演目四十七:勘違い
ヒナミside
ラルランド王国に無理やり連れてこられてから早数時間。その間にヒナミは城にいるメイド達から着せ替え人形の如く服を着させられていた。キャーキャーとメイド達は黄色い歓声を上げ楽しげな表情で服を選ぶが、当人であるヒナミの顔はこれ以上ないと言うくらいに死んでいた。
「ヒナミ様!お次はこれなんてどうでしょう!?」
「いえいえヒナミ様!まずはこちらのお召し物を!!」
彼女達はヒナミの前に次々と色んな服を持ってくる。フリフリのついた綺麗なドレス、カジュアルなドレスや紺色のワンピース………。
「……ねぇ?もうやめない?こんなこと」
死にかけの顔でそう呟くヒナミの言葉にメイド達は手を止め固まる。そして、一息。
「「「嫌です」」」
「ふぁっ!?」
声を揃えて否定。思わず変な声が出るヒナミ。メイド達はわざとらしく芝居がかった素振りでヒナミの周りにやってくる。一人はヒナミの前にやって来て手を取る。
「だって!ヒナミ様はこんなにも素材がいいのに勿体ないですよ!!」
「素材…」
もう一人は、ヒナミの足にしがみつき、器用に目の端に涙をため、こちらを見つめる。
「そうですよ!こんなにも綺麗なお肌で」
「出るところは…あ…んん!引っ込むところはひっこんでてますし!」
「だぁれがベストオブ貧乳じゃオラァァ!!」
褒めようとしたメイドの一人が、ヒナミの一部を見て戸惑い有耶無耶に発言したが、しっかりと見ていたのを知っているヒナミは両の手に近くにあった服を引きちぎったり、ブンブンと振り回して暴れだした。
「きゃぁぁ!!」
「ヒナミ様がご乱心よぉぉ!!!」
「お前のせいじゃボケェェェエエ工!!!」
そうして彼女達と遊んでいる(遊ばれている)内に、部屋をコンコンコンとノックをされる音が聞こえた。がチャリと扉を開け入ってきたのはここの城主である、シュペード・ジ・クイックである。
「どうだ?我が花嫁にあうドレスは見つかったか?」
彼は黒のワイシャツを着ており、胸元を全開に開けている。下はすらっとした黒いパンツに黒い革靴…どんだけ黒好きなのよ。
「これはシュペード様!!」
メイド達が慌てて礼をとろうとするが、シュペードは手でそれを制す。
「よい。それで、どうなのだ?」
「は、はい!ヒナミ様はどれを着ましても大変よく似合っておりまして…」
「ふはははは!!そうであろうそうであろう!我が花嫁は何を着させても似合うからなぁ!!!」
なんでアンタが偉そうにするのよ…。
「どれ、俺が選んでやろう……ふむ。これにしよう!」
シュペードが選んだのは、純白のドレス。床にまで着く程長く、胸元には1つの薄い桃色のバラがあしらえておりとても綺麗なドレスだ。思わずヒナミも目を奪われる。すると、頭にペシペシと軽い衝撃が走る。何かと思い叩いてきた者を見るとそれは、小さな簪だった。小さい簪には小さな目と口が着いており怒った表情でヒナミを見ていた。それにはっとなり、叩いてきた簪に小さい声で謝る。
「あ、ごめ…」
それに満足した簪は頷き、また動かなくなる。
危ない危ない…危うく忘れるところだったわ。それに、この子がコイツらに見つからなくて良かった。このメリーさんの『擬態モード』を。どうにかしてここを切り抜けないと。使い所間違える訳には行かないわね。
「ふっ。流石だな嫁よ。やはりそのドレスはお前にこそ相応しい!」
どれす…?って、あれ!?いつの間にかドレスに着替えさせられてる!?
「その姿…弟達に見せたらさぞ悔しがるだろうな!ふはははははは!!!」
へぇ。こいつって兄弟がいるんだ。
「アンタって…"兄弟が"いるのね」
ズドォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!
沈黙するヒナミとシュペード、固まるメイド、城の天井を突き破る巨大化したメリーさん。
ヒナミは錆で固まったネジのようにギギギと首を動かし、勝手に巨大化したメリーさんを見やる。そして心の中で叫んだ。
ええええええええええええ!?なんで巨大化してるのぉぉぉ!?
も、もしかして巨大化と兄弟がを間違えちゃった?それなら納得!出来るわけねぇだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!そんなしょうもない間違えしねぇだろォォォォォォ!!!
私が心の中で叫んでる中、シュペードが震えながら口を開く。
「……よ、嫁…?こっ、これは、一体…」
あかん…どうする!?てかもう後戻り出来ないよねうはははははは!!!最後までやったらーい!!
「あーはっはっはっはっ!!引っかかったわねシュペード・ジ・クイックゥゥ!!貴方の人生もここまでよ!!」
「ど、どういうことだ嫁よ!?」
どうもこうもないわ!り、理由なんて考えてないし…。
「あははははは!!貴方と話すことなんてないわぁ!『メリーさん!暴れなさい!!』」
あー…、やっちゃったなぁ…。




