演目二十三:ブラド
〜廃墟になった街・A区〜
本来、木造で出来た家が立ち並ぶこのA区は、今現在、腐り、ボロボロの姿で当時の面影を一切残さない、そんな風景と化している。
ヒナミside
「なぁ…ヒナミ」
辺りを探査していると。鼻をヒクヒクとさせながら、カルラが私に話しかけてくる。
「なによ?」
「こっから先、気をつけた方がいいぜ。血の匂いが強くなってやがる」
そう言ってカルラは、奥を睨みつけながら私に忠告をする。
「さっきも思ったけど…アンタ達は本当に五感が鋭いわね。感心するわ」
「そりゃぁな。あたし達、犬人族は五感全部…というより、嗅覚と聴覚が優れている」
犬人族…聞いたことのない種族だ。多分、アリス達の世界の種族なんだろう。
そんな事を考えていると、猛烈な悪寒に襲われた。
誰かに見られている。そんな感じの気配。そして肌を刺すような殺気…。もしかしてこれが…っ!
「!!…見つけた!ヒナミはあたしの後に隠れてな!そんで、アリス様に知らせろ!!…最初の一発は、アタシが頂く。がぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
ヒナミよりいち早く敵を見つけたカルラが、前に出て吠える。
私はカルラに言われた通り、アリスから預かった拳銃を取り出し、真上に向ける。そして、引き金を引く。
パンッ!
ピュゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!
発砲音と発煙弾が上がる音が響く。その音をかき消すようなカルラの咆哮が聞こえる。
咆哮は一直線に目の前にあったボロボロの家達を巻き込み、壊しながら進んでいく。
「あぁぁぁぁぁぁ……ぁぁあ………ふぅ」
吠え終えたカルラは一息つくと、戦闘態勢に入る。
それを見終えた私も、メリーさんを呼び出し戦闘態勢へと入る。
「……アレかァ、ヒナミ。ブラドって奴は」
カルラが咆哮によって家を吹き壊した一帯を指を指し、私に尋ねる。
「……うーん、と………どれ?」
「なっ…見えねぇのかよ…」
「悪かったわね!!」
見えない事に落胆した様子のカルラ。しかし、カルラの頭に生えている犬耳が、いきなりピンっと真っ直ぐに立つ。
「おっ?起き上がったな…」
カルラはニヤリと笑うと、嬉しそうにそうじゃなきゃな、と独り言を零す。
え、てか倒れてたの…?あ、巻き込まれたのね。
「ん?なんだ…っ!」
ブラドと思われる人物を見ていたカルラが驚嘆に目を見開く。
「どうしたの?」
「奴さんが、地面に沈んでいってる…これは……はっ!?いけねぇ!!ヒナ」
私の名前を呼び終わる前に、カルラが吹き飛ばされた。
それはもう一瞬の出来事で、目で追うことすら出来なかった。
「………ふひ」
下卑た笑い、笑う口から覗く鋭利な歯、病的なほどに青白い肌、皮と骨しかないようなほどのひょろひょろとした体型…。これで、あのカルラの背後を。しかも吹き飛ばすなんて…!!
「ヤラレ…ヤラレタ、カラ……ワガハイ、ヤリカエス。ワガハイ、テン…サイ?」
「知らないわよ!それよりもアンタの名前…ブラドって言うのかしら?」
「ワガハイ?ワガハイ、ブラド」
片言で喋るブラド。その様子を見て隙がないか探すヒナミ。
動きはカクカクとしながら、手を忙しなく動かしている。声は高く、短い黒髪を左右に分けており、目は黒く光がない。周りには隈が出来ている。
どうしようこいつ…、全く隙がないっ!一件、気の抜けたような状態だが、全く付け込める隙がない…!
「ブラド…当たりね。光栄に思うといいわ!この私が、あなたを倒してあげる!!行くわよメリーさん!『メリーさん!巨大化!!ブラドを潰しなさい!!!』」
ヒナミの側で待機していたメリーさん。命令を受けたメリーさんは、巨大化を始める。ぐんぐんと大きくなり、山のように大きくなったメリーさんは、手のひらをブラドに向けて振り下ろす。
バァァァァァァァン!バァァァァァァァン!バァァァァァァァン!バァァァァァァァン!
計四発、ブラドに向けて手のひらを振り下ろす。
「ふふん!どうかしら?メリーさんの攻撃は。カルラ…アンタの仇は取ったわよ!」
キメ顔で締めに入るヒナミ。そのまま、ヒナミはメリーさんに指示を飛ばす。
「さて、メリーさん!その手をどかして、ブラドの無様な姿を見るわよ」
命令を受けたメリーさんは、振り下ろしていた手をどける。
「ふふ…いい感じに潰れてくれてると……なっ!?」
メリーさんの手が置かれていた場所に、ブラドの姿はなかった。
なぜ!?間違いなくブラドの体に直撃したはず…!
そう考えてた私の背後に、ブラドはいた。
「ワガハイ、クラワナイ」
「しまっ」
やられる。ブラドが私の首めがけ自身の手を伸ばすのが見えた。




