演目五:くさやきゅう
異世界アルキネス------
アルキネスという惑星には13に分かれた国が存在する。
その13国の一つ、ここエウレペールは活気に溢れた国として有名である。主に酒と漁業が盛んで、至る所に酒場や直売所などがあり、多くの酒呑みや商売人が訪れる。
澄み渡る空に星が燦然と輝く夜、エウレペールにある有名な酒場『マリーネ』。
その酒場の席で向かい合って座る2人がいた。
1人は異世界より召喚された最狂の称号を持つ、人形使いの不思議アリス。
もう1人はアリスを召喚した、メリー家次期当主人形劇師のヒナミ・メリー。
アリスside
「なァ…いい加減機嫌直せョ…な?」
アリスはそう言って、目の前にいるボロボロの姿のヒナミ・メリーに話しかける。ところどころ焦げていたり、髪がボサボサになっているが彼女は気にした様子もなく不機嫌な顔でマリーネの名物酒、『ピエール』をジョッキで呷り、ダンッ!と
置く。
ピエールは黄金色の液体で上に泡が乗っている刺激が強い飲み物で度数は割と高めである。
「…………えなぃ…」
「うん?」
「ありえないわっ!あんな負け方!!」
「オォウ…?」
「なんなのよあれ!可愛い生き物かと思ったら爆弾だったなんて!!しかも抱きついて離さないとか!?天国か!!いや地獄だったわ!天国と地獄が一緒に来たよ!!」
「お、落ち着けよナ?あーゆー仕込みなんだからョ…」
「くっそぅぅ…!それになんなのよ、あんたの指さばき…あんた本当に人形使いなの…?ありえないわよ…あの人形の動き…くぅっ!こうなったらヤケよ!…おねぇさぁーーんっ!こっちにピエール、キンキンに冷えたの2つ追加ァ!!」
「はぁーい!」
ヒナミは注文すると、テーブルに頭を突っ伏した。
「まぁ、そもそもオレに挑んできたのが間違いなんだし、見たら分かるだろ?実力者の雰囲気ってヤツをナ!」
ふんすっ!と鼻息荒くアリスはドヤ顔で胸を張る。
「じつりょくしゃ…?…ふんいき?…はん!………ないわぁー…」
ヒナミはかなり冷めた眼でアリスを見やる。
「どーゆー意味だよコラァ!?」
「おまたせしましたぁ!ピエール2つです!…あら?お人形さんみたいに可愛いらしいわね」
そう言って店員のお姉さんはアリスの頭を撫で、うふふと笑い立ち去る。
ヒナミの人を馬鹿にするような…いや馬鹿にしてる顔がムカつく。
「こうゆう事よ」
「………………」
ウソだろ…。
「じ、じゃぁっ!今までの奴らはどうなる!?」
「今まで?…あぁ、元の世界の?」
「そうだ!奴らはオレを見て頬を赤らめて息を荒らげていたゾ!あれは恐怖でパニックになってたんじゃないのか!?」
ヒナミは息を吐き、頭痛がするみたいな表情をすると肩を上げやれやれと言う。
「どんだけおめでたい頭なのかしら?単にあなたのそのプリチーボディーを見て興奮していた…変態よ!!!」
「!!??」
アリスはショックを受けた。
今までにない衝撃だった。
アリスは動けない。
アリスはめのまえがまっくらになった。
「こりゃダメね…」
動かないアリスに再びため息をつくヒナミであった。
そこに忍び寄る影が三つ。
「よーぅ!ヒナミ・メリーさんよぉ!随分とボロボロじゃねぇか!」
ギャハハ!と笑いながら近づいて来たのは、小汚い格好をした男組3人だ。
話しかけてきた男の名前はダン、黒の短髪に人を小馬鹿にしたような顔立ちで、屈強な体つきをしている。汚れた皮の鎧を来ている彼の職は竜騎兵。竜騎兵とは竜に跨り槍で攻撃する職業である。
「くさっ…んんっ!うるさいわね、いつイメチェンしようと私の勝手でしょ?」
「…?なんかいっ…いやイメチェンのレベルじゃねぇだろそれ!……てか、うぉぉ!やっぱ近くで見るとかなり可愛いなぁおい!」
ダンはそう言って顔をアリスへと近づける。
が、アリスの鼻腔に悪臭が漂い、現実へと目を覚ます。
「くっさ!!!!!」
酒場に響くロリボイス。目の前には不細工な面。漂う悪臭。辺りが静まる。ヒナミの口角がヒクヒクと動いてるのは気にしない。
見た目は可愛いが中身はオラオラなこの残念ロリボイスちゃんことアリスは瞬時に状況を理解する。
「くっさ………ヤキューがしたいですゎ…」
声を震わせ、目を泳がせながら声を出すアリスであった。