演目三十九:逃避したい
ヒナミside
食事を終えた私達は、会計を済まし外に出る。
「ふぅ…結構美味しかったわここ。また来ましょ」
「だな」
「たまにはよかろう」
私の呟きに同意するカルラとナーシャ。こいつら…!アリスに一言、人形は食事を取る必要がないと言ってそれを聞いて固まってたくせに次にはケロッとしてお代わりまでしやがったわ!!
「んで、これからどうするョ?」
アリスが私を見上げながら聞いてくる。ふむ、どうしようかしら。
「なんもしねェなら、服見に行かねェ?」
「いいけど…アリスあんた服作れるんだから必要なくない?」
「ばっか、ヒナミばっか!今流行ってのを調べるンだョ!アーティストってのは常に刺激を求めねェといけねぇんだゼ?」
コイツ有り得ねぇわ、みたいな顔をしやがるアリス。あー、流行りをね、それにインスピレーション?だっけ?それが欲しいとなるほどね。てか誰が馬鹿だこら。
「それでしたら我が主よ。あちらに最先端と張り紙を貼ってあるあの店はどうでしょう?」
そう言ってナーシャが指さした場所。そこは一見普通の木造のお店…だが、外から中が見えないように黒塗りのガラスで出来ている。入口と思わしき所に、『最先端の衣類、取り揃えております』とだけ書かれている紙が…。
「ウム!そこにしよウ!」
「いやちょっとまって」
何このお店!?怪しさMAXじゃない!!
「…なんだョ?」
止められたことに若干不機嫌なアリス。
「いや、アリス?アリスちゃん?考え直そ?どう考えてもあれ、全然普通のお店じゃないよね?」
「ふっ…ヒナミ…確かにあの店は普通じゃないナ」
どこか憂いを帯びた顔で呟くアリス。
「よかった…。さすがにアンタでもあの雰囲気は分かってくれるのね。だったら」
「だが!それが…いい!!」
私の声を遮り、憂いを帯びた顔を一瞬にして崩し、キラキラとした眼で怪しさMAXな店を見つめる。
…………え。
「あんな面白そうな所なんざ他にはねェ!!行くゼ、ナーシャ!カルラ!」
「「おー!」」
ちょっとぉぉぉぉぉぉ!!??なんなの!?ほんとになんなの!?このおバカどもぉぉぉ!!!!
私を置いて走り出したアリス達。アリス達は扉の前にまで行くと立ち止まると…こちらに振り返る。その顔は困惑に満ちていた。
何事かと思い、私は走ってアリス達の所に向かう。
「はぁ…はぁ…どうしたの?」
「んや、えとナ…?扉あるじゃねェか?」
「…?そうね、扉はあるわ…あれ?」
私はアリスが困惑している訳が分かった。張り紙を貼っている扉------扉なんだが、取っ手がない。扉を開くための取っ手が…!
「…あ!もしかして横にスライドするとか!」
「やってみよう」
ナーシャが扉に手をかけ、横にズラそうとするがピクリとも動かない。
「ちっ!…なんだコレは…」
ナーシャが舌打ちをし、悪態をつく。これはしょうがない。えぇ、まったく!しょうがないのよ!
「ねぇアリス?こんな意味の分からない扉に外から見えない変な店より、もっといいお店探しましょう?ね?」
「メンドクセェ!!カルラ!!!」
またもや私の声を遮り、カルラを呼ぶ。呼ばれたカルラはへいへいと返事をしながら、拳を構える。
え、ちょっと…嘘…よね?
「かるらストレート」
出会った時から思ったけど技名のネーミングセンスがイマイチだなー、なんて場違いな事を考え現実から逃げようとする私。
どごぉぉん!!!
と、鈍く、重い衝撃波が地面を揺らす。扉があった場所は全壊していた。壊れた扉から覗く店内は色とりどりな服に、オススメであろう服をきたマネキン、目を見開いてこちらを見ている店員とお客。壊れた扉を跨いでナーシャが店の中に入るやいなや------。
「我が主、アリス様の来店である!即刻流行りの服を全部持ってこい!!!」
おバカぁぁぁぁぁぁぁ!!!なんてことしてくれてるの!?
そして、それに次いで扉を壊した張本人のカルラもナーシャの横に立ち店内を見渡しつつ、辺りに鋭い犬歯を見せて威嚇している。その後にゆっくりとアリスが歩いて店内に入る。
もうどうにでもなれ。そう思い私もアリスの後に続く。
……これは逃避ではない。決して現実逃避ではないぞぉぉぉぉ!!




