演目二十八:覚悟
アリスのイタズラにより気絶したヒナミ。あれから数時間後のこと。
気絶から目を覚ましたヒナミは、第一にアリスにゲンコツをかます。無表情で淡々と行うその様子に周りは震えた。
震え上がった人達を横目に、ヒナミは近くにある椅子に座るとアリス達にお願いをする。
ヒナミside
「アリス…みんな。お願いがあるの」
私は伏し目で訴えかけるように言う。そんな弱々しい姿に心を打たれたのか、アリスは涙目でかたり------。
「いやこれおめェに殴られたせいで泣いてんだけド!?」
てへっ。
心の中で、お茶目に舌を出す。
殴られた頭を擦りながら、愚痴をこぼしている。
「それにしても、マジでイテェ…何が人形使いで接近戦に弱いだョ…」
「そうよヒナミィ?アリスちゃんにぃぃ…ぃぃ…手ェェナンテ!!!」
闇堕ち仕掛けているキャミー。
遊びすぎたみたい。このキャミーを相手にすると厄介だわ…。
「んで、なんだョ?お願いって」
頭を擦りながらアリスはヒナミに問う。
私は眼を閉じ、思い出す。
今回のクエストでは、私はほぼ役に立たなかった。むしろ足でまとい。アリスは実力不足という訳でなく相性が悪いと言ってくれたけど…。私はそうは思わない。やっぱり自分が、私が弱いから。同じ人形使いでもアリスはブラドに勝った。私には戦闘経験が足りないし、いつまでもアリスにおんぶにだっこはマスターとして示しがつかないわ。こんなんじゃ、いつまで経っても私の復讐は…。ならば、取れる選択は一つしかないわよね。
「……アリス。私を鍛えて欲しいの。お願い」
そう言って私はアリスに頭を下げる。
アリスに鍛えてもらう。五百という長い時を生きみた彼に鍛えてもらう。それに同じ人形使い、たとえ操り方が違うとしても元は同じだ
なかなか返事が来ないので、ゆっくりと頭をあげると------。
アリスはくりくりとした眼をパチクリと瞬きをし、固まっていた。
「…ちょっと?なんで固まるのかしら?」
途端にアリスは、はっとなり慌てた様子で話す。
「い、いやだってよぅ?ヒナミが人に頭なんて下げるから…ナ?」
「なによ…。私だって頭くらい下げるわよ」
口をとがらせふくれっ面になる私に、アリスはごめんごめん、と笑いながらに言う。そして、アリスは一つ咳をする。目を閉じ、じっとしている。その姿を見ていると何故だが緊張してくる。
アリスはゆっくりと目を開けると、いつものような天真爛漫な雰囲気ではなく、どこか野生じみた雰囲気を纏わせていた。目を私に合わせると、私は身体が固まったのを感じた。普段見せるような眼差しではなく、戦闘の時と同じ目をしている。アリスは口を開く。
「…ヒナミ。おめェがそこまでして頼むんダ。中途半端鍛え方はしたくねェ…それに、オレサマの鍛え方は戦闘によって生まれる。生半可な覚悟だと…死ぬゼ?」
殺気。
アリスの声には殺気が込められている。口に出す度に声の殺気は私を襲う。震える身体、冷や汗が止まらなくなっている。一歩でも気を抜けば持っていかれそうなくらいの感覚に陥っている。脳から逃げろ、と危険信号がバンバンと走ってくる。でも!それでも私は------!
「私はっ!…強くなりたい…っ!」
声を震わせ、身体を震わす。アリスの目を真っ直ぐに見つめる。
「誰かを守れるくらいに!誰かを失わないように!!…もぅ…失うのは嫌だよ…」
蘇る『あの日』の記憶。赤々とした背景、己以外の血で出来た-------。
「そうカ…」
私の思い出したくない記憶を遮ってくれるかのように声を出したアリス。
先程までの鋭い、野生じみた雰囲気ではなく、いつものような天真爛漫の雰囲気だった。
「ヒナミ…おめェの覚悟、見たゼ」
アリスは優しい眼差しで私を見る。穏やかな口調で私に語りかけ-------。
「んじゃ、今日からやるか!ヒナミに合わせるなら…やっぱアレかな、いやこれかな?」
「えっ?えっ!?」
急に軽い口調で話すアリスに戸惑うヒナミ。あれやこれやと色んな道具をコートのポケットから取り出すアリス。
あんたのコートのポケット、一体どうなってんのよ…。
「……んと…。っ!そうだ、これにしよう!!」
アリスがそう言って最終的に取り出したのは、緑の配管工に、大口を開けた花が咲いた道具だった。
………コイツに頼むのはやまったかしら…。




