演目十九:決着
ヒナミside
飛び散るヤマガミだったもの。私達はただ呆然と見る事しかできなかった。
そんな私達に目もくれずに、ボサボサの白い長髪に犬耳と尻尾を生やした女性…カルラがアリスの元へとやってくる。
「アリス様ァ!見てくれたか!?あたしの大技!!」
「オゥ!さすがオレのお気に入りだゼ!」
「へへっ」
カルラは尻尾をちぎれんばかりに振っている。頬を少し染めはにかむ。
そして、ナーシャをチラ見し、ふっと鼻で笑い勝ち誇ったような顔になる。
「っ!?…おのれカルラァっ!!」
「ハハァッ!この場で殺ろうってか!いいねぇ!白黒つけんぜぇ!」
そう言って二人は再び喧嘩をしだす。
呆然としていたヒナミはいち早く正気に戻り、慌てて仲裁に入る。
「ちょっと落ち着きなさいよ!二人とも!!…アリスあんたも何か」
「おー!面白れぇナ!やれやれー!」
言いなさい、と続けたかったがアリスは二人を煽っているだけだった。
「止めんか!!」
ぺしっと、アリスの頭を叩く。
「あてっ」
「まったくもう……っ!?」
殺気!?何なの…この肌を刺すような殺気は…。一体どこから…。
出処はすぐに分かった。
「ヒナミ…貴様!我が主に対してその暴挙、見過ごせぬぞ」
「おいおーい、アリス様になぁに手ぇ出しちゃってんのかなぁ?」
ですよねー。
それにしてもこいつら…っ!アリスの事になった途端、喧嘩やめやがって!
私の仲裁は無視した癖にっ!!
「まぁ、落ち着けョ!ヒナミ」
「落ち着いてるわ!てか、私じゃないわよ!!あの二人を止めなさいよ!!」
「うん?じゃれ合いなら収まってんだロ?」
じゃれ合い!?あんな剣呑とした状態を!?
「それより…オイ、ジョーズ!いつまでも呆けてんじゃねェぞ!!」
そう言ってアリスは呆然としているジョーズさんに向かって飛び蹴りを決める。
「ぐぼぉっ!?」
ジョーズさんは体をくの字に曲げ、地面に沈む。
「おきたぁ?」
そしてそこに、アリスのロリボイスが炸裂する。
これまでの一連に無駄がなかったわね…。
「ぐっ…うぉぉっ!…なっなぜ、私は倒れているんだ?」
あ、ついでに記憶まで飛んでるわね。黙っていよう、
「あ、記憶まで飛んでるわ…黙っていよう」
「え?きみ…」
アリスさん口に出しちゃったよ。ジョーズさん混乱しちゃってるよ。
「そんなことより!!ジョーズ!オレ達はここで帰るからョ!他の冒険者共連れてさっさと帰んナ!」
「え?あ、あぁ…っ!ごほん。アリス、今日は本当にありがとう。君がいなければ」
「あー!そゆの後でいいからョ!さっさと行きナ!!」
アリスは両耳を手で塞ぎ、あーあーと言っている。
それを見たジョーズさんは、ふっと笑い、他の冒険者達に声をかける。
続々と呆然としていた冒険者達が我に返り、緊張が溶けたのか地べたに座り込んだり、泣き崩れる者もいた。
そして、ジョーズさんは冒険者達を連れ帰っていく。
それを見届けた私は、アリスの方へと振り向き、声をかける。
「あっという間だったわね…。災害救の魔物をこうも容易く倒しちゃうなんて…ふふ」
私はそういい、小さく笑う。
「さっ!私達も帰りましょうか」
と、アリスに声をかけるが、アリスは何を言ってるんだコイツはみたいな顔をしている。
「何を言ってるんダコイツは?」
「本当に言いやがったわねこんちくしょう…」
まさか、そのまま言われるとは……ん?
「え、ちょっとまって?ヤマガミ倒したんだし、帰るんじゃないの?」
「ん?気づいてねェのか…。ヤマガミのやつ、再生していってるゾ?」
「…え」
「だから今から」
「まって!!!」
説明しているアリスの声を私はでかい声で遮る。
「な、なんだョ?」
「いやいやいや!カルラの攻撃で死んだんじゃないの!?」
「んー、オレもそう思ってたんだがヨゥ…、どうやら完全に消滅させないと死なねェみたいだな!アッハッハッハッハッ!」
「笑い事か!?どうすんの!?」
「そんなものは決まってんゼ!」
アリスは腕を組み、笑を浮かべる。
「オレサマのコレクションに加わってもらうゼ」
「!?」
禁断の魔道具、素体人形を使った人形作り。アリスが人形になる事で使用可能となったアリスのオリジナル人形。
「作る…と言うのね」
「あぁ、そのためにナーシャ!カルラ!落ちたヤマガミの破片、全部集めてきナ!!」
「はっ!!」
「あぃよー!ナーシャより多く集めてやんぜ!」
「抜かせっ!!」
二人は火花を散らしながら瞬時に駆け出す。そしてすぐに姿は見えなくなった。
「二人ともまた…はぁ」
「生前からだからよォ、しょうがねェさ」
「……」
生前。ナーシャやカルラはなんでアリスの人形になろうと思ったのかな…?
………まぁ、考えたってわかんないわよね。いつか話してくれるのを。
そして、待つこと数十分。
アリスとヒナミの前に、ヤマガミだったものが積まれている。
途中再生仕掛けたのか、二人から再生を阻止したような跡があちらこちらについている。
「これで全てか…」
「はっ!」
「ちぇっ…ナーシャと同じ数とかよぅ…」
「引き分け…か。次は負けんぞ」
「んじゃ、さっさと始めるかナ」
素体人形を手に持ったアリスはどこからともなく取り出した筆で素体人形に『亀』と文字を入れ、積まれたヤマガミの破片に向かって投げる。
投げられた素体人形はそのまま、ヤマガミに当たる。
当たった素体人形の顔に、不気味な口が浮かび上がる。
浮かび上がった口で、素体人形はヤマガミに食らいつく。
ズズズ、ズズズと何かを吸うような音が素体人形から聞こえる。それは、ヤマガミを啜る音だった。素体人形は啜る事に色が付いていき、ヤマガミはだんだんと小さくなっていく。そして、最後には小さくなったヤマガミを一気に飲み込む。
けふっと軽く漏らし、地面に落ちる。その頃にはもう、素体人形はヤマガミの姿形をした人形となっていた。
アリスは落ちたヤマガミの人形を拾い、ニヤっと笑う。
「クリア…だナ。くふっ…コレクションの仲間入りだ」
そう言い、アリスは更に笑うのだった。




