演目十:ギルド②
ヒナミside
「ヒナミ、単刀直入に聞くわ」
「はいはい」
「あの子、私にくれないかしら?」
「はいは…」
何言ってんのこの子。空返事で答えてたら、とんでも無いこと言っちゃってるわよ…。
「いいのね?ありがとう!!」
「はっ!?いやいやいやいやっ!!ダメだから!!」
「…チッ。………そうそう!ヒナミ、貴女噂になってるわよ」
え、今本気で舌打ちしなかった?てか、噂って…。
「噂って…どんな噂よ?」
「んーとねぇ、幼女を無理矢理連れ回しているとかぁ」
「!?」
「酒場で幼女を餌に、男どもから金品や身包みを剥いでたとか」
「………………」
「他にもあったけど…忘れちゃったわ!…て、あれ?ヒナミ?ちょっ、ヒナミさーん!?」
ヒナミは真っ白な灰と化していた。
「へへっ、この歳で幼女誘拐犯か…」
「ちょっと、ヒナミさん貴女この歳って言うほどの歳じゃないからね?あと噂だからね?これ全部噂だからね!?」
哀愁を漂わせるヒナミに、必死でフォローするキャミー。
「いやでも…あ」
「あっ、て何かしら」
「よくよく考えれば、アイツ私が召喚して契約も結んであるんだから、連れ回すなんてのは当たり前よね。それに男だし…幼女じゃないし男だしセーフ。つまり私はセーフ」
急にブツブツと独り言垂れ流すヒナミに、キャミーはどん引いていた。
「ふははははははっ!!そうよっ!私は犯罪者でもなければ予備軍でもないわっ!!」
「ヒナミ!?アンタ恥ずかしいから一回落ち着きなさいな」
何かが乗り移ったかのように騒ぎ出すヒナミ。
それを何事かと見てくる他の受付や冒険者達。
「ふはははははは………ふぅ。スッキリしたわ」
「そ、それは良かったわね…」
と、そこで、若干不機嫌なアリスがやってくる。
「いつまでオレを待たせるんだョ?」
と、一言言い頰を膨らませ、怒ってますよアピールをする。
こいつ、かわ…あざと可愛い…。
「ごめんねぇ?待たせちゃってぇ」
目線をアリスに合わせ、間伸びした喋り方でアリスに対応するキャミー。キャミーはそのままアリスの頭に手を置き撫でる。
膨らんだ頰は、徐々に萎んでいきフニャッとした顔になる。
ちょっとアリスさん?私の時と対応がまた違うんですけど?ツンデレ?もしかしてツンデレなのかなぁ?
「…おっと、気持ちよくて忘れる所だったゼ。ヒナミ!」
「ん?」
「ん?じゃねェよ!いいかげんオレをここに連れてきた意味教えろョ!」
「あぁ、忘れてたわ」
「忘れてた!?」
「あ、そうそう。私の冒険者カードの更新だったわ」
「あらぁ、もうそんな時期なのね?」
「うん、そうよ」
ヒナミは、懐から黒いカードを取り出す。
「んじゃこれ、お願いね」
「はい、承りました」
キャミーは、受け取ったカードを後ろにある、石版に乗せる。
カードが乗った石板は輝き、空中に文字が浮かび上がる。
ヒナミ・メリー ランク S→SS
力 A→A A
体 A→S
技 SS
速 B→ A
運 E
「まぁ!ヒナミ、おめでとう!!ランクが一つアップしてS Sよ!それに技と運は変わらなかったけど他のも上がっているわね。後もう一ランクで、世界に五人しかいないSSSランクの仲間入りね!!」
大声ではしゃぐキャミー。その声を聞いた冒険者達がこぞって集まってくる。
「まじかよ、もうS S!?つい最近Sになったばっかじゃねぇのかよっ」
「ヒナミさんさすがー!!」
「ついにこのギルドで初めてのS S…」
「俺、もうチョッカイかけるの辞めようかな…」
ふはははは!!これよこれぇぇえ!!私が求めてたのはァ!
