演目二:アリス
ある昼下がり、草原が広がる場所。そこに一人の少女がいた。
名はヒナミ・メリー。
黒のロープ姿で肩にかかるくらいの黒髪に鍵の形をしたヘアピン。鋭い赤い瞳。可愛い顔立ちだが常に眉に皺を寄せているため、その可愛さも半減している。
彼女は鬼気迫る表情で、何かを唱えている。
「我、ヒナミ・メリー、天と地を支配せし者よ、我が前に姿を現し、契約を結べ」
唱えた終えた瞬間、草原に魔法陣が浮かび上がる。魔法陣は眩い輝きを放ちながら------
壊れた。
「まっ、またぁぁ!?どうしてよ!!何が足りなかったっていうの!?」
もうほとんど召喚用魔法書に書いてある召喚魔法の詠唱は試したけど…どれも失敗…。これも失敗したし…。これじゃ、復讐なんて出来ないじゃない…
「どうしよう……ん?」
私は、魔法書をペラペラめくっていると、ひっついて重なってるページがあるのを見つけた。
「うわっ…これ完全に引っ付いてんじゃない…」
隙間がないか探したが、完全に閉じていた。
太陽に透かしてみると、僅かだが何か透けてみえる。
「ん、んー…?き…かな?んで、ん?かな…!!禁!?」
これだわっ!私は急いでヘアピンを取り、先端を取り外す。
先端を取り外すと、中から小型のナイフが飛び出してきた。
私はページが破けないように慎重に切り裂く。
「…ふぅ…!しんどいわぁ…これ…」
閉じていたページを切り離す事に成功した私。
よく頑張ったわね私!
「さぁてと、禁って書いてある程だから凄いもの期待するわよぉ…」
ページの中身を見ると、ところどころ文字が掠れていたり、消えている文字があった。
「何よこれ…これじゃ読めないじゃない…」
どうしようかな…。
「まぁ…どうせ失敗ばかりだし…適当に言葉入れましょ」
投げやりに詠唱することにした。
召喚魔法に頼るのがダメだったのかな…。これで無理だったら…1人で頑張ろう…。
『汝 悠久の時を生きる 人であり人でないもの 狂い 狂え 狂う 幾度の戦場を駆け抜け 狂いし愚者の果てよ 我は望む 汝が力を 其の名は-------』
詠唱を最後まで言い終える前に、魔法陣が浮かび上がる。それは、今までとは違う輝きだった。
「もしかして…成功!!やっ…!!??」
喜ぶもつかの間、ゾクッ!!と背筋に悪寒が走り、立ってるのが不思議なくらいに体が震えだす。
魔法陣の今までとは違う輝きの他に、とんでもないチカラを感じる。魔法陣の輝きは天まで伸びるほどの光と化した。
私は恐怖した。それと同時に強く湧き上がる感情…喜びを感じた。
「ふ…ふふふ、ふ…こ、これほどのチカラなら私の復讐も早い…っ!」
声が震えるのは気にしない。
はやくっ!はやくその姿を私に見せて……!
「……………ごくり…」
光が収まると、そこには------。
「…………………」
背は低く、腰まである長い金髪。どこかあどけない幼顔に桃色のくりくりとした大きな瞳。上は淡い水色のドレスコートを羽織り、下は短パンニーソで明るい茶のロンファーの女の子が呆然とした様子で佇んでいた。その傍らには、竜の形をした人形が転がっていた。
ん、んー!?こ、こども…!?どうして!!??失敗したの!!??あんな思わせぶりな演出しておいていうか幼児誘拐しちゃった!?
叫びたい気持ちを抑え、魔法陣から現れた女の子に話しかける。
「…や、やぁお嬢ちゃん!お嬢ちゃんが…私の召喚魔法に応じてくれたのか…な?」
女の子は呆然とした様子から、ハッとなり、慌てた様子で辺りを見渡していた。
そして転がっていた竜の形をした人形を見つけると同時にペタリと脱力したように座り込んだ。
無視かよ!なんて言わず私は極力穏やかな声でもう一度話しかける。
「お、お嬢ちゃん…?お嬢ちゃんが…私の召喚に」
「さっきからお嬢ちゃんお嬢ちゃんうるせぇぞ。身体バラバラにすんぞ?」
……………………。
口悪ぅぅ!!!あ、この子めっちゃロリボイスやんなんて思ってたら、とんでもない事言っちゃってるよ!!!怖いよ!!
いやまて、これは私の聞き間違いかもしれない。焦ってたからな、うん。焦ってたから聞き間違えたん----
「おぅ!おめぇここどこダヨ?5秒待つぜ!答えねぇと挽肉確定ナ!」
だ………聞き間違えじゃなかったよ…。
てか…え、ちょ…5秒…んぇぇ!!?
「へへっ!考えてると死んじまうぜ!」
残念ロリボイスちゃんはそう言うと、私がいる場所に向かってドロップキックをくりだしてきた。
急いで飛び退くと、残念ロリボイスちゃんはニヤニヤしながらこちらを見ている。
5秒どこいった…。