演目四十六:責任と入国
アリスside
空が紅く色付いてきた夕方。部屋から見える景色は。
「我が主、それは前にヒナミがやりました」
「あれ?そうだったかナ?」
オレがグレーテルとキスをしてから数時間後。それまでの間は大変だったゼ…。倒れたナーシャとカルラを起こそうとするが、なかなか起きねェからたたき起こしたり、キスをした状態から固まったままのグレーテルを現実に引き戻したりでョ。困ったモンだぜ。
「それはそうと、ヒナミがおりませんね」
「お?そいやそうだナ」
ヒナミがいない事に気づいたオレは、キョロキョロと辺りを見渡す。
「そ!それなら……ぼ、ボク達が色々やっ…やってる…うちにアイツに連れて……いかれてたよ…?」
とその時、店の奥から小さい声で途切れ途切れに教えてくれる人影が一つ。
「なに!?……てか、なんでそんなに離れてんだョ」
その声にビクッと身体を震わす人影。
「グレーテル」
呼ばれたグレーテルは、顔を真っ赤に染め上げ叫ぶ。
「う、うるさい!!なんでもいいだろ!!それよりなんで君は平然としてるんだよぉ!!」
顔を真っ赤に染め、涙目でこちらを見てくるグレーテル。
「そ、それに…ボク……」
顔を伏せ、こちらを伺うように見てくる瞳は潤んでいる。
「ファーストキス……だったん…だよ?」
そう言って彼女は両手で顔を隠す。それに対するアリスは。
「そうカ」
興味無さそうに返事をするのであった。
「そンなことより、アイツに連れていかれたってどゆことだョ?」
「そうか!?そんなこと!?なにさなにさ!!その反応は!!」
アリスの素っ気ない反応に、グレーテルは癇癪を起こす。その様子にカルラとナーシャも流石に同情したのか、アリスを責める。
「アリス様ぁ、そりゃねぇぜ?」
「…あまり異議はしたくないのですが…私も同じです」
「エェ…?ンじゃ、どうしろってゆうんだョ」
悩むアリスに、カルラが答える、
「簡単に、オレサマもファーストキスだぜって言えばいいんじゃね?」
「いやオレ、ファーストじゃねェモンな」
「「は?」」
まさかの事に、思わず声がハモる二人、
「い、いいいい一体だだだだ誰と!?」
「ウソだろアリス様!?」
しどろもどろになりながら聞くナーシャと、信じられないとばかりに叫ぶカルラ。
「ええい!今はイイだろ!それより本題だ」
「はっ!も、申し訳ありません…」
「…すまねぇ」
アリスは、プンプンと怒っているグレーテルを見つめ声をかける。
「グレーテル、アイツって誰だ?」
「ふん!知らないもんね!」
グレーテルは口を尖らせ、顔をぷいっと逸らす。
「グレーテル!」
アリスはそんなグレーテルの顔を掴みこちらへ向け、見つめ合う状態になる。グレーテルの怒っていた表情はだんだんと驚きと恥ずかしさに変わっていき、あわあわとしだす。
「今ヒナミ…オレの連れがもしかしたら大変な事になってるかもしれねェんだ。だからョ、頼む。教えてくレ」
アリスの、その真剣な表情にグレーテルは心音が激しくなるのを感じた。
「ぅ…ぁ…ぅん…」
その真剣さに当てられ思わず返事をしたグレーテル。そこで、はっとなり口をきつく結ぶ。そして、絞り出すように声を出す。
「だったら!……責任…取って?ボクのはじめてを奪ったんだから…」
「イイぜ」
「……!…ほんとうに…?」
「アア、責任でも何でも取ってやるョ!だから」
「主よっ!」
「やめとけナーシャ!また話をややこしくするだけだぜ」
「ぐっ…」
アリスを止めようと声を荒らげたナーシャであるが、カルラの制止により動きを止める。先程の件も含めとどまった。
「うん…うん!えへへ…あ、えっとね、アイツってのは『シュペード・ジ・クイック』って言う人でね。ラルランド王国に所属しているとても強くて権力もある人だよ!最近では城を貰ったって話が出回ってるね」
「ラルランド王国?」
「あれ?ラルランド王国を知らないの?そだね、簡単に言えば争いが大好きな国だよ!」
「争いが好き、か。ラルランド王国にはどうやったらイける?」
「それなら、ボクのお店のゲートを使いなよ!あの扉で行きたい場所を念じれば行けるよ!と言ってもラルランド王国を知らないから、今回はボクがサポートしてあげる!」
「おお!助かるゼ!」
そう言ってアリスはそそくさと、扉の前に立つ。遅れてナーシャとカルラ、グレーテルがやってくる。グレーテルはアリスの手を握り、ニコニコと笑顔を浮かべナーシャ達に話しかける。
「二人とも、ボクみたいにアリスに捕まって!ゲートをくぐるから」
「あぁ」
「了解した」
カルラとナーシャがアリスを掴んだのを確認すると、グレーテルは扉に手を添え目を瞑る。そして、小さく口に出す。
「ゲート…『ラルランド王国』」
その声が聞こえた瞬間。全身を駆け抜ける、なんとも言えない感覚に陥る。
「うぉお!?」
「くっ…」
「うへぇ…なんだこりゃ…」
アリス達も思わず声が出る。それを横目に見たグレーテルは苦笑する。
「あはは…ボクも最初はそんなだったけど、慣れたら平気だよ。………さて、もう着くよ!」
感覚が徐々に治まり、今度は陽気な風がアリス達を包み込む。
「さぁ、着いたよ!ここが戦を誰よりも好む国…ラルランド王国だよ!!」
グレーテルが、ばっと両手を広げながら見せてくれた光景は------。
緑が一面に広がる草原に、その場に不釣り合いな鉄で出来た家や店が建ち並ぶ城下町の姿があった。その奥には、太陽に届くのではないか、と思うほどのでかい塔のようなお城が聳えていた。その周りには小さいがそれでも立派な城が五城立ち構えている。その五城の一つに見覚えのあるモノが見えた。それは------。
城から突き抜けて出てきている…巨大化したメリーさんだった。




