演目四十九:魔王
アリスside
倒壊した城の中で幾度も激しい剣戟音が聞こえる。
一人は巨大な竜を操る少女のような姿をした男アリス。もう一人は、この倒壊した城の城主であるシュペード。
シュペードは槍を構え真っ直ぐと竜に突撃。そのまま貫かんとせん攻撃にアリスは、それに対し手の甲を相手に見せ、親指を内側に曲げる。それに合わせ、グラニールが横向きに回転。
キィンッ!!!!
甲高い音が鳴る。シュペードの槍をアリスは、グラニールの尻尾をぶつけて止めた。シュペードは自身の槍を止められた事に驚愕し、アリスはその姿を見た瞬間、ニヤリと笑い指をさらに動かす。親指を二回曲げ、人差し指の第一関節、小指の第二関節を同時に曲げ手を上下に振る。
驚愕した状態から戻ったシュペードは、一旦距離を取ろうとするが------。
ドンドンッッッッ!!!
今までに味わった事の無いほどの強烈な衝撃と痛みが背中と腹部を襲った。そして、シュペードはいつの間にか仰向けに自分が地面に倒れている事に気がついた。立とうとするが動けず、痛みに呻くことしか出来ない。
「ハーハッハッハー!!何されたか分からなかった見てぇな顔だナ!教えてやるョ」
シュペードは苦悶の表情を浮かべながら、顔だけをこちらに向ける。アリスは手元の糸を操り、グラニールをゆっくりと動かす。
「単純な事だ。お前の槍を止めた尻尾を使って二回連続ではたいただけだゼ」
先程魅せた動きとは違い、今度はかなり制限のされた速度でさっきの攻撃を実演してみせる。グラニールの尾が上から振り下ろされ、そっからまた上に尾を持ち上げるように振るう。ただそれだけ、とアリスはそういい笑う。実際に食らったシュペードは有り得ない!と今にでも叫びそうな程の表情になっている。
「まァ、人の身でグラニールに張り合おうとしたんだ。結果はとう…ん?」
アリスが最後まで言い切る前に、シュペードは意識を失った。その様子に肩を落とし落胆したアリスは一つため息を吐き、ヒナミの方に顔を向ける。
「ヒナミ…終わっ…たって、ンだョその顔は…?」
声をかけられたヒナミは、頬を引き攣らせ犯罪者を見る様な目付きになっていた。
「うわぁ…なんかもう助けに来た白馬の王子様じゃなくて、召喚したら魔王来ちゃったみたいじゃん、それにもうアンタの方が悪にしか見えないわ…」
「ンだと!?このオレのどこが真央魔王だと!?」
ヒナミは顎に手を当て、ふむと目を瞑り…口を開く。
「禍々しい程の魔力を纏った巨大な竜に跨り、それを巧みに操る少女のような男…完璧じゃない」
「否定できねェ…っ」
改めて聞くと、確かに魔王っぽいわ…。あー…普通に助けに来たはずなんだがなァ…。
アリスが嘆いてると、ラルランド王国全土に響き渡ると思うほどの鐘の音が鳴り響く。
ゴーーーーーーン!!!!!ゴーーーーーーン!!!!!ゴーーーーーーン!!!!!ゴーーーーーーン!!!!!
「うおっ!?な、なんだこりゃ…」
「きゃっ!?なんなの!?」
鐘の音に驚いたアリスとヒナミ。音が止み、二人は辺りを警戒していると、その場にナーシャとカルラが現れる。
「我が主よ」
「おお、ナーシャにカルラ」
「アリス様大変なことになってるぜ。ここで派手にどんパチやったせいで、国の軍がこっちに向かって来てやがる!」
まぁ、さすがにこれだけ暴れて城まで壊したんだからそりゃなるよな!はっはっは!
「それに主よ、グラニールを使用した際にこの国の住民達に見られていたようです。今、下は大騒ぎで竜討伐のために各国から人が集まってるみたいです」
なるほどナ。だからこんだけ暴れてんのに人っ子一人来なかったわけだ…。シュペードとの戦闘はオレが楽しんだせいで長引いたからな…戦力を集めるには十分な時間だったわけか…。
「ど、どうすんの!?アンタ本当に魔王になっちゃってるわよ!?」
「だだだ大丈夫だし、もも問題ないし」
「ガッタガタじゃないの!!」
さて、遊びも程々に。…ふむぅ、ここで派手に暴れて国を落とすのも簡単だが…。
アリスはチラリとヒナミの方を見る。どうしようどうしようと慌てふためく姿に思わずぷはっと笑ってしまう。
国を落とすのはやめよう、そう思った時…頭上から声が聞こえた。
「やぁやぁ、下が騒がしいと思って来てみてはキミたち…派手にやりすぎたね…まぁ、ボクには関係ないからいいんだけどね?」
四人は思わずばっと上を見ると、四人は目を開き驚く。話しかけた人物…それは…。
「このボク…グレーテル様がキミたちを助けてあげなくもないよ!ふふ」
移動する魔服店ネバーランド店主、グレーテルだった。




