演目十二:竜
アリスside
アリス一行はギルドマスターについて行くこと数分。厚い扉の前に着いた。
「…ここはかつて、賭け金で犯罪者同士で争わせていた場所だ」
「へぇ」
アリスは我関せずと、適当に答える。
「ふっ。肝が座ってるのか、ただの馬鹿なのか分からないな………このくらいでいいだろう」
ギルドマスターは真ん中まで歩くと振り返る。そして、背にある二本の大剣を軽々と扱う。ビュンビュンと風を切る音が闘技場にこだまする。
「ルールは簡単だ。一体一の戦い、どちらか一方が先に敗北を認めるか戦闘不能になるまでだ!…こちらはもう準備は出来ているが、君は準備しないのかね?」
「…あぁ、今からやるョ」
オレはそう言って、コートにある竜と書かれた人形をひとつ取り出す。
「ギルドマスターさんヨゥ…アンタ…竜は斬ったことあるかい?」
二本の角を生やし、黒い鱗で全身を覆った竜。赤い瞳に鋭い牙と爪。
「竜…とな。生憎と大型竜とは出会ったことがなくてね。せいぜい小型のワイバーンだけだよ。まぁ、どれも一太刀で終わったがな」
「へっ。そいつァ、よかった」
アリスは黒い竜の人形に手をかざす。そして、独り言のように喋り出す。
「これを…殺すのにオレのコレクションの三分の一持っていかれたからナ…」
人形に、不気味な魔力の塊がまとわりつく。それはやがて、アリスを覆うほどの魔力の嵐となり、闘技場に魔力の風が吹き荒れる。
「その分、それだけの価値が、こいつにはある」
嵐が止み、そこに現れたのは------
「増悪に塗れし暴虐の竜、グラニール」
『ギュァァァァアァァァァァ!!!!!!!』
先程の人形よりも禍々しい魔力の塊を纏った、巨大な竜。
ギルドマスターの顔には冷や汗が滲んでいる。
「ギルドマスター…アンタにこいつが切れるカ?」
ギルドマスターside
まさか、これほどとは…!!
勝てない、逃げろと本能が叫んでいる。
手は震え、剣先がブレる。息をするのも困難なくらい重苦しい。
「どーシタ?こないのか、ナ?」
「………っ」
彼女が右手を上げ、振り下ろす。
それだけで------
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!!??」
あの巨大が一瞬で目の前に現れ、拳を振り下ろしてきた。
なんとか躱したが、風圧だけで吹き飛ばされる。
なんだこれは!?格好良く登場して、ミステリアスな雰囲気漂わせて、ギルドの女性達に少しでもいいところ見せてやろうと思ってたのに…なんなんだこれはぁ!?
「ハーッハッハッハッ!ざまァねぇな!これならグラニールの仕込みを解放するまででもないナ!」
仕込み…?仕込み解放のことか!?これで人形使いだというのか!?ありえないだろ!!
「山切り、大したことはないナ」
………。
それは少し頭にくるな。それは私の努力の結晶、看板を貶されるのは…。
「少々…おイタが過ぎたな」
私は二本の大剣を重ね合わせ、ひとつの大剣にする。大剣に魔力を灯す。黄色に輝く大剣。
私目掛けてきた拳に、大剣をぶつける。
「二対一刀…一刀上げぇぇぇぇ!!」
鍔迫り合い状態となる拳と二対の大剣。
「うぉぉぉあぁぁぁぁぁぁあ!!!」
徐々に私の大剣が竜の拳を押し上げつつある。
「……ほぅ。人の身でこのグラニールの拳に対抗しうるとはねェ…なら、これでどうだ」
奴が何か喋っているが、そんなものを気にしてる余裕はない!!少しでも気を逸らそうものなら一発で粉々確定だな…。
というか…ん…?おっ、おおぉ!!??何やら拳の力が弱まったぞ!!今がチャンス!
