演目二十:魔道具
エウレペールの一角に、レンガで出来た家が立ち並ぶ市街がある。名をルーペ。
色鮮やかなレンガで造られており、観光地としても有名な場所である。
その街の中には、ヒナミの住む部屋もある。
〜ヒナミ宅〜
「…んー」
「どうしたョ、ヒナミ」
への字口にし、唸っている私にアリスが問いかける。
「んー…いやね?紙芝居で聞いたとは言え、実際に見るとなんというか…すごいわね」
「うん?…あぁ、人形作りの事カ」
「そうよ。聞くのと見るのじゃ、全然違うもの。それに…あの紙芝居は可愛く描かれすぎよ!しかも素体人形に口があるなんて知らなかったしなんか…グロイわよ!!」
「おぉう!?そんな事言われてもナー?」
うぅ…っ。思い出したくないけど…あの啜る音が脳裏から…。
「てゆうかョ、ヒナミ」
「……なによ」
「いい加減、ヤマガミ返せョナ」
アリスは私が手に持って弄っているヤマガミを指差し、恨みがましそうに睨んでいる。
しょうがないじゃない…。この肌触りがたまんないんだもの!!
硬いのかと思ったら全然そんな事はない!!柔らかく柔軟で、森林の香りと懐に入れてたのか少しアリスのミルクのような香り………が……。
「ぬぅがぁぁあああああああ!!!ちがうのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!私は違うのよぉぉぉぉおぉぉぉ!!!」
「うぉっ!?」
頭を振り回すヒナミに驚くアリス。
そんなヒナミに近づく者が二人。ナーシャとカルラである。
「……な、なによ?」
二人は無言で、ヒナミの肩に手を置くと------。
「「ようこそ、こちら側の世界へ」」
「ちぃがぁぁあう!!!」
「……何も言うな、分かっているから…な?」
「あぁ、そうだぜ」
ナーシャとカルラは悟ったような顔でヒナミに語りかける。
「やめなさいよその顔ぉぉぉぉおぉぉぉ!!!」
「今日のヒナミはおもしれぇナ…」
頭を振り回したり、叫んだり、絶望したり、顔を赤くしたと思ったらすぐに青くしたり。
「そんな事よりヒナミ」
いつの間にか、私から取り返していたヤマガミ人形を懐に終い、私に話しかけてくる。
「なにかしら?」
「人形のための部屋を寄越しナ!」
「却下よ。いらないわよそんな部屋」
「なにぃ!?ヒナミィ!オレたちに裸で過ごせって言うのかョ?」
「ヒナミ貴様!我が主になんたるプレ…仕打ちを!?」
「アリス様…裸になったらあたしが温めてやんぜ!」
両肩を抑え震える動作をするアリス。顔は凛々しくも中身は残念なナーシャ。受け入れるカルラ。三者三様、一人は面白がっているが…。
「はぁ!?なんでそんな話になんのよ!」
「ヒナミ。それは…我らの服は全て我が主の手製なのだ」
「え!?うそでしょ!?アンタ達の自前品じゃないの!?」
「んー、コイツらは元々軍服だったけど、微妙だったからョ…オレサマが改良してやったゼ!」
小さくペロッと舌を出し、片目を閉じウィンクをするアリス。
そして、両手を横に伸ばし一回りして止まる。
「ふふん、全てオレのオーダーメイド!今着てる服もナーシャの服もカルラの服も、他の人形のもナ!」
「ほぇー…」
「更に!!全ての服には、オレのロゴマークがついてんゼ!」
口を開けている私を見て、まだ信じてないと思っているのか、アリスが続きを話す。
「ロゴマーク?どんなの?」
「へへー。ナーシャ、見せてやりナ」
「はっ。これだ」
ナーシャが軍服を脱ぎ、下着だけの姿になる。
この子には恥じらいがないのかしら?
ナーシャは軍服を裏返し、私に渡してくる。
アリスのロゴマークかぁ…どんなものなのかしら。
渡された軍服の裏には、髑髏姿の兎のロゴマークが付いていた。
「こわっ!?」
そして、蘇るアリスとの出会いの記憶------。
「何故かしら、兎を見ると震えが止まらないわ…」
「ん?」
身体が小刻みに震え出す。
アリスは分からず、首をかしげている。
「んで、どうなんだョ?」
「……やっぱりダメよ…そんな余裕、家にはありません」
「ちぇー…ま、そんな事もあろうかと!」
アリスはてててーと走って、何も無い壁の前に立ち、手を触れる。
「作っておきました」
ぷしゅーーー。
扉の開く音が響く。壁に見えた扉は横にスライドし、その先には薄暗い部屋があるのが見える。
「なにやってんの」
「てへっ」
「てへっ…じゃない!!なにやってんの!?」
頭にコツンと拳をやり、片目を閉じ可愛く舌を出す。
「いゃぁ、話したら絶対断られると思ってョ…作っちゃった」
作っちゃった、じゃないわよ!!なによ!その最後に星がつきそうな喋り方は!?
てか、作ったって、え、どうやって!?
あの壁の向こうは、もうお隣さんの所なのにどうやった…はっ!?もしや…ナーシャとカルラを使って隣人さんを…アリス、あんた…!
「自首しましょ…アリス」
「おーけー、全く別の考えに行き着いた事はオレにも察せたゼ…」
「だって!あの壁の向こうはお隣さんだもの!!」
アリスはヤレヤレだゼと、ポーズを取る。
ムカつくわね…。
「これを使ったんだョ」
そう言ってアリスは、懐から木製のミニチュアハウスを取り出した。
「ててててっててー。にんぎょーべやー」
間延びした声で喋る。
そして、アリスは人形部屋の説明をしだす。
「これはナ、オレサマが開発した…いつでもどこでも、取り付けるだけですぐに人形のための制作部屋が作れるって魔道具だゼ!貯蔵も可能であール!!」
「へー、すごいわね!…ん?なら、制作部屋作らなくていいじゃない」
「いやー、二つあったらなんか便利じゃネ?って思ってサ!」
「馬鹿なの?…まぁ、いいわ。それより、中どうなってんの?」
ヒナミはアリスを冷めた眼で見つめ、中が少し気になるのか、ソワソワしだす。
「なんだ、結局気になんのかョ」
「う、うっさいわね!いいじゃない」
ヒナミはそう言って、人形部屋に入る。
薄暗い部屋の中にぼんやりと灯りが灯り出してくる。
そして、ヒナミの前に灯りが来た所で、ヒナミは絶叫する。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!???」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!???」
それにつられて、部屋の中にいた『何か』も絶叫する。
「あー、言い忘れてたけどその部屋の中…って遅かったナ。ははっ」
アリスはそう言って笑う。