実際には伸びてないが伸びてると錯覚してしまうほどに有頂天な私。
有頂天なまま、アリスに感想を聞くために顔を向ける。
「どうかしら、アリス!これで私の凄さも少しは分かったかしら?」
「ん…?あぁ、内容は分んねェがこのオレサマを召喚出来たんだから、当然だろ?」
「くっ…!次はアンタの番よ!」
「お?オレもするのか?カードないんだが」
「あー、アンタはここのギルドに登録。一応それも兼ねて来たのだから」
「ふーん。分かったゼ」
「手な訳で、キャミー!この子の登録手続きお願いしていいかしら?」
「はいはい、任せてちょうだい。アリスちゃん、こっちに来てくれる?」
アリスはキャミーの前に行く。
キャミーはカウンターの下から紙とペンを取り出す。
「それじゃ、ここに名前と年齢、身長と体重とか職業などの必要事項を書いてねぇ。分からなければ空欄でも大丈夫よぉ。字はかける?」
「オゥ!書けるゼ!」
「ふふ、じゃあ書けたらまた私のところに持ってきてねぇ」
アリスはキャミーから紙とペンを受け取り、私の所に来る。
書くための台と椅子を用意してやると、そこにちょこんと座る。
そして、カリカリと書き出す。
「ふむ。こんなもんかナ?」
「どれどれ?」
不思議アリス 四五十歲
身長 一三十 体重 ?
職業 人形使い
出身 ?
「………は?」
四五十歲…?いやいやいやいやいやいや!お巫山戯にも程がありますよアリスさん!!
「ちょっとアリスさん?この四五十歲ってのはちょぉぉっとお巫山戯が過ぎましてよ?」
「んだおめェ…急に気持ち悪い喋り方しやがって…てか、お巫山戯じゃねェぞ?」
「いやいやいや!ありえ」
「それは本当だぞ、ヒナミよ」
私の言葉を遮り、肯定する発言。
発言したのはナーシャだった。ナーシャはそのまま私の横を通り過ぎ、アリスの側に立ち、喋り出す。
「我が主とは百歲の頃からの付き合いだからな」
「…!?」
「まァ、オレ………『人』じゃねェしな」
「え」
「さってと、書き終わったし出すかナ。行くぜナーシャ!」
「はい!」
駆け出すアリスとナーシャ。
そこでハッとなり、慌てて叫ぶ。
「ちょっ!なにその大事そうな事サラッと言ってんのよぉ!?てか、その前にせめて歳誤魔化せぇぇ!!!」
「ありがとねぇアリスちゃん。…ふむふむ、ふしぎアリス、十歲、身長一三十、体重と出身わからないと…。んで職業が人形使い、ね。ハズレ職かぁ…ま、ヒナミがいるなら大丈夫…かな?」
キャミーがブツブツと1人で呟いている。
ふぅ。危なかったわ…。危うくあの年齢で行くところだったわ。
独り言を辞めたキャミーは手際よく作業を行っている。石版に手をかざし、空中に浮かぶカードにアリスの名を刻んでいる。
名を刻まれ終えたカードは、垂直にキャミー手に落ちる。それを手に取り、顔をアリスへと向ける。
「アリスちゃん、こっちに来て貰えるかしら?…ステータス情報を記載するから、カードに触れて貰える?」
「…こうか?」
アリスがカードに触れる。石版が輝き、空中に文字が浮かび上がる。
浮かび上がった文字をみたキャミーの顔が驚嘆に染まる。
「なっ、なにこれ!?」
「どうしたの!?」
「ヒ、ヒナミ…この子一体何者なの…?」
不思議アリス ランクSSS
力 error
体 error
技 error
速 error
運 error
拝啓、ランクがひとつ上がって舞い上がっていた私。後にこうなることが予想出来ていたのならば、あんな自信満々な顔でドヤっていた私を殴っておくれ…。