ギルドマスターは大剣を振り上げ、弱まった拳を打ち上げる。
しめたっ!今がチャンス!ここで術者を倒す!!!
「覚悟はいいなぁ!?」
飛び上がり、二本の大剣を振りかざすギルドマスターに、不敵な笑みを浮かべるアリス。
大剣はアリスの頭上をもう少しで届く。
やった!!これで私の勝ちだぁぁぁ!!
と、言うところでひとつの影が目の前に飛び込む。
キィンッ!!
鉄と鉄がぶつかったような音が聞こえる。
「………へ?」
呆けたギルドマスターの前に、手刀で二本の大剣を防いでいる軍服を着た艶のある黒髪をなびかせた女性…ナーシャがいた。
「そう易々と我が主の体に傷を付けれると思うなよ…童」
わ、私の攻撃が武器も何も持たない女に防がれた!?しかも、なんだこの感触は!まるで、鉄の塊と対峙してるみたいじゃないか…っ!!
「ぐっ…!ふぅ…。君はルールを破るのかね?いきなり乱入とは。いくら自身の主が危機だったとしてもそこに割り込んでくるのは、少々不躾が過ぎるぞ。それに、これは明確なルール違反だ」
「………?」
「忘れたのか?この勝負のルールを。一体一だと言っただろう?」
「いや?覚えてるけどョ。オレは別に何もルールを破ってないゼ?」
「ふっ。甘いのだよ、君が破ってなくてもそこの従者が手を出した事でそれはもう、ルール違反なのだよ」
勝った。そうギルドマスターは思った。次の一言を聞くまでは------
「アァ、ナーシャはオレの人形だから」
「……は?」
「オレは最凶の人形使いだぜ?人形が一つだけなんて有り得るかよ」
「ま、待ってくれ!そこの女が……人形!?そんなわけがあるかぁ!!」
「残念ながら本当なんだョ!自動殲滅型人形黒犬のナーシャ…これがこいつの正式名だゼ」
「自動…殲滅型」
「さて…そろそろナーシャのネタばらしも終わったし、ナーシャ!グラニールに合わせナ!」
「はっ!」
アリスは両腕を横に広げ、前へと降り両手を交差させる。
その動きに合わせ、黒い竜グラニールは体を回転しながらギルドマスターへと突っ込んでいく。
「うそっ、ちょまっ!!」
グラニールの頭部がギルドマスターへと当たる。そして、そのままギルドマスターを巻き込み回転しながら上へと上昇。
「ぐおぉぉぉぉ!?!?」
真上にまでギルドマスターをやると、グラニールは回転をやめ、空中へギルドマスターを放り出す。
アリスはそれを見ると、ナーシャへ声を掛ける。
「ナーシャ」
「はっ!何時でも行けます!」
「オーケー!!」
青白い魔力を右手に宿したナーシャ。
アリスは交差させている腕を下に振り下ろす。
振り下ろすと、グラニールは一回転し、尻尾で今度はギルドマスターを叩き落とす。
その下にはナーシャが青白い魔力を纏った右手をだらんとして構えている。
「やりナ。ナーシャ」
叩き落とされたギルドマスターがナーシャへと近づく。
「……撫切・殲」
ナーシャが右手をギルドマスターに当てると、青い光が闘技場を埋め尽くす。
光が収まると、そこには粉々に砕かれた闘技場と、黒焦げ状態のギルドマスター。無傷なのはナーシャとアリスの二人だけである。
二人はガタッと、崩れる音が聞こえたのでそちらを見ると。
「ゲホゲホッ…」
土やホコリで汚れたヒナミが出てきた。
「ん?おぉ!ヒナミ、そこにいたのかョ!どうだい?グラニールとナーシャの合わせ技はョ!!」
そうアリスが言うと、ヒナミはものすごい笑顔で------
「やりすぎなのよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
崩れた闘技場にヒナミの叫びが響く。




