演目三十八:お食事
晴れ渡る晴天。青く澄んだ空には雲がひとつもなく、どこまでも青が広がっていた。そんな天気のいい日にヒナミの家の近くの中央通りにあるオシャレな喫茶店『ミラン』に、あれから元気を…いや正気を取り戻したヒナミとその一行であるアリス、ナーシャ、カルラがいた。ミランにはオープンテラスが備わっており外で食事や談笑する人ばかりでヒナミ達一行もそこで食事を取っていた。
ヒナミside
「それにしてもこのミラン・ランチっての美味しいわね」
ミラン・ランチ。ミランの看板メニューとも言えるそれは、季節によって変わる旬の野菜を使ったクリームソースを紐のように細い黄色い色をした麺を絡めた食べ物と、色とりどりのスティック状の野菜サラダに、カラメルのような色合いをしたオニオンスープ。芳ばしい香りがヒナミの鼻腔を刺激し、手に持つフォークが止まらない。
「へっ!そんな女みてぇな洒落たもん食いやがってよぅ…男なら肉だろ!」
そう言ったのはカルラ。自身の皿を私に突きつけて手に持っていた肉を齧り付く。カルラが頼んだものはミラン特製、にく☆きゅうAセットだ。名前は可愛いが中身は全く可愛くない。なぜなら、このにく☆きゅうAセットの肉は全てエウレペールベアと呼ばれるエウレペール各地に出没するモンスターが使われているからだ。エウレペールベアは全長3~5m程で全身を毛で覆い、四足歩行で歩く肉食のモンスターだ。そのモンスターの前足を使って作った料理がにく☆きゅうAセットである。そして私は女である。
「いや私女なんですけど!?バリバリの女の子なんですけどぉ!?」
「ふん。今どきの女がバリバリのー、なんて言葉を使うわけなかろう」
私の言葉を否定するナーシャ。ナーシャは丁寧にナプキンで口元を吹くと、キッと私を睨む。
いや今どきの女の子は普通にバリバリのーとか使うから。………使うよね?
「女たるもの、ここで食らうはこれだ」
そう言ってナーシャは、スプーンを持ち、皿にある真っ赤に染まったスープを飲んだ。
え、まって?なんでそれそんなに赤いの?そんな食べ物ありました?
「ふふん…!」
なんで彼女は得意気な顔をしているのかしら…?
「これは『デスネロスープ』といってな、今が旬のデスネロと呼ばれる辛い実を使っているスープだ。食べれば美味しいが近づくだけで強烈な痛みを味わうと言われてる食べ物だ。この世界の辛いもの好きが一度は食べてみたいと言うほどのものなのだ!!」
「女どこいった!?」
なにこのこ!?辛いもの好きだったの!?…ナーシャがスプーンでデスネロスープをすくって私に……って。やめてやめてやめて!それ近づけないでよ!あ、痛っ!?いたたたたたた!!目がぁ!目がぁ!!
「……そんなに嫌がらなくてもいいだろう。美味しいのに」
食べる前からこれって食ったらタダじゃすまなさそう…。こいつの舌は化け物か…っ!
純粋なテロ攻撃を目に受けたヒナミは、ゴシゴシと目を擦る。その間は涙が止まらなかった。
「ナーシャは昔から辛いもの好きだったよなァ。あたしの肉にまで真っ赤な液体かけようとしやがるしよぉ…」
「ふん!こんなに美味しいものをなぜ貴様らは理解できんのだ」
「舌が死ぬっつーの!」
カルラとナーシャのじゃれ合いを横目に、私は今度はアリスの方を見ると……。
なんとアリスの前には、白いカップに紅色をした飲み物が入っただけのものだった。
「え、あ、アリス?ど、どうかしたの?ぽんぽん痛い?」
「…なんだョ、別にどうもしてねェけど?後ぽんぽんは痛くねェ」
思わず体調が悪いのかとおもって話しかけたが、どうも普通の様子だった。
「じ、じゃぁ、どうしてご飯食べないの?もしかして……お金なかった?」
「…アホか!んなわけねェだろ。例え金なくってもオレサマの愛嬌があれば飯くらい余裕で貰えるゼ」
「最低だコイツ!?」
サラッと満面の笑みを浮かべてとんでもないことを口走るアリス。アリスはカップに口をつけコクコクと飲むほす。飲み終えたカップをテーブルに置きふぅ、と一息つく。
「てかナ、ヒナミ」
「なに?」
「オレたちゃ人形はそもそも食事なんて取る必要ねェんだョ」
……………ゑ?
その言葉と同時にナーシャとカルラの動きも止まった。コイツら……。




