がエウレペール全土に広がった。
二度目の災厄が訪れた。
ズゥゥゥゥゥゥゥッゥゥゥゥン!!!!
ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタッッッ!!!!
「きゃぁぁぁぁ!?」
「ヒナミっ!」
衝撃音に立つことすら出来ない激しい揺れ。頭を抱え蹲る私にアリスが私を守るように抱き寄せる。
一時して、揺れは収まったが…。
「……」
なに…今の衝撃に揺れ。今までに感じた事の無い程のモノよ…。
顔の痛みがひき、視界が戻っていく。アリスが私を守ってくれたおかげで、なんとか無事だったけど今の地震で部屋の中がグチャグチャだ。
「うひゃぁ、これは大変ね…あ、ありが…と、うアリ…ス」
アリスの顔を見た瞬間、私の言葉が尻窄みになっていく。能面のように張り付いた、何の感情も現れない顔をしていたからだ。アリスは口を開くと、さらに私に衝撃を与えた事を呟いた。
「ナーシャの魔力反応が消えた」




